第250話 七罪"強欲"のダート

「おいっ!しっかりしろ!」


「っ!?す、すまん!」


ルクスは目の前にいる人物の言葉で我に返った。先程まで何故か、昔の記憶が頭の中を駆け巡り、それに没頭していたのだが今はそんなことをしている場合ではない。なんせ今もなお、"新生人ニュー・タイプ"の攻撃から彼を守ってくれている者がいるのだから。


「危ないところを助けてくれて、感謝する!"蒼き竜棍"モールよ!」


「どうやら、まだ闘志は消えていないようだな……………やれるか?」


「ああ!代わってくれるか?」


「よしっ!いくぞっ!そらっ!」


「ぎぎやあっ!?」


一気に力を抜いて後ろへと下がるモール。すると急に支えがなくなった"新生人ニュー・タイプ"は体勢を崩し、つんのめる状態になった。そして、そのタイミングに合わせて駆けていたルクスは軸脚をしっかりと踏み込み、渾身の蹴りをお見舞いした。


「"ルクス・キック"!!」


「ぐぎぎやあっ!?」


これにはたまらず吹っ飛ばされて地面へと転がる"新生人ニュー・タイプ"。良い踏み込みから繰り出されたインパクトのある一撃、それと何故かは分からないが力が身体の奥底から溢れ出してくるのを感じたルクスは満足そうに頷いた。


「うし。これなら、いける!!」


「後は頑張ってくれ。もう助けは必要ないだろう?」


「おう!」


「じゃあ、我はあそこで踏ん反り返ってる奴らの相手をしに行ってくる………………あ、そういえば」


「ん?なんだよ」


「お前、ネーミングセンスないんだな」


「ほっとけ!!」








――――――――――――――――――







「はぁ〜世話になっちまったな」


モールが敵の幹部の元へと行くのを見送ったルクスは軽くため息をついた。彼としては注目しているクラン、それもいずれは模擬戦でもできたらと考えていた者相手に借りを作ったことで"お願い"がしにくくなってしまったのを嘆いた。と同時に助けられたこと自体は特にプライドをへし折られたと感じることもなかった。むしろ頼もしそうな背中を見たことでクラン"黒天の星"全体のレベルの高さが窺えて、嬉しく感じた程である。


「……………よし、切り替えていくぞ。まずは目の前の敵に集中するんだ」


ルクスは自分に言い聞かせると今、戦うべき相手に視線を移した。するとどうだろう。先程まで地面をのたうち回っていたはずがいつの間にか復活し、こちらを不気味な表情で見つめている……………と思いきや、次の瞬間にはいきなり笑い始めたではないか。


「ぐぎゃっ、ぐぎゃっ、ぐぎゃぎゃぎゃぎゃ!!」


笑えば笑う程、"新生人ニュー・タイプ"の纏う魔力はどんどんと濃くなっていく。しかも変化はそれだけにとどまらない。身体が一回りも大きくなり、嵌め込まれている宝玉が妖しく輝き出した。そして、終いには………………


「ホシイ…………ホシイ……………モットチカラガホシイ」


明らかに本人の意思とは異なる声が聞こえてくる始末。ここまで変化させる七罪の力にルクスは戦慄した。と同時に気を引き締め直す。ここで止められなければ、一体どれだけの被害が出るかは想像がつかない。絶対に退く訳にはいかなかった。


「こんな力が昔、地上で猛威を奮ってたのか……………恐ろしいな」


ルクスは臨戦態勢を崩さず、敵を注視した。ここから先は一瞬の油断が命取りである。敵の一挙手一投足に気を配り、すぐに動けるよう構えておくのは当然だった。おそらく、敵は先程とは比にならないスピードで襲い掛かってくるだろう。そう予想したルクスだったが果たして、それは……………当たっていた。


「ホシイ……………チカラガ!!」


「っと!」


直後、激しく正面からぶつかる2人。拳と蹴りが交わり、その衝撃で地面は陥没し、近くの木々が倒れていく。明らかに常人の為せる技ではなかった。


「"ルクス・ローキック"!!」


「チカラ!モット!」


何度もぶつかり合い、余波で舞い上がった土砂が容赦なく降り注ぐ。純粋な近接戦闘。小細工などをする余裕は一切なく、いかに己の肉体が強靭か見せつけるようなそんな戦いがしばらく続く。


「"鋼の帝王スペシャル・スチール"!!」


そんな流れが変わったのは一瞬の隙をついてルクスが得意技を放った時だった。しかし、それは先程、あまり効果がなかった技である。では一体何故、このタイミングでそれも一度失敗している技を使ったのか。その答えは単純明快だった。


「目の前のこいつを倒すにはこれしかねぇ!"鋼脚"!!」


「グゥ!イ、イタイ!!」


どれだけ策を弄しようが結局は自分が最も得意とする技には勝てないとルクスは悟ったからだ。それに理由はハッキリとはしないが彼は感じていたのだ。今までのどんな時よりも今が一番コンディションが良いと。具体的に言えば。魔力も身体能力もいつもの何倍もあるように感じられたのだ。


「コレデモクラエ!」


「ぬうっ!そんなの効かんわ!」


新生人ニュー・タイプ"が繰り出した拳を腹で難なく受け止めるルクス。その直後、今度はルクスの反撃が炸裂した。


「"ルクス・ファイト"!!」


「グワッ!?アガッ!?ゲアッ!?ヤ、ヤメロ」


拳と蹴りの雨。それらが一気に降り注ぎ、滅多打ちにされる"新生人ニュー・タイプ"。それはルクスが疲れるまで続き、一区切りついた時にはお互いがフラフラになっていた。


「ア………アガッ…………イ、いたい」


「はぁ、はぁ、ふぅ〜」


「ぐっ、馬鹿にしやがって。お、俺を一体誰だと思ってやがる!俺は…………七罪"強欲"の力を得たダート様だぞ!!」


「知らねぇよ!」


「知れよ!!」


「ってか、勝手に目覚めてんじゃねぇ!"ルクス・プレス"!!」


喚き散らすダートに構わず、最後の大技を決めにかかるルクス。それは鋼で覆い尽くされた巨体で敵にのしかかる技であり、一度食らってしまえば逃げ場はどこにもない。


「ちくしょ〜〜〜!!」


現にダートはどうすることもできず、大きな叫び声が辺り一帯に響き渡る最期となってしまったのだった。

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