第216話 不穏な動き

とある組織の地下にある研究所。そこは研究員を除けば、組織の中でも限られた者しか立ち入ることが許されない秘密の場所となっていた。全体的に暗くどんよりとしており、研究に使われる素材や道具があちらこちらに散乱している。また、中にはいくつか埃を被っているものもあり、かなり前から取り組んでいるのか、紙にびっしりと文字が書き連ねてあった。室内に研究員は全部で10人程おり、皆何かに取り憑かれでもしているのか、ある一点を見つめながら一心不乱に紙へとペンを走らせている………………とそのうちの1人が徐に立ち上がり、扉へと近付いた。そして、次の瞬間、扉が勢いよく開かれた。


「お待ちしておりました」


「どうだ?調子は」


「非常に順調でございます。やはり素体が良かったのでしょう。皆、適合率が8割を超えています」


「そんなにか。ならば、ひとまず第二段階は成功といえるだろう。それにしてもお前もよくやるな。元とはいえ、仲間なのだろう?」


「はい。だからこそです。僕があの組織でスパイ活動をしている時に特に目を引いたのが彼らだったので……………素体としては申し分ないですし、それに何より彼らに対して情のようなものは一欠片もありません。これほど気兼ねなく没頭できる研究はないでしょう」


「お前に目をつけられた彼らも運が悪い。いくら死人とはいえ、埋められていたところを掘り起こされて連れていかれるなど嘸かし気分が悪いことだろう」


「こいつらにはそんなのを感じる心がもうありませんよ。死人に情無し。むしろ、僕の行いに感謝して欲しいぐらいですけどね。あのまま、ほっといても後は大地の栄養となるだけしか能のない奴らを有効活用してあげようってんですから。こいつらも最期の最後に華を持たせてもらって、嘸かし気分が良いことでしょう」


「お前のような奴を俺がいた国では墓荒らしやマッドサイエンティストと呼んでいた。そこまで振り切れるといっそ清々しいな」


「お褒めに預かり光栄でございます」


「では引き続き、よろしく頼む。こちらもそろそろ動き出すつもりなのでな」


「ええ。あの男は最後に詰めが甘くて失敗しました。だから今度こそ、あの時よりももっと大きな絶望と恐怖を与えてやりますよ」


「頼りにしているぞ、









――――――――――――――――――







「ようやく準備が整い、この日を迎えることができた」


とあるクランハウスの会議室。そこでは複数のクランのマスターや幹部達が集まり、非常に緊張感が溢れていた。一部を除いたほとんどの者が覚悟を決めた険しい表情しており、この場の最高責任者である男の方を見ながら、次の言葉を待っている。


「事前に宣戦布告状を奴らに送りつけ、俺達の意図は伝えてある。通常、何の理由もなくいきなり事を起こすのはルール違反だ。これで向こうも俺達を警戒することだろう」


「そんな面倒なことせずに突然、やっちゃえばいいじゃないすっか」


「冒険者として生きていく上では最低限、守らなきゃいけねぇルールってもんがあるんだ。自由にするのは構わないが適当なのはダメだ」


「へ〜い」


「結果がどうなろうがこの一件によって、俺達の今後は大きく変わる。いくら俺達の方が歴が長いとはいえ、油断はするなよ。今までの奴らと同じと考えろ」


どこからともなく唾を飲み込む音が聞こえた。不安がる者、強気でいる者、余裕綽々な態度の者……………皆、感じることは様々ではあるがただ一つ共通していることがあった。それはこの最高責任者の男を信じているということだった。


「今回のことで俺達の元を去っていった者達もいる。俺はそいつらを責めはしない。人間、命あっての物種だ。恐怖は防衛本能。何も悪いことじゃない」


男の言葉が部屋の隅々まで浸透し、周りの者へ影響を与えていく。先程まで負の感情が渦巻いていた者も不思議と元気が湧いてくるかのようだった。


「ここにいる奴はもちろん、いない奴らの分まで俺は想いを背負って突っ込んでいく………………最後に確認だ。お前ら、俺と一緒に命賭けてみるか?」


「「「「「当然。最後までお供致します!!!!!」」」」」


男は満足気に頷くと立ち上がって、こう言った。



「じゃあ、いくぞ………………"黒の系譜"をぶっ潰しに」

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