第222話 軍団戦争

広大な平原に何千という数の人間が集まっていた。それらは全て冒険者であり、ある地点を境にしてそれぞれの陣営として2つに分断されている。その中で一部の者達はとあるクランマークの入った大きな旗を掲げていた。双方、睨み合いのような状態がかれこれ5分程続いているのだが、それぞれの雰囲気は対照的で一方の陣営には張り詰めるような緊張感が漂い、もう一方には至って普段通りの空気が流れている。


「ではあと数分後に軍団戦争レギオン・ウォーを開始したいと思います。双方、後悔のないよう、最後の最後まで準備や装備・作戦の確認などをしっかりと行って下さい」


そう告げたのは"笛吹き"の異名を持つSSランクの冒険者、ハーメルンだった。彼は今回、戦いの審判及び見届け役として、この場に立っている。そもそも軍団戦争レギオン・ウォーとは軍団レギオン同士が日時や場所を指定し、お互いの持つ資産や名誉、縄張りなどを懸けて争うギルド公認の戦いである。もちろん、これはお互いの同意の下、行われるものであり、縄張りとなっている国や地域に戦いの模様が映像の魔道具によって、伝わってしまう為、原則として死人を出してはいけないことになっている。しかし、過去には意図せず、手にかけてしまうといった事例もあり、故意でなければそのような事態に陥っても最悪、仕方がないとされている。この戦いの影響はとても大きく、勝てばその軍団レギオンの信用が一気に上がり、多方面から依頼が舞い込んでくる。一方、負けてしまえば、信用は一気に下がり、それが原因で軍団レギオンがバラバラになり、深いトラウマを抱えたまま冒険者をやめてしまうといったこともある。また個人的な恨みから、家族や親戚までもが危険に巻き込まれてしまう可能性もあり、非常にハイリスクな戦いとなっている訳だが、勝った時のリターンを夢見て挑む冒険者は昔から数多くいた。ところがそれも10年程前までの話であり、ここ数年は様々な勢力が均衡状態を保っていて、比較的落ち着いていた……………ようだが、どうやら今回はそうではないみたいだ。


「いいか、お前ら!今回の軍団戦争レギオン・ウォーは決して負けることが許されない!心してかかれ!」


「「「「「はい!!!!!」」」」」


ピリピリした空気を放つ陣営では軍団長レギオンマスターが仲間達に喝を入れている。それに対して、仲間達は同意を気合の入った大声で以って返した。


「ブレス様、なんかキャラが違くないか?普段だったら、もっと余裕ある態度だろ」


「それはそうだろ。なんせ、今回は審判をあの"笛吹き"か務めるんだぞ。しかも緊張する要素はそれだけじゃない。見届け人として、"赤虎"・"大風"・"麗鹿"まで来てやがる。さらにそいつらに関係するクランや冒険者もこぞって見学する始末。おまけに何故かギルドの記者までいやがる…………………この戦いが終わった後、世界中の冒険者達に知れ渡るだろうな。勝者と敗者がはっきりと」


「なんか、とんでもない事態に発展してないか?」


「まぁ、それだけ"黒の系譜"が注目されてるってことだろ」


「俺達も傘下の1つとして、気合いを入れなきゃな」


「ああ。こんな大規模な戦いに負けてしまえば、俺達は終わりだ。なんせ、敗北が知れ渡る範囲は縄張りだけじゃ済まないからな」


「文字通り、一世一代の大勝負って訳か」


「俺達ですら、そんな気持ちなんだ。ブレス様のクランのメンバーはもっと気が気じゃないだろうな。もし、万が一にも負けるようなことがあれば、今の状態のブレス様からどんな制裁が待っているか想像がつかない」


「おいおい。始まる前から、そんな弱気でどうする。俺達にはあのブレス様がついてるんだ。万が一なんてこと、そうそうない筈だ」


「だ、だよな?」


仲間に同意しつつも何故か、その冒険者には一抹の不安が拭えずにいた。


「では皆さん、準備は整いましたか?お返事は代表して、両陣営の軍団長レギオンマスターの方がお願い致します」


「いつでもいけるぞ」


「同じく」


そうこうしている内に審判から声が掛かる。それに対して、やはり対照的な表情で返す2人のトップ。それを受けた審判は周りを見渡して軽く微笑むと開戦の言葉を告げた。


「只今より、"黒の系譜"対"碧い鷹爪"の軍団戦争レギオン・ウォーを開始致します!両陣営共、正々堂々とルールに則り、戦うように!」

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