第252話 七罪"傲慢"のヨール

「ちょっと!しっかりしなさいよ〜」


「っ!?ご、ごめん!」


ローウェルは突然、かけられた声によって我に返った。今の今まで急に呼び覚まされた過去の記憶に囚われて、しばらくの間、呆けてしまっていたのだ。だが今はそんな悠長なことをしている場合ではない。なんせ今もなお、"新生人ニュー・タイプ"の攻撃から彼を守ってくれている者がいるのだから。


「助けてくれてありがとう!"艶魔えんま"リーム!」


「どういたしまして〜もう大丈夫そうなの〜?」


「ああっ!だから、そこを代わって欲しい!!」


「了解よ〜それっ〜」


「ぐががあっ!?」


武器を交えている中、気怠い返事をしたリームが一気に力を抜いて後ろへと下がる。すると急に支えがなくなった"新生人ニュー・タイプ"は体勢を崩し、つんのめる状態になった。そして、そのタイミングに合わせて駆けていたローウェルは剣を大きく振り被り、強烈な一閃をお見舞いした。


「"バスター・ソード"!!」


「ががあっ!?」


深く入りはしなかったものの、そこそこのダメージを与えることができたと感じたローウェルはそのままの流れで追撃の一手を打つことにした。


「"斬首剣"!」


「ぐぎゃあ!!」


しかし、危機を察知した"新生人ニュー・タイプ"が回避を行ったことでその一閃は空を切ることとなり、失敗に終わってしまった。後には地面に転がる"新生人ニュー・タイプ"とそれを見下ろすローウェルが残った。


「よし。これなら、いけるぞ!!」


「後は自分でなんとかしてちょうだい〜もう助けには来ないからね〜」


「ああ!」


「じゃあ、アタクシはあそこで踏ん反り返ってる奴らの相手をしに行ってくるわね〜………………あ、そういえば」


「ん?なんだい?」


「あなたって、そこそこネーミングセンスあるのね〜」


「っ!?ありがとう!!」







――――――――――――――――――







「はぁ〜世話になっちゃったな…………」


リームが敵の幹部の元へと行くのを見送ったローウェルは軽くため息をついた。彼としては注目しているクラン、それもいずれは模擬戦でもできたらと考えていた者相手に借りを作ったことで"お願い"がしにくくなってしまったのを嘆いた。と同時に助けられたこと自体は特にプライドをへし折られたと感じることもなかった。むしろ頼もしそうな背中を見たことでクラン"黒天の星"全体のレベルの高さが窺えて、嬉しく感じた程である。


「っと!今はそんなことを考えている場合じゃない!」


「ぐがあっ!!」


先程まで地面に倒れていた敵は既に復活し、ローウェルへと高速で向かってきていた。身体に纏う魔力の濃さ、さらに身体能力の高さから七罪の力が最大限に発揮されていることは明白だった。だが、ローウェルは全然負ける気がしなかった。何故なら、力が身体の奥底から勝手に溢れ出してくるのを感じていたからだ。


「"迅剣ラピッド・ソード"」


「ぐがるるっ!!」」


すぐさま猛スピードで正面からぶつかる2人。長剣と短剣が交わり、その衝撃で地面は陥没し、近くの木々が倒れていく。明らかに常人の為せる技ではなかった。


「はあっ!!」


「ぐがががっ!」


それから何度も何度もお互いの武器をぶつけ合った。一撃一撃は重く、受け止める方だけではなく、攻撃側の身体にもダメージが積み重なっていく。また余波で舞い上がった土砂が容赦なく降り注ぎ、そのせいで視界も悪くなっていった。と、そんなことが10分程続いた時、突然流れが変わり出した。


「"炎を纏いしブレイズ・ソード"!!」


それは先程、発動したはいいものの敵にぶつけることが叶わなかった必殺技だった。それを"新生人ニュー・タイプ"がよろけた一瞬の隙をついて発動した訳だが、何故一度失敗した技を再び使用したのか。ましてや、この大事な局面においては悪手にしかなり得ないのではないか……………そう誰もが思うところであろう。ところが、ローウェルはそう感じてはいなかった。むしろ、ここで全力を出さなければ、いつ出すというのか。そう、力が溢れ出している最高潮の状態は今この時しかないのだ。


「うおおおおっ!!"炎剣"!!」


「ぐごがぎあっ!?」


そこからのローウェルの勢いには凄まじいものがあった。"新生人ニュー・タイプ"に向かって、剣を何度も振り下ろし、斬り続けたのだ。これにはいくら耐久力の上がっている"新生人ニュー・タイプ"といえど流石に参らざるを得なかったのだろう。苦しげな声を何度も上げつつ、徐々に深い傷が刻まれていった。そして、遂に最後の一撃が終わった瞬間……………


「ぐおおっ!ちくしょー!痛ぇ!」


「はぁ、はぁ、はぁ」


新生人ニュー・タイプ"は地面へと倒れ伏した。


「あれ?ちゃんと喋れたんだ」


「ぐっ、はぁ、はぁ。たった今、意識が戻ったんだ。そんでこの有様よ……………痛ぇ」


「はぁ、はぁ。かなり頑丈だね。もうあと1回ぐらいしか攻撃できないのに。これは参った」


「それはコッチの台詞だ。せっかく意識が戻って、イケ好かない剣士に一撃くれてやろうと思ったのによ……………はぁ、こんなんじゃ動くことさえできねぇ」


「ふぅ〜……………最期に言い残したことはある?」


「……………俺は七罪"傲慢"の力を手に入れた最強の男、ヨールだ。覚えておけ。お前のことは一生忘れねぇ」


「あっそう……………じゃあ、さようなら」


「ちくしょー!お前だけは絶対に許さねーからな!」


ローウェルの振り下ろした剣は大声で叫ぶヨールの首元へと向かった。そして、事が終わると途端に辺りは静寂を取り戻し、急に力が抜けたローウェルは地面へと倒れそうになる。しかし、直前で踏みとどまり、なんとか持ち堪えると前を向いて剣を杖代わりに歩き出した。彼の向かう先、そこにはたった今、戦闘を終えたばかりの同志達が集まり、クタクタな笑みを浮かべているところだった。

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