第255話 滑来 一
「随分と早いな。お前らが一番だぞ」
白い修道服を着た黒髪黒眼の青年はそう言うと後ろを振り返った。するとそこには黒衣を纏い、様々な得物をぶら下げた集団が堂々と佇んでいた。そんな中でこれまた黒髪黒眼の青年が一歩前へと出る。
「お前がハジメとかいうイカれた組織の親玉だな?」
「お前にだけはイカれたとか言われたくないな、"黒締"よ。まさか、幹部以上の面子を全員連れてくるとは」
「安心しろよ。お前の相手は俺がする。こいつらは……………」
シンヤがそう続けようとした瞬間、ティア達は目視で追うことも不可能な速さで移動し、
「お前を逃がさないようにする為の保険だ」
ハジメとシンヤの周りを取り囲んだ。と同時に全員から凄まじい殺気が放たれ、それがハジメ1人に集中しだした。
「これは………………なるほど。確かにそう簡単には逃げられそうもないな」
「だろ?だから、大人しくしていろ」
「それにしても多勢に無勢もいいところだな。卑怯だとは思わないか?たった1人にこんな真似を」
「お前みたいな人間に対して卑怯も何もあるか。それに言っただろ?お前の相手は俺1人だと」
「ふんっ、どうだかな。劣勢だと分かるやいなや、全員で襲い掛かってきそうだが」
「御託はいいから、さっさと始めるぞ。お前に時間は使いたくない」
「同感だ。だが、その前に鍵を確認したい。ここに来るまでに幹部を倒して手に入れてきた筈だ」
「ん?そんなのないぞ」
「………………は?」
「だから、そんなのないって言ってんだよ」
「これは…………おかしなことが起きているな。もしかして、映像の魔道具での俺の発言を聞いていない、もしくは見ていないのか?」
「いいや?ちゃんと見ていたし聞いていたぞ」
「では何故、鍵を持ってきていない?俺は言った筈だ。"鍵を全て集めたら俺のところまで来い。そうしたら、俺達の目的を教え、お前達を今ある恐怖から解放してやる"と。」
「確かにそう言ったな。だが、俺達はお前らの目的なんぞに興味はないし、恐怖も感じてはいない。第一、お前の言い分を聞いてノコノコやってきたとして、お前が素直に約束を守るという保証はどこにもない」
「約束なら守るさ。俺の言ったことを忠実に守り、ここまで辿り着いた者には今ある恐怖からの解放………………すなわち"死"を与えてやる」
「やっぱりな。どうせ、そんなことだろうと思ったわ。まぁ、どのみち俺達の行動はどう転んでもこうなっていただろうな」
「ん?何故だ?」
「俺達がお前の言い分に従う必要がないからだ。俺達は自分達の思うがままに行動する。誰にもそれを変える権利などない」
「ふんっ、随分と傲岸不遜な態度だな。だが、考え無しが過ぎるんじゃないのか?どうするんだ?"ズルをした者にはペナルティーを与える"という裏ルールのようなものがあったら。そうだな………………例えば、見せしめにどこかの街の住人を虐殺するとかな」
「お前のような人間はおそらく理想やプライドが高く完璧主義者、それでいて異常な程、自分に自信があるタイプだ。だから、わざわざ魔道具で自分達の情報を発信し、ゲームという形で挑戦者を募った。そんな人間がつまらない小細工はしないし、ましてや裏ルールなど以ての外だろう。それに何より、あの時のお前の目は濁り切っていた。あれはあらゆるものに絶望し復讐まで考えている奴の目だ。さしずめ、お前は待っていたんだろ?試練を乗り越えて、ここまで辿り着いた者を正面から正々堂々と叩き潰す、その時を」
「………………やはりお前は危険な存在だ。一体、どれほどの修羅場を潜り抜ければ、それだけの"目"を持てる?」
「まぁ、生い立ちが少々特殊だったからな」
「生い立ちか。それならば、俺も特殊だ。なんせ、身分の高い家に生まれたんだからな」
「それは……………この世界での話か?それとも以前、いた世界か?」
「……………お前は一体、何を言っている?」
「今の"間"、そしてお前の"表情"が全てを物語っているな。隠し事は良くないぞ?……………ハジメ・コツライ、いいや"
瞬間、場の空気がガラッと変わり、雲行きが怪しくなりだした。
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