第228話 終戦
「そこまで!全員、武器を下ろしてその場で待機して下さい!」
広大な平原に澄んだ声が響き渡る。それは音声の魔道具によって、拡声されたハーメルンのものであった。審判を務める彼には逐一、戦場の様子を把握し冒険者に不正がないか、また問題なく戦いが行われているかなどを確認する義務があった。またそれだけではなく、命に別状のある冒険者や降伏宣言の証である旗の有無、さらには映像の魔道具が故障していないかをチェックする仕事などやることが非常に多く、息をつく暇がないほど動いていた。とはいっても1人で見ることのできる範囲には限界がある。その為、見逃してしまったとしても仕方のないこととして処理され、特に見咎められることはない。そんな状況の彼が現在、冒険者達に呼び掛けた理由はたった1つ……………戦いの決着がついたからだった。
「只今、集計を行っております。今しばらくお待ち下さい」
ちなみにどちらかの
「皆様、大変お待たせ致しました。たった今、集計の方が終わりました」
約10分程の間があり、ようやく審判の声が魔道具から聞こえた。皆、戦場を見渡せば、どちらが勝ったのか一目瞭然な訳だが、それは言わぬが華。何故か、見届け人達も自然と肩に力が入る。
「勝敗は決着の時点でその場に立っていた者の人数で決めさせて頂きます。では発表致します」
かすかに芝居がかった感じで進行するハーメルン。やることが多く、大変ではあったが、なんだかんだで彼もそこそこ楽しんではいたようだ。
「まずは"碧い鷹爪"……………親クランはなんと0人ですが、傘下の方はどうやら健闘していたようです!合計20人!」
まばらな拍手が聞こえる。そのほとんどが同情であり、本人達にもそれは十分に分かっていた。皆、疲れ切っていて反応が返せてはいないが。
「次に"黒の系譜"……………これは凄いですね。親クランがほとんど、傘下は6割ほどが立っていたそうです!そして、これらを合計すると……………なんと驚異の数字…………491人だ〜!!ということで今回の
「「「「「うおおおおっ〜〜〜!!!!!」」」」」
直後、鳴り止まぬ歓声と拍手。そんな中、失神し泡を吹いて倒れ出す者やどさくさ紛れで愛の告白をする者、有望な人材を虎視眈々と狙う変態などが見届け人席から現れたが、特に実害が出ることもなく、これにて終戦となった。その後、当事者達はいくつかのやり取りを経て、観客達は興奮冷めやらぬ中の解散。後日、この戦いがその場に居合わせたギルドの記者によって、世界中の冒険者達に知れ渡ることとなり、またもやシンヤ達は注目の的となる。だが、この時の彼らはそんなことを知る由もないのだった。
――――――――――――――――――
「どうだった?彼らは」
「凄かったな!ってか、そんなことよりもハーメルン、お前いつの間にシンヤ達と仲良くなったんだよ!」
「いや、まぁ色々あってね」
「ずるいぞ!アタイだって、まだ…………」
「うるさいぞ、ウィア。お前のそういうガツガツしたところは昔から嫌いだ」
「なんだと!」
「"黒締"も嫌がっていただろ。だから、避けられたんだ」
「あ、あれは疲れていたから早目に帰っただけだ。"お前がシンヤか!アタイと勝負してくれ!"って言っただけだし」
「かなりウザいな。ましてや、あのタイミングで言うか?本当に空気が読めないな」
「う、うるさいな!お前の方こそ、自分のことを"俺様"とか言う勘違い野郎じゃないか!」
「お前、死にたいらしいな」
「ふんっ。そっちこそ」
「まぁまぁ、2人共。少し落ち着きなさい。私達がここに居合わせたのは何も喧嘩する為じゃないでしょ。ましてや、先程の対戦を見る為だけでもないし」
「……………すまん」
「ごめん」
「分かればいいのよ」
「ふ〜っ、ありがとうネイアさん。いつもあなたばかりに仲裁の役目を押し付けて、ごめん」
「そんなこと気にしなくていいの。私はみんなの笑顔が見たいだけだから」
「ケリュネイア…………」
「ぷっ、顔真っ赤にしてやんの。自称、俺様野郎」
「お前っ!」
「はいはい、ストップ。もうあまり時間がないから、そろそろ行くよ」
「は〜い……………それにしてもどのくらいぶりなんだろ。みんなに会うの」
「例のあの時以来だな」
「もうみんな着いて待っているかしら?」
「どうだろ。でも早く会いたいね」
「まさか、こんな日がくるなんてな」
「うん。未だに信じられないよ…………クラン"箱舟"の元メンバーが全員集まるなんて」
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