第227話 軍団戦争6

「ひぃ〜っ!」


「な、何なんだよ!」


「ば、化け物!」


"碧い鷹爪"の冒険者達は混乱の渦の中にいた。原因は彼らを追いかけ回す1人の鬼人にあった。


「逃げるなよ。お前らが売った喧嘩だろ」


両手に2本の刀を持ち、無詠唱で魔法を発動させながら、ゆっくりと冒険者達へ迫る鬼人。逃げ惑う冒険者達は運の悪かった者から順にやられていき、逃げ場もどんどんなくなっていった。中には諦めて無謀にも立ち向かおうとした者もいたが、攻撃が当たる筈もなく、次々と刀で斬られていく始末。もう駄目か……………そう考え始めた彼らにここで救いの声が聞こえた。


「お前ら!ここは俺に任せて逃げろ!」


「「「「「レ、レックスさん!!!!」」」」」


それは"碧い鷹爪"の幹部、レックス・シップだった。顔中に傷があるその男は佇まいから、歴戦の猛者を思わせる何かがあった。大剣を楽々と肩に担ぐその筋力も只者ではない。ただ唯一、解せないのは口に木の棒を咥えていることだった。


「お前があの"朱鬼しゅき"だな?」


「"あの"ってのがどれを指してるのかは分からないが、確かにそう呼ばれてるな。ところでお前は?」


「俺はレックス。"倒木"とも呼ばれてる」


「へ〜」


「え?由来を知りたいってか?仕方ねぇな。そんなに知りたきゃ教えてやるよ」


「聞いてないから」


「修行の為に大剣を振り回してたら、周りの木が倒れてたんだ。そこから」


「自信満々そうに話すから、何かと思えば随分と薄っぺらいな。アタシの時間を返せ」


「ほぅ。大した度胸だな。今まで俺にそんな態度をした奴はこの世にいないぞ」


「周りがYESマンばかりだからか?」


「いや、そんな態度をする奴らは……………全員、あの世へ送ってやったからだ!」


「なるほどな。その殺気、アタシら以外じゃ耐えるのキツいだろ。ってか、お前、仲間の中で一番強いんじゃないか?」


「よく気が付いたな。実はそうだ」


「何故、そんな奴が幹部をやってる。まさか、リーダーに興味がないのか?」


「それもある。だが、一番の理由は俺がブレス様を崇拝しているからだ。あの方こそ、至高。そして、あの方はいずれ冒険者の世界でトップになるんだ」


「……………お前、今何て言った?」


「っ!?おいおい、嘘だろ…………なんて殺気だ」


「よく覚えとけ、馬鹿。冒険者の頂点に立ち、いずれこの世界を統べる王はただ1人……………それはシンヤ・モリタニだ」








――――――――――――――――――








「おい、止まれ!」


「何?」


「お前、"銅匠"だな!俺は幹部のサブ!」


「?」


「俺が相手をしてやる!」


「望む、ところ」


他の場所でも幹部と幹部の戦いが始まっていた。ノエがハンマーを振り回し、敵を蹴散らしたかと思えば、


「"雷落とし"」


「あべべべべべっ」


「あら?さっきの威勢はどうしたんですか?」


「な、なん………で…………こう、なった?」


アスカが雷と薙刀で敵を蹂躙。


「つまらんのぅ。もうちっと骨があるかと思ったぞよ」


「こ、こいつ、イカれてやがる」


「安心せい。シンヤに戦いを挑むお前んとこのリーダーの方がイカれとるからのぅ」


「なんだと!」


「お、まだ気力が残っておるではないか。では第二ラウンドじゃな」


別の場所ではイヴが妖しく微笑みながら、鎌を持ち上げ、それを振り下ろす。


「ぬるいっ!」


「くっ!あの時とはレベルが違う!やはり、竜人族は格が…………」


「種族の差などさして変わらん!現に我らのリーダーは人族だぞ!そんなことに囚われているようだから、お前はその程度なのだ」


ラミュラは敵の幹部に傭兵時代の顔見知りがいた為、その者を相手に遠慮のない言葉と技で翻弄。


「ちぃっ!お前が情報屋をしている時、依頼をしてやった恩を忘れやがって!」


「その節はどうも………………って言ってもお前のことなんか覚えてないけどな」


「んだと!」


「昔のことをネチネチとうるせぇな。もう俺は情報屋じゃない。今は探偵をやっている」


「似たようなもんじゃねぇか!」


「いや、本業は冒険者だ。それも最高の仲間達と共にな」


ドルツは幾本もの短剣を敵へ容赦なく投下。


「早くきやがれデス!」


「眠いの」


「くそがああぁぁ!」


「これでもくらえ!」


スィーエルとレオナはそれぞれ控えめに攻撃。とはいっても周りに陥没した箇所はいくつもあるが。


「これでアンタ達の周りには大量の罠が設置されたわ。覚悟して、動くことね」


「く、くそっ!これじゃあ、不用意に動けねぇ!」


「も、もう我慢できねぇ!…………ぐはあっ!」


「おい!適当に動くな!」


敵の悲鳴と共に爆発音が響く。そこはローズによって大量の罠が設置された危険地帯になっており、不用意に近付く者は手痛い洗礼を受けていた。


「小さいのに何てパワーしてやがる!」


「小人だからって、馬鹿にした?言っておくけど、かつて邪神を封印した者達の中に小人族もいたからね」


「だが、そんなものは例外!例外ってのは1つだけで十分だ!」


「あっそ」


一方、ニーベルの場合は敵が道具を使うタイプでそれを愛用武器である斧で破壊していた。あちらこちらで展開する様々な戦い。軍団戦争レギオン・ウォーは着実に終わりへと近付いていた。

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