第273話 婚約者
「おぉっ!ラミュラにモールよ!よくぞ無事に帰ってきた!」
「ただいま戻った。今まで心配をかけて済まなかったな、父上よ」
「不肖モール、ちゃんと姉上を探し出して戻ってきました」
「モールは里を飛び出してから、それほど経ってはいないがラミュラはあれから5年も経つからな」
「ああ。あれから色々なことがあったんだ」
「我も外の世界を知って驚いたことが沢山あるぞ!」
「そうかそうか。まぁ、積もる話はあるだろうがまずはその前に……………」
「里長様!この者達はラミュラとモールの仲間だということで門前払いをせずに連れて参りました!!」
「いかが致しましょうか?」
里の中は一種のお祭り騒ぎのような状態だった。それもそのはず。なにせ長い間帰ってこなかったラミュラ、そして彼女を探して里を飛び出したモールが一緒になって帰ってきたのだ。とはいっても決して彼女達の生存を疑っていたという訳ではない。しかし、外の世界には何が待ち受けているのか分からない。どんな危険が彼女達を襲っているのか、明日も無事に生きていられるかの保障なんて誰にだってできやしないのだ。だから、この再会は里の者達にとってはこの上なく嬉しいことだった。皆、毎日のように彼女達がいつの日かひょっこりと姿を現して少しでもいいから再び会うことを期待していたのだ。それがこうして目の前で実現している。今、里中では誰もが涙し、笑い、2人の帰還を最大限に喜んでいた。
「おおっ!貴殿達が2人の恩人達か」
「代表しての挨拶、失礼する。俺はシンヤ・モリタニ。冒険者をしている者だ。恩人なんて堅苦しい言い方はよしてくれ。ラミュラとモールは俺達の大切な仲間だ」
「私はラミュダ。ドラゴーラの里長をしている。よろしく頼む。それにしても…………ふむ。口調は大胆だが、姿勢は随分と謙虚だな。そして、貴殿達がそうか……………」
「?」
「いや、すまない。いくら外との関わりがあまりない里とはいえ、貴殿達のことは耳に届いていてな。例の2つの件、解決してくれて本当にありがとう。それから、お疲れ様」
「…………あぁ。いや、あれは自分達の為にやったことだ」
「だが、それが結果的に皆を救った。貴殿の行動力には並外れたものがあり、誰にでもできることじゃない。そのおかげで多くの者達が救われ、今を生きている。私達はそれに感謝せねばならないんだ」
「そういうもんか。じゃあ、勝手に感謝しといてくれ。俺達はこれからも勝手にやっていくつもりだからな」
「ぐわっはっはっは!やはり、史上初のEXランク冒険者は言うことが違う!その豪快さ、気に入ったぞ!」
「そうか。それは好都合だ。なんせ、今後はラミュダともっと近い関係になるかもしれないからな」
「シ、シンヤ!?」
「ん?ラミュラ、そんなに顔を赤くして一体どうしたんだ?シンヤ殿の言ったことが何か……………あぁ、なるほど。そういうことか。であれば、より手厚い歓迎をすべきか………………ちょうど良い。宴を始めるまで時間がかかる。それまでの間は私の家にいてもらうか。おい、お前達!」
「「っ!?……はっ!!」」
ラミュダがシンヤ達を連れてきた門番達へと呼びかける。急なことですっかり気を抜いていた門番達は少し驚いた後、遅れて返事を返した。
「私の家にその者達をお連れしてくれ。言っておくが、その者達はこの2人を今日まで守り大切に扱って頂いた恩人達だ。くれぐれも失礼のないよう……………」
「おい、そこのお前!!」
ラミュダが言い切る寸前、突然横から入った大声に誰もが驚いて、声の聞こえた方を見た。これだけ幸せな雰囲気が漂う中、空気も読めずに大声で怒鳴るように割って入った者が一体誰なのか……………その正体に気が付いて真っ先に声を上げたのはラミュラだった。
「リスク!?そんな剣幕で一体どうしたんだ!?」
「ラミュラ、久しぶりだな!今すぐにでも再会の喜びを味わいたいんだが、それはまた後だ。今は別件があるからな」
リスクと呼ばれた竜人族の男はドスドスと大股開きで歩いてくるとシンヤの目の前に立ち止まり、こう言った。
「お前、シンヤとか言ったか?里長が大層持ち上げてるから、どんな奴かと思えば随分と大したことなさそうじゃないか」
「ラミュラ。このゴミは一体なんだ?どこに捨てればいい?」
「おい、貴様!このリスク様をゴミ扱いだと!しかもこっちを無視して、ラミュラに気安く話しかけるな!」
「ぐわっはっはっは!相変わらず面白い男だな、シンヤ殿は!」
「里長!笑うなよ!俺が馬鹿にされてちゃ、ラミュラの株も下がるだろ!」
「株が下がる?ラミュダ、こいつは一体何者なんだ?」
「いらぬ厄介事に巻き込んですまんな、シンヤ殿。こいつはリスク。私が次に指名する里長の第二候補であり、ラミュラの幼馴染み…………そしてラミュラの婚約者だ」
ラミュダからの紹介を受けたシンヤがチラリと横を見る。するとシンヤに向けてドヤ顔を決め、偉そうに立つ男がそこにはいた。ついでに周りからは白い目を向けられていたのだった。
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