第272話 帰省

「準備はいいか?」


「「「「「はい!!!!!」」」」」


ネームが俺達の元を訪れてから3日が経った。その間、色々と仕事を終わらせたり、傘下のクランメンバーやブロンに会って話をしていたら時間はあっという間に過ぎていった。そして、今日…………俺達はとある場所へと向かう為にクランハウスの玄関先に集まっていた。


「最終確認を取るが……………ネーム、本当にいいんだな?」


「…………私に拒否する権利はないし、そんな立場でもない。むしろ、どうなろうともシンヤ達が動いてくれるというだけでありがたい。改めて……………よろしく頼む」


「勘違いをするなよ?俺達はお前に同情したから動く訳じゃないし、お前を信頼できる者として扱っている訳でもない。仮に知らんからな」


「重々承知している。それでもやっぱり、こうして腰を上げてくれただけでもありがたい。聞けば、シンヤ達は相当有名な冒険者達だそうじゃないか。であれば、私など門前払いされていてもおかしくはなかった筈だ」


「イヴに感謝するんだな。こいつの知り合いでもなければ話すら聞いてないからな」


「イヴ様、ありがとうございます。そして、改めて謝罪をさせて下さい。貴方が辛く苦しい思いをしている時、力になれなかったこと、またイヤーシィ様の暴挙を止めることができなかったこと……………誠に申し訳ございませんでした!!」


「謝罪などこの3日間で沢山もらっておる。それに本当に謝らなければならない人物はお主の他におるじゃろ?だから、気に病むでない」


「は、はい!!と、ということは私のことを信頼して頂けたということで…………」


「それとこれとは話が別じゃ。第一、深まった溝がたったの3日間で埋まるはずなかろうて」


「そ、そうですよね……………はぁ」


あからさまに落ち込んだ様子を見せるネーム。そんな出発ムードには似つかわしくない雰囲気が漂ったのを見かねて俺は会話に割って入った。


「シケた面してんなよ。3日で無理ならもっと時間をかけて信頼を勝ち取ってみせろ。幸いにもお前にはまだ時間があるだろ?」


「シンヤ……………」


顔を上げたネームは潤んだ瞳で俺を見上げてきた。そうやってしおらしくしていたら可愛いらしいのだが……………


「そ、そうだよな!クヨクヨしてたって仕方ない!よ〜し!頑張るぞ!」


口を開けば少しやかましいのが玉に瑕だった。








――――――――――――――――――








魔族領で暮らす者はそのほとんどが魔族で構成されている。別に排他主義を掲げている訳ではないし、他種族に対して差別や偏見がある訳でもない。では何故魔族ばかりが暮らしているのか。その答えは単純明快で魔族領のほとんどの土地が危険な魔物や厳しい天候に左右されているからである。よって数多ある種族の中で先天的に武技・魔法共に最も優れている魔族でしか生き残ることが難しいというのが実情であった。その為、冒険者という職業ではない一般人の魔族であっても最低限の戦闘能力を有している者が多く、有事の際は己が身1つで切り抜けるといったことも珍しくはなかった。そんな猛者達が暮らしている土地に悠々と足を踏み入れようとしているのが……………


「シンヤ達という訳さ」


何故かネームが胸を張って主張する。その顔はどことなく誇らしげに見えた。


「何故、お前が誇らしげなんだ?」


「まぁまぁ、そんな細かいことは別にいいじゃないか」


現在、フリーダムを出発して人族領から魔族領へと向かっている最中である。今まで俺達が訪れたところは全て人族領内の場所であり、そこを超えて別の領へと向かうのは今回が初めてとなる。当然、今までよりも時間がかかるのは予測されるがそれを見越して改良された車に乗って移動する為、俺達にとっては苦でもなんでもなかった。むしろ、同行者のほとんどが運転を楽しんでおり、常にハンドルの取り合いとなっていた。ちなみに今回、魔族領へと向かうメンバーは俺・ティア・サラ・カグヤ・イヴ・ラミュラ・ドルツ・ローズとモール・リーム・リーゼ・ヒュージ・アゲハ・バイラの組長達……………そこに案内役としてネームを加えた計15名となっている。そして、今回の旅は以前とは少し違う部分があった。それはあまり自分の意見を強く主張してこないラミュラが珍しく今回だけはどうしても同行したいと言い出したのだ。さらにはそこにモールも同調し、頭を下げてお願いまでされてしまった。不思議に思った俺が理由を聞くとどうやら魔族領へと向かう途中、それも人族領と魔族領の境目付近に彼女達の故郷があるそうなのだ。


「っと、ラミュラ。ここがお前の生まれ育った里か?」


運転を止めてもらい、車を静止した状態で俺は訊く。すると懐かしさを感じているのかしばらく遠い目をしていたラミュラがハッと我に返り、嬉しそうな表情でこう言った。


「ああ。我とモールの故郷、"ドラゴーラ"だ。寄ってくれてありがとう。そして、ようこそ。我々はシンヤ達を歓迎するぞ」


トーテムポールのようなものが2本立ち、その傍らに門番が2人……………いわゆる里の入り口がそこにはあった。

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