第297話 石像
「ん?ちょっとあんた」
「はい?何でしょうか?」
「仕事中、手を止めさせて悪いな。ちょっと聞きたいことがあるんだ……………ここって、つい2週間程前に魔王の襲撃を受けた国だよな?」
「はい。そうですが」
「やっぱりそうだよな………………いや、実は友人に面白いものがあるから、ぜひ行ってくれと言われて遠路はるばる、こうしてやって来た訳なんだが」
「それはそれは……………長旅、ご苦労さまです」
「いやいや。それはそうと、何だこれは?本当に魔王の襲撃を受けたのか?」
「ええ。あの日のことは私もよく覚えております。なにせ国中が大慌てでしたから」
「そうだよな。にしては綺麗過ぎないか?たった2週間でここまでになるのか?それとぱっと見、魔族の数も多い。これが国内に住む魔族の数だとしたら、魔王の魔の手から逃げ延びた者がいるってことか?」
「破壊された国内の建造物や公共物、その他諸々に関しましてはとある冒険者の方々がたった数分で修復して下さいました。そして、魔王による死傷者の数ですが、なんと奇跡的に0でした」
「0!?」
「ええ。とんでもないことですよね。まさに奇跡です」
「ほ、本当のことなのか………………まぁ、それはいいや。しかし、破壊されたものをこれほど綺麗にそれも数分で修復するなんて聞いたことがないぞ。魔王による被害だから、尚更とんでもないものだっただろうしな」
「ええ。特に国の中心部は酷かったです。ところどころ地面が陥没していましたし、石畳みの床は全て剥がされていました。さらにシンボルである噴水に至っては上半分がなくなり、私共が駆け付けた時には割れ目から水が四方八方へと飛び散っている状態でした」
「へぇ〜そりゃまた」
「そこ以外の場所も大なり小なり、被害を受けていました。私共はせっかく新しい体制になったというのに目先の復興に頭が痛くなりかけたのですが、そこで冒険者の方々が颯爽と現れて修復して下さったのです。あれは凄い魔法だったな〜」
「間近で見たのか…………………ちなみにどんな奴らだったんだ?」
「詳しくは吟遊詩人の詩を聴いて頂くか、"魔王がやって来た日"という本を読んで下さい。それらにはあの日のことが事細かに記されておりますので退屈はなさらないかと」
「ちゃっかりしてるな。その本、この国原産なんだろ?」
「ええ、もちろん。おかげ様で飛ぶように売れております」
「だろうな。そういえば今更なんだが、もう元の生活には戻れたのか?こんだけ活気があるということは大丈夫そうだが」
「むしろ、以前よりもよくなりましたよ!この国は今、確実に変わり始めています。それも良い方向へと。私も騎士団の一員として、これから警備の巡回に向かうところなんです」
「っと、長々と悪いな!最後に1つだけ教えてくれ!これだけは見ていった方がいいものってあるか?」
「それでしたら、中心部に向かうといいですよ。そこに面白いものがありますから」
「そうか!ありがとう!」
つい2週間前まで"ギムラ"と呼ばれた国があった。その国では国民へ過度の圧政を強いられ、王とは名ばかりのボンクラ息子が大臣の傀儡と化していた。これに対して国民達は1日も早く元の生活へと戻りたいと常に願い、日々を懸命に生きていた。そんな中、突如魔王が襲来し、その体制も終わりを迎える。国を私物化し、好き勝手にやっていた王族や貴族は一掃され、それと共に新たな国の体制が確立されたのだ。
「お、ここが中心部か!ん?何だ、この石像は」
そして、"ギムラ"は新しく生まれ変わり、それを象徴するものとして国の中心部である"勇魔広場"には計5つの石像が噴水を囲むようにして建てられた。そのうちの1体の石像から名前を拝借し、今この国はこう呼ばれている…………………異種族共生国家"ネーム"と。
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「おい!こいつらがあの魔王の襲撃を止めた奴ららしいぞ!」
「知ってるよ。あれだろ?邪神を討ち、世界を救ったとか言われてる冒険者と一緒の奴なんだろ?」
「らしいな。いくら俺達があまり他人には興味のない魔族、それも冒険者ではないとしてもそれぐらいは頭に入ってるからな」
「にしてもこんなところまで"ギムラ"での一件が届いているとは………………こりゃあ魔族領全体に知れ渡るのも時間の問題だな」
「"ギムラ"じゃなく"ネーム"な」
「おう、そうだった。もう新しい国ができているんだったな」
「そうだぞ。ちなみに今、かなり話題の国だから俺は今度行く予定だ」
「マジかよ!ずりぃな!」
「一番の目当てはやっぱり石像…………それもモロク像だな。魔王の真実を吟遊詩人から聞いた時から俺は彼女の大ファンだ」
「そうか。俺は彼女のことは正直あまり好きにはなれんな……………それよりもサクヤちゃんの方が気になるな」
「それって勇者じゃねぇか!この裏切り者!」
「なんだと!」
「ちょっとあんたら!喧嘩なら店の外でしな!こちとら、いい迷惑だよ!」
"ギムラ"での一件は本や吟遊詩人、観光客を通じてどんどん魔族領の端から端まで広がっていった。そこで挙がるキーワードは勇者、魔王、英雄、新国家などなど。基本、他者に興味を示さない魔族であるがどういう訳か、この一件に関しては毎度話題に上る程、注目を集めており、彼らの中で確実に何かが変わっていた。それと同時に彼らは隠された魔王の真実を知り、冒険者の間でしか轟いていなかった"シンヤ・モリタニ"という名が一般の魔族達にも広く知れ渡っていったのだった。
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