第279話 従う必要なし

「おい、しつこいぞ。そろそろ離れろ」


「いえっ!僕を弟子にすると仰って頂けない限りはここを離れません!」


現在、シンヤ達はラクゾの街を観光目的で歩いていた……………のだが、街に着いた当初と違い同行者が1人増えていた。というのもシンヤがたまたま助けた少年、シャウロフスキーがどうやらシンヤの強さに惹かれ弟子として旅に同行したいと言ってきたのだ。しかし当然、そんな申し出をシンヤが受けるはずもなく、きっぱりと断ったのだが諦めきれないのか、こうして何度も頼み込んできてはシンヤ達を困らせていたのだった。


「何度も言っているだろ。俺達は魔族領に遊びに来た訳じゃない。もちろん、観光もするが目的は他にあるんだ。そんな中、お前みたいな奴に着いてこられるのは迷惑だ」


「では迷惑にならないように大人しくしておきます」


「戦闘が起こった時はどうするつもりだ?足手纏いにしかならないだろ」


「すぐに身を隠し、邪魔は一切致しません」


「だいたい宿屋はどうするつもりだ?まさか、この為に畳む気じゃないだろうな?」


「そのつもりです。今は全てを投げ打ってでもシンヤ様に着いて行った方がいいと強く思っていますから。はっきり言って僕の中の世界は大きく変わりました」


「本当にそれでいいのか?宿屋はお前のやりたいことじゃないのか?」


「………………実は僕が今営んでいる宿屋は元々、両親のものでした。とはいっても宿屋の仕事は無理矢理している訳ではありませんし、嫌いでもないです。むしろ自分に合っている仕事だとは思います。しかし、それをこのまま続けていてもいいのかと先程強く感じました……………それは全てあなたに出会ったからです」


「………………ちなみに両親は今、どこにいる?」


「それがつい1ヶ月くらい前、宿屋にいきなり押し掛けてきた他国の使者によって、連れ去られてしまったんです。あまりに突然のことで僕は驚いてしまい、何の抵抗もできませんでした。だから、せめて両親が帰ってくるその日まで宿屋を存続させようと今日まで頑張ってきました」


「他国?それは一体なんていう国なんだ?」


「確か、"ギムラ"からやってきたと言っていました。なんでも国を発展させていく上で必要な人材を様々な場所で確保しているとか」


「っ!?なんじゃと!?」


「……………おい、ネーム。お前がくれた情報の中にそんなのはなかったぞ」


「……………すまん。全く知らなかった。まさか、そんなことまでしているとは」


シャウロフスキーの発言に驚く面々。特にイヴとネームは内情を多少は知っている分、驚きが大きかった。


「あの…………どうされました?」


「シャウロフスキーとかいったかの?」


「は、はい」


「妾の名はイヴ……………"ギムラ"の元王女じゃ」


「えっ…………」


「この度は馬鹿共がすまんかった!決して許してくれとは言わん。むしろ、これで妾達の考えも固まったというものじゃ」


「だな。であれば、予定変更だ。今すぐにでも出発した方がいい………………おい、シャウロフスキー」


「っ!?は、はい!」


いきなり雰囲気の変わったシンヤ達に着いていけてないシャウロフスキーはシンヤの呼び掛けに驚きつつも答えた。するとシャウロフスキーを真っ直ぐ見つめたシンヤは少し間を空けてから、こう言った。


「弟子の件はとりあえず保留にしておく…………が俺達の旅には同行してもらうぞ」


「えっ!?な、何故ですか!?」


「お前の両親を助けに行くからだ」











「あれがお前の言っていた人族の男か?なんだ、まだガキじゃねぇか」


「見かけや種族だけで判断しては駄目です!あの男はとんでもない奴なんですから!」


「はっ!お前はいちいち大袈裟過ぎるんだよ!おい、お前ら!いいから、やっちまえ!」


「「「へい!!!」」」


「あっ!?ち、ちょっと!」


「いいから、お前は黙って見ていろ。今すぐ奴の屍を目の前に晒してやるよ」











「ん?何だ、お前ら?」


「へっ!さっきお前にやられた奴らの仲間だ!」


「敵討ちにきたぜ!」


「行くぞ!」


予定を変更し、今まさに街を出ようとしたシンヤ達は突如周りを魔族の冒険者達に囲まれ、計10人による襲撃を受けていた。襲撃者達は決して弱い訳ではなく、並大抵の者では急襲へ対応することが困難であることは襲撃者達自身がよく分かっていた。だからこそ襲撃者達は勝利を確信し、皆醜悪な笑みを浮かべて武器を振るっていたのだった……………しかし、


「"破拳"」


「"戯曲ワルツ"」


先程、シンヤに止められ不完全燃焼気味だったヒュージとリーゼが前へ飛び出して、それぞれ5人ずつ葬った結果、襲撃者達は全滅してしまった。するとそれに焦ったのか、離れたところの物陰から、警戒心を顕にした仲間達がゾロゾロと現れだした。


「おいおい、マジかよ」


「聞いていた話と違いますぜ、リーダー!」


「こ、これからどうするんで?」


「だから、俺は言ったんだ。余計なことはするなと」


口々にぼやく襲撃者の仲間達。そして、その中でもリーダーと呼ばれた男は険しい表情をしながらシンヤを見据え、こう言った。


「どうやら過小評価をしすぎていたようだ。こうして対峙しているとよく分かる。こいつら、只者じゃねぇ」


「だから、言ったでしょう!やめておけと」


「ああ、俺が悪かった。だが、もう引き返せねぇ。こいつらも俺達を逃がす気はないようだしな。ってか、逃げられる訳がねぇ。遠くからじゃ分からなかったが、黒衣に様々な武器を携帯している多種族………………こいつら、"黒天の星"の奴らだ。それもクラマスに幹部も大勢いやがる」


「っ!?こ、"黒天の星"!?世界を救ったと言われる英雄達が何故こんなところに!?」


「嘘だろ……………メンバーが全員Sランク以上の化け物集団じゃないか」


「俺達はなんてものに手を出しちまったんだ」


皆、この世の終わりのような顔をし嘆き始める襲撃者達。ところが、そんなものに同情するはずがないシンヤは淡々とこう言った。


「ゴチャゴチャうるさい。かかってくるなら、さっさとかかってこい」


「くっ……………おい、お前ら!最初から全力でやれ!運良く仕留められたら、俺達の名も上がるぞ!」


「「「へいっ!!!」」」


「おい、シャウロフスキー」


「っ!?は、はい!」


シンヤ達のやり取りに終始ビクビクしていたシャウロフスキーはシンヤに名前を呼ばれると慌てて返事をした。


「弟子にとるかは分からんが最低限の稽古はつけてやる。こんなことで一々怖がってたら、キリがないからな。それと……………」


シンヤは向かってくる襲撃者達を見ながら、ニヤリと笑みを浮かべて刀を構え、軽く素振りをした。


「これから起こることは見ておけ。きっと為になるはずだ」


その後、襲撃者達の悲鳴が辺りに響き渡ったのだが、幸いにも人気のない場所だった為か、街の者達に気が付かれることはなかったのだった。

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