第270話 顔見知り

「なるほどな。お前はイヴの顔見知りだったって訳か」


シンヤが目の前に座る白髪の少女へと向かって言った。現在、応接室にはシンヤ・ティア・サラ・カグヤ・イヴ、そして奇抜な服装の少女の計6名がおり、なかなかの緊張感が漂っていた。ことの発端はカグヤがクランハウスをコソコソと覗く怪しい人物を捕らえたところから始まった。なんとその人物がイヴの知った顔であったことから、何故そんな怪しい行動を取っていたのか、その理由を聞いてみようということになり、応接室へと向かったのだ。そこにシンヤとサラが後から合流し、たった今少女からおおよその事情を聞き終えたばかりなのであった。


「ただの顔見知りではない!私はイヴ様の最も側にいたお世話係、ネームだ!イヴ様を心身共に支え、またイヴ様と同じ時間を過ごしていた私も支えられ…………いわばお互いが支え合っていた関係だ!私達には切っても切れぬ信頼関係があったんだ!そんな薄っぺらい関係ではない!」


「側に。過去形だな?支え合っていたというのなら、イヴが苦しんでいた時もお前はしっかりと支えていたのか?」


「っ!?そ、それは…………」


「お互いを必要としていたのなら、イヴが母親に奴隷として売り払われた時、お前は一体何をしていたんだ?どうして救えなかったんだ?」


「……………」


「もしイヴが居なくなったことにすぐ気が付かなかったとしても追いかけることはできた筈だ。たとえ行方が分からなくなったとしてもそんなに信頼関係で結ばれているのなら、どんな手を使ってでも探し出す筈だ。だが、お前はそれすらしなかった」


「わ、私はちゃんと…………」


「いくら情報収集や聞き込みをしていたと言ってもそんなのは言い訳に過ぎない。イヴがお前の側から居なくなって、どれだけ経っていると思っているんだ?それだけの月日があれば、どんな危険な目に遭っていたって不思議じゃない。仮にイヴが命を落としてしまっていたとしてもお前は胸を張って、先程のような戯言を吐けるのか?」


「うっ…………そ、そんなこと言われても……………わ、私は……………ううっ…………ぐずっ」


「泣くな。言っておくがお前は俺達からしたら、賊と一緒だ。クランハウスを覗いた挙句、勝手に侵入しようとしたんだからな。この場合、どっちに正義があるかは分かるよな?」


「ううっ………………ぐずっ……………はい」


「シンヤ、迷惑かけてしまってすまんの。こやつは悪い奴ではないんじゃが、少し向こう見ずなところがあっての」


「ご、ごめんなざい〜〜〜もう少じ考えで行動じまず〜〜〜」


「分かったから落ち着け。話を戻すぞ。いいか?イヴの顔見知り」


「ぐすっ、はい。私はイヴ様のただの顔見知りです」


「あぁ、もう面倒臭いからお前のことはネームって呼ぶからな?」


「はい。それで大丈夫です〜〜」


「最初とキャラが全然違うんだが」


「大丈夫です。あと少しで元に戻ります〜〜」


「こやつは泣いたり拗ねたりするとこうなるんじゃよ。面倒臭くて、すまんの」


「こんな奴がお世話係って……………イヴの苦労が目に浮かぶ」


「ぐすっ……………よし。それで?話の確認か?」


「切り替え、どうなってるんだ?まぁ、深く聞くと面倒臭そうだから、それはいいとして。先程、お前から聞いた事情とやらを再確認させてもらうと………………現在、イヴの生まれ育った国であるギムラがのっぴきならない状況に陥っているんだったな?」


「ああ。ギムラは現在、イヴ様の兄であらせられるアドム様が治めている状態なんだが、それがかなり無茶苦茶でな。国民から多額の税を徴収し、それを国の為には一銭たりとも使用せず、なんと全て私利私欲で散財しているんだ。ある日、何一つ変わらない国の状況を疑問視した国民がアドム様に御目通り願った。するとその国民は後日、とある宿屋の裏路地にて無残な姿となって発見された…………おそらく反逆者扱いで亡き者とされたんだろう」


「兄上が……………なんと…………」


イヴか険しい表情をしたのを見たシンヤは一呼吸置いたネームへと目で続きを促した。


「しかし、問題はそれだけではない。アドム様からは真面目に国政へと向き合う姿勢が1ミリも感じられないんだ。まるで操り人形のように大臣の言うことを聞くだけでその大臣に国を任せきりにしている。さらには母君であらせられるイヤーシィ様も何故か、それに従っている状況……………全く、こんな時期だというのに何を考えているのか。今は国が一丸となって、に備えなければならないというのに。これじゃあ、国民からの信頼は得られないじゃないか」


「ん?こんな時期?脅威?それは何のことを言っているんだ?」


「あっ!?そうか!ここは魔族領ではないから、まだ情報がここまで届いていないのか……………」


「?」


「……………そうだな。シンヤ達には聞いてもらった方がいいかもしれない。短時間しか話していないが信頼に足る人物だと分かったし」


「気安く名前を呼ぶな、イヴの顔見知り」


「そ、そんなっ!?わ、私のことは名前で呼んでいるのに」


「冗談だ。いいからさっさとその脅威とやらを話せ」


「わ、分かった。今から言うことは他言したとして、仲間内だけで留めてくれると助かる。これはシンヤ達だからこそ、話す訳だから」


「了解。で?魔族領では今、何が起きているんだ?」


「……………実は」


そこから30秒程、間を空けてからネームはこう言った。


「1週間程前に……………魔王が復活したんだ」

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