第274話 決闘

「へ〜…………あっそ」


「おい!反応薄すぎるだろ!少しは興味を持てよ!」


「持つ必要はない。今後、関わることがないからな」


「………ふんっ。余裕ぶっていられるのも

今の内だ。なにせ、お前は嫌でも俺を視界に入れなければならなくなる」


「なんだ。嫌がられている自覚があったのか」


「当たり前だろ!お前の態度を見ていれば分かるわ!どうせ"うわ〜面倒臭そうな奴が来た"とか思っているんだろ?」


「一言一句、間違いのない答えだな」


「くっ、何故だか無性に腹が立つな……………まぁ、いい。とりあえず、シンヤ・モリタニ!ラミュラを懸けて俺と戦え!」


「は?そんなのやる訳ないだろ」


「なんでだよ!」


「そもそもその戦いを成立させるにはラミュラの気持ちが最優先だろ。いきなり、賞品みたいな扱いをされた本人の気持ちを考えてみろ。それから、まず大前提として俺とお前の間でラミュラの気持ちが揺らいでいることが戦いを行うにあたって重要な訳だが、ラミュラの様子を見る限り……………お前に関しては一切の脈がなさそうだな。これじゃあ戦いを行う必要がない。完全にお前の一人相撲だ」


「そ、そんなことはない!俺とラミュラは幼い頃から仲が良いし、将来だってちゃんと誓い合っているんだ!なぁ、ラミュラ?」


「いや、そんな事実はないな」


「即答かよ!それじゃあ、本当にこいつの言った通りみたいじゃないか!」


「みたいじゃなくて、まんまな。まぁ、その前にどうあっても今のままじゃ引き受けられない要因はもう1つあるがな」


「要因?なんだよ」


「仮にお前の提案を引き受けたとして、俺にはメリットが一切ない」


「はぁ?」


「こっちには見ず知らずのゴミの為に割く時間も労力だって持ち合わせてはいない。こうして話してやっている今でさえ、金銭が発生してもいいくらいだ」


「はっ、何を言うかと思えば!お前は何様だ!そんなに偉いのか!」


「リスク、その辺にしておけ。この者達は世界を救ってくれた非常に優秀な冒険者達、特にシンヤ殿はそれを束ねる組織の長だ。お前と話している無駄な時間があれば依頼の1つでも受けて、今頃とんでもない額を稼ぎ出している。お前にそれができるのか?」


「くっ……………」


「お前の気持ちも分からないではないが……………まぁ、諦めろ。厳しいことを言うようだが、お前とは住んでいる世界が違うんだ」


「はっ、里長の目も曇ったもんだな!こんな奴がそんなに凄い訳ないじゃないか!何が世界を救っただ!この中に実際にこいつが邪神や聖義の剣と戦ったところを目の前で見た奴がいるのか?」


「「「「「…………………」」」」」


「ほら、見ろよ里長。みんな、だんまりじゃないか。所詮、こいつの逸話なんて噂程度の信憑性のないものに過ぎないんだよ!俺は実際に自分の五感で体験したことしか信じない。事実なんて色んな力によって捻じ曲げることだってできるんだ」


「確かにお前もラミュラとのことを捻じ曲げようとしたしな」


「う、うるさい!ハリボテ冒険者の癖して、揚げ足を取るな!!」


「なんだ。見かけは立派だと思っているんだな」


「うっ…………く、くそっ!絶対に許さん!とにかく俺と決闘で勝負しろ!」


「シンヤ殿、悪いんだがその辺で勘弁してやってくれないか?これ以上、空気を悪くしたくなくてな。代わりといってはなんだがリスクとの決闘を引き受けてくれるのなら最大限のおもてなしをさせてもらおう」


「…………分かった。引き受けた分の対価はそれで手を打とう。で?お前は一体何を差し出すんだ?」


「な、何ってなんだよ」


「とぼけるな。俺が勝ったらお前は俺に何を差し出すのかを訊いているんだ」


「はぁ?そ、そんなのラミュラが…………」


「全財産」


「は?」


「お前の持っている全財産を懸けろ。でなければ、決闘などそもそも成立しない。ラミュラが可哀想だ」


「くっ……………わ、分かった!ラミュラの為なら、そのぐらい安いもんだ!金は稼げば手に入るがラミュラはこの世にたった1人しかいないからな」


「よし、交渉成立だ」







――――――――――――――――――







里の中央。そこには石造りの頑丈な闘技台があり、その上にシンヤとリスクが向かい合って立っていた。そして、その周りには観客として里中の者達が駆けつけ、突如開催されることになった決闘の開始を今か今かと待っていた。無論、里の者達はラミュラの気持ちを理解しており、誰もがシンヤの勝利を願っていたし、伝え聞いているシンヤの実力から、どちらが勝つのかは明白であった。しかし、先程のリスクの言葉が脳裏を駆け巡り、完全にはその言葉を否定できないのも事実だった。だからだろうか。皆、祈るように両手を合わせ、シンヤを見つめているのは。


「ふんっ。場所はアウェーだが、里の者はお前の味方………………さぞかし気分はいいだろうな」


「皮肉なもんだな。お前には同情する」


「なんだと!」


「こほんっ!え〜両者共、落ち着いてくれ。これより、決闘開始の合図をする。審判は里長である、このラミュダが務めよう。では準備はいいかな?」


「ああ」


「もちろんだ!」


「うむ、よろしい。では決闘……………開始!!」


「先手必勝だ!覚悟しろ!」


合図を受けて真っ先に動き出したのはリスクの方だった。鬼気迫る表情、それに加えて歴戦の猛者さながらの強い踏み込みから繰り出される槍はあれだけの自信を裏付ける程の力と速さを兼ね備えていた。これにはラミュラも多少は驚き、それは5年前の自分よりも遥かに強くなっていることを表していた。流石は次代の里長第二候補。この里に住む者の中で彼程の実力を持つ者が他にいるだろうか……………当然、リスクは小手調べなどする必要はなく、この一撃を以ってシンヤを沈めようと思っていた。だからこその全力の突き。果たしてそれは……………


「なるほど…………こんなもんか」


紙一重で躱されていた。しかもシンヤはその場を1歩も動いてはおらず、軽く上半身をずらしただけ。これにはリスクもプライドを激しく傷付けられたのか、額に血管が浮かび上がる程の怒りを顕にし、叫んだ。


「舐めんじゃねぇ〜〜〜!!!」


そこからは槍による怒涛の突きが繰り出された。あらゆる角度から、また緩急をつけた速さによって当たりさえすれば、大木にすら穴を開ける程威力のある一撃。それが次々と繰り出されていく。


「よっ」


「く、くそっ!当たらねぇ!こんな奴、当たりさえすれば、どうとでもなるのに!くそっ!」


対して、シンヤは自身の愛刀を抜くこともなく、ただただ淡々と作業をしているかのようにリスクの攻撃を躱していく。相変わらず、その場を動くことなく、上半身だけをずらすだけの時間。シンヤにとって、それは眠くなるほど簡単な工程だった。


「くそっ、があっ!…………はぁ、はぁ、はぁ」


それが10分程続いた頃、疲れ切った様子のリスクが槍を支えにして、片膝に手を付いた。その間もシンヤはただ黙って、立っているだけだった…………が、リスクの息が整ったのを見届けた瞬間、遂に刀を抜き、それを下から上へと振り上げた。


「っ!?や、やばっ…………ぐわあっ!?」


直後、離れていたリスクに反応できない速度の斬撃が飛んできた。そして、それに対して為す術もなくやられてしまうリスク。


「ぐっ…………くそっ、俺は一体……………」


かろうじて息はあるものの、自分勝手に決闘を挑み、無様にやられてしまったリスクはそのまま徐々に意識を失っていった。


「シンヤ、こちらの都合で迷惑かけてすまない!そして、ありがとう!やはり、我の伴侶にはシンヤしかいないのだと再確認できたぞ!」


「俺もだ。改めて、お前を誰にも渡したくないと思った」


「っ!?シンヤ〜!!」


最後にリスクが見たのは嬉しそうにシンヤに抱きつくラミュラと周りで歓声を上げる里の者達だった。


「はっ、色んな意味で最初から俺に勝ち目はなかったって訳か」


全てを理解したリスクは憑き物が取れたように晴れやかな表情を浮かべて、気を失った。次に彼が目覚めた時、既に宴は開始されており、誰も彼のことを起こそうとしなかったのであった。

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