第221話 飴と鞭

冒険者の街、ネイト。10年前、突如出現した迷宮の近くに出来た街で一攫千金を目論む冒険者達で溢れている。とはいっても迷宮に潜ることで稼げる者はほんの一握りである。何故ならこの迷宮、区分的には上級に分類される為、1階層目からそこそこ強い魔物が待ち構えているのだ。販売されている地図に載っているのも30階層目までのものしかなく、最後まで到達しクリアした者がいない迷宮………………なはずだった。彼女達がやってくるまでは。


「ほら、行くよ!」


「「「「「は〜い!!!!!」」」」」


小休憩にと飴を舐めていた少女達が立ち上がる。彼女達はクラン"黒天の星"の桃組の組員達だった。遡ること数時間前。ネイトへと辿り着いた彼女達はギルドへと顔を出した後、不動産屋へ向かい、クランハウスを購入。その足ですぐに迷宮に潜り出したのだ。そこから今いる階層までとんでもないスピードで進み、ちょうどいいスペースがあった為、少しばかり休憩を取ることにしたという訳だった。階層を進む度にすれ違う冒険者は驚きの表情をしていたが、そんなことに興味のない彼女達は一瞥さえくれることがなかった。


「確か現時点での最高到達階層が30だっけ?」


「そうですね」


組長であるアゲハが副長のシズカヘと質問をする。現在、彼女達がいる階層が25。この勢いであれば、すぐにでも記録を更新しそうだった。


「さて、ちゃっちゃっとクリアしますか」


「上級なので油断は禁物です」


「分かってるって。君達も気を引き締めてね」


「「「「「はい」」」」」









第35階層目。アゲハ達の目の前には無数の魔物がいた。サイクロプス、ゴブリンキング、ワイバーンなどなど………………AやBランク冒険者ですら、見かければ裸足で逃げ出す程の強敵達。しかし、中には例外もいる。こと彼女達に限って、逃走などという選択肢は用意されておらず、むしろ極上の獲物を見つけた時のように興奮していた。


「"水走鞭"」


「ゴボラっ!?」


「グガッ!?」


「ワオンッ!?」


水を纏った鞭がサイクロプスの眼球へと直撃。その衝撃で頭ごと吹き飛ばされたサイクロプスはバランスを失い、後ろへと倒れていった。だが、鞭の勢いはそれだけで収まらない。そのまま他の場所に立っていたゴブリンキング、ブラックウルフにも同様に当たり、同じく頭を飛ばされて絶命した。


「"雷鳴り"」


「"土槍葬"」


「"風切り"」


組員達も負けてはいない。各々、魔法で次々に魔物達を屠っていく。彼女達にとって適正ランクなどは関係ない。ただ殺るか、殺られるか。存在しているのはその2択のみだった。


「んじゃ、この調子でペースを落とさずに進んでいくから。途中で何かあれば、言って。例えば、ボスは自分が倒してみたいとか」


「「「「「はい!!!!!」」」」」 


「よし。このまま突き進むよ〜」








――――――――――――――――――









「はい?今、何と仰いました?」


「だから、迷宮をクリアしたって言ったの。ほら、証拠」


「た、確かにそう記載されていますが…………それにしてもこんな短時間で」


依頼帰りの冒険者達で混雑するギルド内。そんな中であっても一際目立つ集団があった。服装もさることながら、発言内容も只事ではないその集団は周りの視線を全て集めている。


「あいつらは……………」


「今、話題のクランの奴らだな。先頭にいるのが銀のバッジをつけているから、組長だな」


「あの見た目は……………"華蝶"アゲハか。っていうことはあいつら、桃組のメンバーだな。ちゃんと組員まで引き連れて、立派にリーダーやってるのか」


「お前はどの立場なんだよ。そんなことよりも聞いたか?あいつら、難攻不落だった"アシダクト迷宮"を制覇したみたいだぞ」


「流石だな。まぁ、組長がSランクだとそれも可能か」


「まぁ、俺達には一生縁のない世界だな。く〜っ、羨ましい!」


「だな……………ん?今、あいつら包み紙から何か取り出して、口に含まなかったか?何だ、あれ?随分と小さかったが……………肉じゃないよな?」


「何だろうな?……………あ!近くで様子を窺っていた男が"華蝶"に向かっていったぞ。あいつは確か、迷宮をクリアできなくて、何年も燻っていたホアンじゃないか。あ〜あ。どうなっても知らないぞ」


「しつこく絡んでるな。それに対してあいつら、ずっと無視して受付嬢と会話してる。凄い度胸だ。……………あ、ついに我慢できずホアンが手を出した」


「……………で、当然返り討ちに遭うと。馬鹿だな、アイツ。触らぬ神になんとやら。やっぱり、直接関わらず、外から眺めているのが一番だぜ」


「だな」


その後、ギルドマスター室に通されたアゲハ達。その際、先程の件があってか絡んでいく冒険者は1人としていなかった。

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