第284話 奸計

「おい、大臣!一体どういうことなんだ!魔王の存在は迷信に過ぎないから安心しろと何度も言っていたではないか!」


「そうよ!私にも毎晩そうやって慰めの言葉をかけてくれていたじゃない!」


「い、いやぁ、こんなはずは…………………お、おいそこの兵士!このような神聖な場で出鱈目なことを言うでないぞ!私に恥をかかせる気か!」


「い、いえっ!先程、魔王本人が通信の魔道具で連絡をよこしたのでまず間違いないかと」


「まだ言うか!では何と連絡を受けたのか答えてもらおうか!言っておくが今、取り繕ったところですぐにバレるからな!嘘でしたと言うなら、今のうちだぞ!」


「いえ。本当のことなのでお気遣い頂かなくて結構です………………では今から私が受けた内容をお伝えさせて頂きます」


「お、おい!ち、ちょっと待て!今が最後のチャンスなんだぞ!考え直しても……………」


「大臣!邪魔をするな!兵士の声が聞こえないだろ!」


「そうよ!というより何故そんなに焦っているの?」


「い、いえっ!私は焦ってなど……………」


「私が受けたのはこういった内容です……………………"我は魔王である。貴国を襲撃したく遠路はるばる参った次第だ。貴国には何の恨みもないが今日中には滅んでもらうこととなる。我の存在を信じる信じないはそちらの勝手だが、いずれにしても我の凶刃が向けられることは確定しているから否が応でも現実を直視するはめになるだろう。では武運を祈る…………………あ、お情けで10分だけは待ってやる。その間に国民を避難でもさせておくんだな"………………と」


「「「………………」」」


静まり返る王の間。魔王の存在など到底信じたくはないのだが、文言からいってどうやら魔王の存在は確定しているらしく、誰もがこの後に起こる現実を受け入れざるを得なかった。








――――――――――――――――――







「ちくしょー!ふざけやがって!」


「自業自得だろ。むしろ、肋骨が折れただけで済んで良かったじゃないか」


「どこがだ!俺はただ調子に乗ってるあいつらに魔族の強さを教えてやろうとしただけだ!………………いててっ」


「まだ痛むのか?」


「ああ。いくらバカ高い金を払って骨折が治ったとはいえ、他にも打撲や擦り傷はあるからな………………くそっ!」


「だから、俺は止めただろ。これで分かったろ?お前なんかが息巻いたところで勝てる相手じゃないんだよ」


「いいや!俺がやられたのは奴らの中でも記事や映像の魔道具に一度も出たことがない魔族のガキだ!きっと今まで隠し持っていた秘蔵っ子に違いねぇ!それに俺は同じ魔族にやられるのだけはまだ納得できる」


「ん〜なんか俺は違う気がするんだけどな」


「は?」


「これは俺の感想なんだがぱっと見、あの魔族の子供は"黒締"達と知り合って間もないんじゃないか?まだ連中と完全に馴染めているとはいえない感じがしたし。それにあの強さは間違いなく"黒締"程じゃない。おそらく、冒険者ランクでいえば"D"、よくて"C"ってところじゃないか?」


「なんだと!?俺はよくてCランクの奴にやられたってことか!?じゃあ俺と一緒のランクじゃないか!そんな訳あるか!……………いててっ!」


「あまり騒ぐと傷に響くぞ」


「お前のせいだろ」


「はぁ……………つまり、お前は"黒締"に挑む前によく分からん同格の子供に負けたんだ。良かったじゃないか。他のメンバーにやられてたら、今頃お前の命はなかったかもしれないんだぞ」


「さっきの"肋骨が折れただけで済んで良かった"って、そういうことかよ」


「まぁ、奴らに武力で絡んでいって命があった奴はほとんどいないらしいからな」


「けっ……………とんでもない連中だな」


「被害者面をするなよ。悪いのは絡んだ方だろ」


「ふんっ………………そんなの」


そこまで言いかけて男は辺りが騒がしいことに気が付いた。見れば、複数の入門審査官が駆け回っている。そして、彼らはある言葉を国民に向けて放っていた。


「皆さん、急いで避難をして下さい!あの魔王がここギムラにやって来ました!奴はもう間もなく、ここを襲撃してきます!」


「魔王!?」


「とんでもないことになったな……………」


男達は揃って深刻そうな表情を浮かべ、顔を見合わせた。するとそこで何かを思いついたのか、打撲した箇所をさすりつつ、男はニヤリとした笑みを浮かべて、こう言った。


「そうだ。良いことを思い付いたぞ」


「おいおい、何をする気だ?」


「まぁ、黙って見ていろ。今度は失敗しねぇよ」


男はゆっくりとした足取りで歩いていく。その足は城の方へと向かっていた。










――――――――――――――――――










「何っ!?アドム様への謁見を申し出ている者がいるだと!?このくそ忙しい時に何なんだ!」


「はい。何でもその者は冒険者らしく、魔王に対抗する秘策があるとかで」


「すぐに通せ!今はどんな情報でも取り入れるべきだ!」


「かしこまりました!」









「お前が例の冒険者か?何やら、魔王に対抗する秘策があるとか言っていたらしいな?」


「その通りでございます。私の案を用いれば、おそらくあの凶悪な魔王ですら退かせることが可能かと………………ただ、いきなりやってきたよく分からない者の言葉など信憑性があるとは思えないんですが、よろしいのでしょうか?」


「構わん。普段であればしっかりと裏を取った上で動くかもしれないが今はそうもいってられん」


「ありがとうございます」


「うむ。では話せ。時間がないから手短にな。国民のことなどはどうでもいいが、自分達は確実に逃げ延びなければならないからな」


「それが一国の王の言うことかよ………………ボソッ」


「ん?なんか言ったか?」


「い、いえっ!そ、それでは話させて頂きます…………………っと、その前に」


男は思わず零れたニヤリとした笑みを隠そうともせずに話し始めた。


「皆様は邪神を倒した英雄をご存知ですか?」


「それぐらいならば耳には入っているな。確か、"黒天の星"とかいうクランのリーダーじゃなかったか?」


「そうです。シンヤ・モリタニ、通称"黒締"と呼ばれる男にございます」


「で?その者がなんだと?」


「現在、その男がクランメンバーを10人程引き連れて、この国に来ているのです」


「なんと!?………………もしや、お前の案とは」


「はい。その者達を思い切って魔王にぶつけてみるというのはいかがでしょうか?いくら魔王でも世界を滅ぼそうとした邪神を討った者が相手では流石に分が悪いかと。上手くいけば、ギムラから手を引かせられるかもしれません」


「なるほど!そんな手があったとは」


男の案に王だけではなく、周りの者達も納得したのか、しきりに頷く様子が見られた。これに男は内心でガッツポーズをしつつ、ボソッと本音を漏らした。


「何が英雄だ。これで奴らは確実に潰れる。ざまぁみろ」

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