第230話 とある冒険者達のファン

「へ〜こりゃ、たまげたもんだな」


冒険者ギルドの掲示板。そこにはとある冒険者達のことが載った記事が貼られていた。現在、その一角は内容を一目見ようとする多くの冒険者達で溢れ返っていた。


「え〜っとなになに…………軍団戦争レギオン・ウォー、大差をつけ"黒の系譜"が勝利!あの大物軍団レギオン"碧い鷹爪"をトップ争いから引きずりおろす!……………か」


「おいおい、これまじかよ」


「下手したら、勢力図が変わるかもしれないぞ」


「"碧い鷹爪"って言えば、"獣の狩場ビースト・ハント"や"紫の蝋"、"殲滅連合"と肩を並べる程の軍団レギオンだろ?」


「ああ。そこに今度は"黒の系譜"が入ってくると。まぁ、いくら作られたばかりの軍団レギオンとはいえ親クランのランクがSSSなんだ。いずれはそうなっていたと思うぜ」


「まぁな。今回みたいにどこかの軍団レギオンに生意気だから潰してやるとか目をつけられて、それを返り討ちとかな……………そう考えると"碧い鷹爪"レベルの軍団レギオンで他にちょっかいをかけたのがいないのは何でだ?もしかして、嗅覚が鋭いとか?」


「それもあるだろうな。"黒の系譜"は不確定要素が多すぎる。奴らが結成されるまでの軌跡を吟遊詩人が歌っていたんだが、それを聴けば不用意に手を出してはいけない連中だということが分かる。そのラインを見誤ったのが今回の"碧い鷹爪"だろう。惜しいな。やっぱり長く冒険者をやっていると感覚が鈍るものなのか」


「やっぱり情報って大事だよな。それでいうと"黒の系譜"より下のクランや冒険者が喧嘩をふっかけないのもちゃんと下調べをしているからってことか」


「だろうな。特に邪神の件以降、あいつらの知名度は上がり、周りからの見方も変わった。運だけで生き残っていた訳ではないとな。高ランク冒険者ほど警戒をするようになり、低ランクの冒険者も野生の勘を働かせ、今のままでは勝てないと自己研鑽に励むようになった。だから、しばらくは表立って喧嘩を売るようなマネをせず、様子見をしていたんだろう」


「それに痺れを切らしたのが"碧い鷹爪"と」


「かもな。だが、それにしても時期が悪すぎる。もう少し待てば良かったものを……………おそらく、他の軍団レギオンを出し抜こうと焦ったんだろう」


「……………お前、さっきから、やけに詳しいな。もしかして、"黒の系譜"の関係者か?」


「いや、ただのファンだ!」


「ファンかよ!」


「ああ!それもゴリゴリのな!"黒の系譜"に関するありとあらゆる情報は一通り、頭に入っているし、あいつらが訪れた場所や拠点も巡礼済みだ!ちなみに俺の推しは"紫円"レオナだ!」


「誰も聞いてねぇよ!」


「だからこそ、今回の軍団戦争レギオン・ウォーに関しても色々と調べさせてもらったんだ。"碧い鷹爪"のことはこれっぽっちも好きじゃないが、一応"黒の系譜"と一戦交えるということで現在の奴らの状態やこれまでの成り立ち、そして、この戦いを行うにあたっての動機などをな!」


「好きでもない奴らのことを嫌々調べる、その精神が凄いわ」


「だって、"黒の系譜"に少しとはいえ関わるんだもん。これはファンとして当たり前な行いだ」


「当たり前じゃねぇよ!その熱量をもっと他のことに活かせよ!」


「は?お前、俺の本業を何だと思ってんの?」


「いや、れっきとした冒険者だろ」


「いや、違うぞ?」


「は?」


「俺の本業は"黒の系譜ファンクラブ"の会長だから。冒険者なんてのはその片手間でやってるだけだ」


「お前、どうなっちゃってんの〜!」


「レオナたん、はぁ……はぁ………」


「急にどうした〜!」


そこから5分後、十字固めをきめられた冒険者はようやく現世へと戻ってきた。


「すまん、つい我を忘れた」


「しっかりしてくれよ」


「で?何故、"黒天の星"はあれだけの事業を展開できるのかって?」


「いや、聞いてねぇよ!しかもいきなり真面目な話題だな!」


「確かにお前の疑問も尤もだ。いくら、あいつらが人数の多いクランとはいえ、あれだけの事業を回すには限界がある。ましてや、最近では他の街や都市にも2号店を出したり、他の事業の試運転までしている始末。だが、物事にはちゃんとしたカラクリがある。安心しろ」


「別に心配はしてねぇよ」


「まず、基本事項のおさらいだ。通常、1つの事業につき1つの組で回す。これがあいつらのスタイルだ。もちろん、手が足りない時は他の組員にヘルプを頼むこともあるし、余裕がある組員は自ら志願して、手伝う時もある。例えば、依頼で遠くに出かけて欠員が出てしまう時とかだな」


「いや、初めて知ったんだけど」


「しかし、有能な者がいくらいようが数的問題というものは必ず付き纏ってくる。ましてや、噂が噂を呼び、客が日に日に増えている現状では猫の手も借りたい状態だ。そこで奴らが出した結論というのが"みんなでお店を回していこう!"だ」


「みんなで?」


「ああ。傘下のクラン達にも手伝ってもらってだ。つまり、"黒の系譜"全体で回していこうってことになったんだ。もちろん、これは強制した訳ではなく、傘下側からの申し出だったらしい。なんでも"自分達が傘下としてできていることは少ない。だから、力になりたい。それにいずれ自分達が事業を展開する時がくるかもしれない。その下積みだと思えば、むしろ楽しみだ"とかなんとか」


「へ〜いいチームじゃないか」


「その結果、数的問題は解決された。流石に仕事の手際や理解度は"黒天の星"のメンバー程ではないが、それでも今のところは苦情もなく、やっていけているそうだ。でないと安心して他の街に2号店を出したりできないからな」


「なるほど。そんな事情があったのか。面白いな」


「だろ?お前もあいつらの魅力が分かってきたか。"黒の系譜"は調べれば調べるほどハマっていくからな」


「………………」


「ん?どうした?」


「いや、まだ一番の疑問が残っているんだが」


「何だ?」


「なんでお前がそこまで詳しく知っているのかってことだよ」


「ん?」


「いや、だっておかしいだろ。いくらファンクラブの会長とはいえ、流石に知りすぎてる!傘下クランの申し出に至っては裏側で行われた会議かなんかの台詞をそのまま暗記していたような感じだし」


「………………」


「どうなんだよ」


「…………さてね」


「お前、まさか……………」


「ん?」


「犯罪っぽいことに手を染めたりしてないだろうな?」


「してるか!」

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