第300話 帰る場所
「魔族領はどうじゃった?」
「まぁ……………それなりには楽しめたな」
「あそこで過ごすのは骨が折れたじゃろう?なんせ色々な意味で癖が強い場所じゃからのう」
「行ったことがあるのか?」
「大昔の話じゃよ。今ほど魔物は強くなかったが、それでもなかなかにスリルのある場所じゃった」
「ん?何故、今と昔じゃ魔物の強さが違うと言い切れるんだ?最近は行っていないんだろう?」
「たまに無謀にも魔族領へと行く冒険者がおるんじゃ。大抵は帰ってこないが運良く逃げ帰った者から話を聞くと出現する魔物のランクが昔とは違うことに気が付いてな」
「そうか」
「で?シンヤはあそこで一体どんな冒険をしたんじゃ?」
「それは一ギルドマスターとして訊いているのか?それとも個人的な質問か?」
「両方じゃな」
―――――――――――――――――――――
「よし、お前ら。一旦手を止めて、こっちに集まってくれ」
「うわ〜き、緊張してきた」
「はぁ……………周りの視線が突き刺さって気持ち良…………おかしくなりそう」
パーティーの翌日。俺はシャウロフスキーとモロクを連れて訓練場を訪れ、そこで戦闘訓練をしている面々を呼び寄せた。
「俺達が魔族領から帰ってきた日の全体会議で言ったと思うが、今日からこいつらがお前達の部隊に所属となる。これからよろしく頼む」
「シ、シャウロフスキーと申します!よろしくお願い致します!」
「私はモロク。元魔王よ。よろしくね〜」
「おい、モロク。仮にも新人なのに態度が軽すぎるぞ」
「はぁん!シンヤ様からのお叱りだわ!も、もっと!もっと私を叱ってちょうだい!」
「…………やっぱり、こいつには何を言っても無駄だな」
叱られているにも関わらず、恍惚の表情を浮かべて悶えるモロクに約1名を除いてドン引きの部隊員達。そして、まずはその1名が固まったままの部隊員の先陣を切って、最初に挨拶をした。
「シャウ、モロク!よろしく!」
「あっ、サクヤさん!よろしくお願いします!」
「あら、サクヤじゃない。あなた、この部隊だったのね」
サクヤの声が聞こえた瞬間、少し緊張から解放されたシャウロフスキーと普通の状態に戻ったモロクが反応した。するとそれを皮切りに硬直から戻った部隊員達が次々と挨拶をした。
「私は遊撃部隊隊長のカーラよ。よろしくね」
「私は副隊長のニナだよ!よろしく」
「私は隊員のシスターです。よろしくお願い致します」
「同じく隊員のルーン……………よろしく」
「同じく隊員のノールだ!よろしくな!」
「同じく隊員のモモ。よろしくお願いします」
その後、和気藹々と交流を始めた彼女達を見た俺はそっとその場を離れ、訓練場を後にしたのだった。
―――――――――――――――――――――
ここはシンヤが今いる世界でもましてや彼が元いた世界でもない、全く理の違うどこか。そこは一切の音も聞こえない真っ白な空間であり、ある1人を除いては何もなかった。そして、その1人は俯いていた顔を上げると何もない空間に向かってこう言った。
「あなたにはまだ試練が残されている…………………ごめんなさい。あなたは何も悪くないのに」
触れたら壊れてしまいそうな程、儚げな印象を抱かせるその者は悲しそうな表情である一点を見つめていた。しかし、そこには彼女以外は何も存在しておらず、気に掛けてくれる者など皆無だった。
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