第280話 捕われた者
「おい、ネームがいないぞ!これは一体どういうことだ!」
魔族領にある国の1つ、"ギムラ"。現在、そこを治めているアドム・クリプト王は兵士に向かって怒声を飛ばしていた。
「す、すみません!我々が気が付いた時には既におらず………………最近バタバタしているのもあって、そこまで気が回りませんでした!」
「言い訳はよい!であれば、すぐに探し出して連れてこい!早急にだぞ!」
「はぁ……………無茶を言うな。俺達に八つ当たりされても困る。だいたい目を離したお前の責任だろうがよ(ボソッ)」
「ん?何か言ったか?」
「い、いえっ!ただちに探して参ります!」
「アドム様、少し落ち着かれてはいかがですかな?」
「だがっ……………」
「最近の貴方はどこか焦っておられる。何をそんなに慌てていらっしゃるのです?」
「嫌な胸騒ぎがするんだ。どこからか、狙われているような……………最近、魔王も復活したらしいと
「まだそのようなことを………………私共が何度も言ったじゃありませんか。そんな世迷言を信じてはなりませぬと」
「だ、だが、あらゆるところで噂が立っているんだぞ!それに目撃例もちらほらと出てきて……………」
「大丈夫です。私共がついております。ですので、アドム様は何の憂いもなく、ご自身の為すべきことを優先して下され」
「ほ、本当に任せても大丈夫なんだな?」
「ええ……………万事、私共にお任せ頂ければ問題ありません。私共は常に貴方の味方ですぞ」
「おっ、今日はやけに大人しいな。とうとう観念したか」
城の地下にある牢屋の中を覗き込んだ男がそう言った。この場所には罪を犯した者や王の命令に背いた者、また王の個人的な感情によって連れて来られた者などが収監されている。24時間、常に交代制の見張りがおり、数時間おきに与えられる食事以外はただただ現実から目を背け、寝て過ごす者がほとんどだった。あわよくばと逃走を図ろうものなら、すぐさま捕えられ、世にも恐ろしい罰が下されることは必至。仮に牢屋を抜け出して、見張りや看守を撒くことができたとしても城に常駐する騎士団……………特に団長や副団長に見つかってしまえば命はないだろう。だからだろう。囚人には逆らう気力がなく、基本的に言いつけ通り大人しくしているのは……………ところが、中には例外もいた。つい1ヶ月程前に収監されたとある夫婦は今までの者達とは少々勝手が違っていたのだった。
「……………してくれ」
「ん?何か言ったか?」
「……………俺達をあの子の元に返してくれ!!」
「ちいっ!まだ、そのようなことをほざく気力があったか!」
「お願いよ!ここから出して!それができないのなら、せめてあの子に会わせて!!」
「ええいっ!夫婦揃って、うるさいわ!お前らをここから出すつもりなんてないし、あの小僧には二度と会えん!分かったのなら、大人しく我々の言うことに従え!!」
「自分達のしていることが分かっているのか!各地から罪もない者達を集めて奴隷のようにこき使うなど!俺達は絶対に認めないぞ!」
「はっきり言って滅茶苦茶よ!こんなことが
「不敬なるぞ!発言には気を付けろ!それとお前らはまだ使われてすらいないじゃないか。我々に逆らって、こうして投獄されてしまったんだからな」
「だから、俺達はこうして毎日お前にぶつかることで上で苦しい思いをしている同志達を解放できないかと足掻いているんだ!」
「彼らの方が私達なんかよりもよっぽど可哀想だわ……………お願い。もうこんなことはやめて。全員を解放して」
「ふんっ。牢屋の中でいくら叫んだところで状況は一向に変わらん。お前達の声が届く訳でもあるまいし。むしろ、あいつらの環境は悪くなるかもな……………そうだ。いいことを考えたぞ」
「お、おい!一体何をする気だ!」
「や、やめて!」
「ふんっ。恨むんなら、自分達の無能さを恨め。なんせ、お前達がこちらに楯突いたおかげであいつらが余計苦しい思いをするんだからな………………くくっ。さぞかし、お前達は恨まれることだろう。もどかしいよな?お前達はあいつらを想って行動したが結果、恨まれる形となってしまうんだからな」
「くっ……………俺達のせいで同志達が」
「ううっ、どうしてこんなことに」
夫婦が泣き崩れた様子を見た男はニヤリとした笑みを浮かべながら、牢屋の前を離れ、地下を後にした。去り際、夫婦達の耳には男のある言葉が纏わりついて離れなかった。
「魔族の面汚しめ。他人のことを気にかけるから、こうなるんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます