第238話 肉を切らせて骨を断つ
「ぐはっ!」
「くっ…………この狼、かなり強くないか?」
「そりゃ、"神狼"って言われているくらいだからな!………っと、そっちに行ったぞ!」
リースがクロスと一戦交えている時、その反対側ではもう1つの戦いが繰り広げられていた。その構図は黒衣を纏い、目にも止まらぬ速さで移動するフェンリルとそれに翻弄される白い修道服を着た集団というものであった。
「ふんっ!」
「ぐっ!?」
フェンリルが口に咥えた名剣を振るう度、まともに斬撃を受けた敵は倒れていく。その数は徐々に減っていき、20人程いた集団もいまや1桁にまでなっていた。しかし、本来であれば、もうとっくに勝負がついていてもおかしくはないのだが、未だ交戦中なのには訳があった。それは集団の現在の状態にあった。
「むっ!随分と硬いな。我々以外でこんなタフのある相手は久々だ」
「お褒めに預かり光栄だな、神狼」
「ん?誰だ?」
「俺はグスタフ。この部隊の副部隊長を務めている。ところでお前は?」
「我の名はウールヴ。クラン"黒天の星"の従魔部隊に所属している…………なるほど。確かにこの者達の中で一番威圧感があるな。で、そんな者が急に出てきて、どうしたんだ?」
「いや、なに…………俺と一戦交えてもらおうかと思ってな」
「だとしたら、最初から出てくれば良かったではないか」
「そんな危険なマネはせんよ。最初は部下達を使っての様子見が常識だ。どれだけの強さを秘めているか分からないからな」
「貴様は部下を何だと思っている」
「ふんっ!こいつらはクロスさんや俺の言うことなら、喜んで何でも聞くさ」
「随分と都合のいい頭をしているんだな」
「魔物に説教される筋合いはない。ってことで早速…………………逝けや」
「ぐっ!こ、これは」
グスタフはウールヴに負けず劣らずの速度で移動して、距離を詰めると持っている長剣を思い切り叩きつけた。これに対してウールヴは即座に反応し、4本の足に踏ん張りをきかせて、自身の愛剣で以って、受け止めることにした。だが、その際、あまりに敵の膂力が想定を超えていた為、ウールヴの足が置かれた地面は陥没しだし、一時的に距離を取ることを余儀なくされた。
「くっ、これが魔人の力か」
「おっ、よく知ってるな………………にしてもお前、大したもんだぜ。俺の一撃をこうまで耐えるとは」
とはいっても簡単に逃してくれる訳もなく、結局はグスタフの攻撃をその場で耐え続けるしかない。その後も………………
「"滅狼斬"」
「ぬおっ!?」
「"滅狼斬"」
「ぐっ!?」
「"滅狼斬"」
「しつこい!」
グスタフの執拗なまでの剣撃がウールヴに襲い掛かり、ジワジワと追い詰められていく。ところが、ウールヴはただやられていたのではなく、ある瞬間を今か今かと待っていたのだ。そして、その時は突然訪れた。
「"滅狼………」
「おっ、来たぞ!」
グスタフが何度目か分からない攻撃の為に振りかぶっている最中、ウールヴはそう叫んだ。すると、どうか。ウールヴの身体が銀色に輝き出し、さらには大量の魔力が迸っていく。と同時にウールヴ側からはグスタフの動きがスローモーションのように映り、次の攻撃も余裕を持って躱せるようになった。そして、そこからの動きはとても早かった。
「"神狼斬"」
「がはっ!?な、何だ!?」
まず、猛スピードでグスタフの後ろへと回り込んだウールヴは背中を斜めに斬りつけた。グスタフからしたら、いきなり目の前にいた敵が消え、気が付いたら背中を斬られていたという状況だ。混乱と激痛が同時に襲い掛かり、先程とは立場が逆転してしまうのも致し方がなかった。
「"神狼斬"」
「ぐわあっ!?」
「"神狼斬"」
「ごぼっ!?」
「"神狼斬"」
「し、しつこい」
次にさっきやられたことの仕返しとばかりに同じ攻撃を執拗な程、繰り返す。相手の耐久力が高いのも相まって、致命傷までは至らないが徐々に体力は削られていく。
「も、もうやめでぐれ……………」
「安心しろ。この一撃でもう終わる」
「そ、それって…………」
「何の終わりかは言わないがな」
――――――――――――――――――
「無事だった?」
リースは自身の戦いが終わるとウールヴの方へ急いで駆けつけた。ちなみにグスタフ以外に残っていた敵の残党はリースが以前テイムしたスライムによって処理されている。
「はい。"
「あんな危険な賭けに出なくても」
「いいえ。戦闘には常に何が起こるか分かりません。最悪を想定して動かなくては」
「確かにね……………それにしても魔人って厄介だったね」
「ええ。皆さん、無事であればいいでしょうけど……………って、そういえば!」
ウールヴはあることを思い出し、慌てて、少し離れた木陰へと向かった。そこにいたのは………………
「ジェイド殿!しっかりしてくれ!ジェイド殿!」
気にもたれかかりながら、目を閉じている門番ジェイドだった。彼はリース達が駆けつける前、敵に相当な深手を負わされていたのだ。
「ジェイド殿!」
「ウールヴ……………本当はもう分かってるんだよね?」
「いいえ!何のことか分かりかねます!それよりも隊長!は、早く彼の回復をしないと!」
「ウールヴ……………」
「な、何を突っ立っているんですか!1分1秒だって惜しいはずです!さぁ、早く…………」
「もう遅いんだよ」
「っ!?な、何を」
「彼はもう……………亡くなっているんだ」
「そ、そんなはずはない!隊長はいつも言っていたじゃないですか!仲間達はもちろん、傘下も縄張りの者も守りたいって」
「気持ちはそうだよ。でも、現実は非情だ。努力はするが、できないことだってある」
「で、でも"天使の
「そんなのは御伽噺だ。大切な人を亡くした人達がそうあって欲しいと抱いた願望そのもの。亡くなった人を生き返らせるなんてのは誰であったってできることじゃない。むしろ、できてはいけないんだ。もし、そんなことができたとしても生き返った人は本当にその人自身ではないかもしれない。例えば、性格や考え方、行動が以前とは異なっているとか」
「………………」
「とりあえず、このことはローズに伝えよう。全ての戦いが終わった後でね」
「………………我々が駆けつけた時、既に瀕死の中、ジェイド殿は我に伝言を託しました。内容は………………"里のみんなやローズ、今までありがとう。幸せだった。それからシンヤ達、みんなを守ってくれて、ありがとう。俺はもうすぐ遠くへ行くが、みんなは元気で幸せに暮らしてくれ"と。本当はもっと色々なことを言いたかったはずですが、命の灯火があと僅かだったこと、それと我が戦闘に集中できるように配慮して、短い伝言となってしまったかと」
「そうか」
「我は言ったんです!"最期のような台詞を言わないで下さい!あなたは必ず助け出します!"…………って。我はローズ様にどの面下げて、伝えれば」
「ウールヴは最善を尽くした。君に全責任はないよ。これはリーダーである僕の責任だ……………何が"縄張りの人達を見捨てるようなことはしないから"だよ。僕の方こそ、何様だってんだ」
リースは思わず、ウールヴに背を向けてポツリと呟いた。あまり大きな声ではなかったが、不思議とウールヴの耳には届いた。それから、彼女が肩を震わせていることに気が付いた。
「…………とりあえず、今はシードさんの手当てをする。それが終わったら、他の仲間達への加勢に行こう。これ以上、こんなことを繰り返させてはならない」
「はい!」
5分程経って、振り返ったリースの目は真っ赤に腫れ上がり、目尻から頬にかけて、透明なラインができていた。しかし、その顔は何かを覚悟した者のそれであり、戦士としてはこれ以上ない程、立派なものだった。
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ウールヴ
性別:雌 種族:フェンリル(魔物) 年齢:23歳
Lv 40
HP 4000/4000
MP 4000/4000
ATK 4000
DEF 4000
AGI 4000
INT 4000
LUK 4000
固有スキル
咆哮・威嚇・生存本能・肉切骨断・魔の境地・守護神・叡智・サイボーグ・炎熱操作・戦士の誓い・透過・明鏡止水・???
武技スキル
刀剣術:Lv.MAX
体術 :Lv.MAX
魔法
全属性魔法
装備
黒衣一式(神級)
輝剣レージング(特級)
称号
狼神の加護・陸の王者・忠誠を誓う者・傅く者・従者の心得・武神・魔神・魔物キラー・盗賊キラー
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肉切骨断
発動後、10分間は全ステータスが7割程になり、10分が経過すると全ステータスが元の2倍になる
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