第278話 郷に入っては郷に
「す、すみません!」
「ん?」
一通り、土産物を買い店を後にしようとしたシンヤ達は突然横から声を掛けられた。見るとそこには10歳程の魔族の少年がおり、シンヤに視線を向けられると緊張からか、顔を赤くしながら勢いよく頭を下げ始めた。
「さ、先程は助けて頂き本当にありがとうございました!!」
「……………は?助ける?一体何のことだ?」
「えっ……………」
「まず、その前にお前は誰だ?」
「そ、そんなぁ…………」
全くピンときていないどころか覚えられてすらいないことにショックを受けた少年。しかし、数秒経って深呼吸をしてから一旦気持ちを入れ替えると再び勢いよく頭を下げた。
「僕の名前はシャウロフスキー。ここラクゾで宿屋を営んでいる者です」
それは片手を胸に当てた綺麗な角度での会釈だった。若干落ち着きには欠けるものの、その歳で咄嗟に取った所作としては十分なもので普段の行いの賜物なのであろうか、とても洗練されていた。そして、シンヤもまた感じるところがあったのか少年を軽く見つめた後、自身も名乗り始めた。
「シンヤ・モリタニ。冒険者をしている者だ」
「なるほど!冒険者の方でしたか!だから、あれほどお強かったんですね!」
「世辞はいい。それよりもお前を助けたとかいう話は何なんだ?」
「先程、貴方様が倒された魔族がいたじゃないですか」
「仰々しいのはやめろ。名前で呼んでくれて構わない」
「あっ!ありがとうございます!シンヤ様!」
「おい!私の時とえらく態度が違うじゃないか!」
少年がシンヤを名前で呼んだ直後、何やら外から文句を言ってくる者がいたがそれをサラッと無視したシンヤは目で話の続きを促した。
「え、えっと……………先程、シンヤ様に倒して頂いた魔族の男達は"
今度は深々と頭を下げ、感謝の意を表す少年。それに対してシンヤは合点がいったという顔をしてから、少年へとこう言った。
「顔を上げろ。一応、感謝は受け取っておく。だが、勘違いはするな。俺達が土産屋に行こうとして、あいつらが邪魔だったから、ああなっただけだ。決してお前を助けたかった訳じゃない」
「いいんです、それで。結果的に僕が救われたのは事実なので」
「まぁ、お前がそれでいいのなら構わないが………………よし。これで話は終わりだな?じゃあな。次は変なのに絡まれるなよ」
そう言って少年へと背を向けるシンヤ達。するとそれにあたふたし出した少年は大きな声でシンヤ達を呼び止めた。
「ま、待って下さい!!」
「あん?」
流石にそろそろしつこいと感じ始めたシンヤが険のある目を少年へと向ける。それに対して少年はビクッとなり身体を震わせつつも意志の篭った強い瞳をシンヤに向けて、はっきりとこう言った。
「ぼ、僕を………………シンヤ様の弟子として近くに置いて下さい!!お願い致します!!」
――――――――――――――――――
「てめぇ………………今、何て言った?」
「い、いえっ!だ、だから、あの……………」
「言い訳はいいから、さっさと言えよ」
「……………ジェスト・ウダイ・ローヴ・ロンゴ、この4名が何者かによってやられました」
「犯人の正体は分かってねぇんだな?」
「は、はい。俺も遠くからしか見れなかったんで………………とりあえず分かっていることとしまして、やったのは黒髪の人族の男、それからその男の周りには様々な種族の者達が沢山いました」
「なるほど……………で、お前は呑気に仲間がやられるところを遠くから見ていたって訳か」
「っ!?そ、それは違います!俺も何かがあったら、すぐに助けに向かおうとしました!しかし、あの男の放った斬撃があまりに速く……………気が付いた時には既に何もかもが終わっていたんです」
「じゃあ、何故敵討ちに向かわない?俺んとこに報告に来る前にそれが先決だろ」
「……………はっきり申し上げますとそれはあまりに無謀過ぎます。俺なんかが向かったところで無意味です。あれはどこか別次元の強さをしていました。それにもしあの男がいなかったとしても周りにいた多種族の者達からもあの男程ではないにしろ化け物じみた強さを感じたのでどうあっても結果は変わらないかと」
「つっても所詮は人族の域を出ない強さだろ?ということは仲間達の実力もお察しの通りってことだ。変な先入観は価値観を歪め、思考を狂わせる。買い被りすぎなんだよ、お前は」
「ち、違います!あれはそんなレベルの話ではありませんでした!間違っても余計なことはしないで下さい!」
「ん〜?余計なことってのは俺が今からやろうとしていることか?」
「ま、まさか…………」
「おし、行くぞお前ら!クラン"
「お、お待ち下さい!考え直して下さい!きっと後で後悔するのは我々の方です!」
「うるせぇ!俺がいるこの街で好き勝手やりやがった奴らを許す筈ねぇだろうが!この街で楽しくやりたきゃ絶対に逆らっちゃいけねぇ存在ってのがあんだよ。この街では俺達がルールだ」
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