第213話 狐虎相搏つ
「と・に・か・く!アタイと真剣勝負をしてもらうまでは毎日でもここに通い詰めるからな!」
「あんた、暇人なの?」
「違うわ!今は何をしてても手に付かないだけなんだよ!それもこれもお前のせいなんだからな!」
「とんだ言い掛かりね。でも、まぁその勝負とやらをしなきゃ、あんたから解放されないのなら、仕方ないわ」
「お?いいのか?」
「ええ。私、嫌なことや面倒臭いことは先に終わらせるタイプなの」
――――――――――――――――――
冒険者ギルドの地下にある戦闘訓練場。現在、そこには沢山のギャラリーが詰めかけ、観客席がほぼ満席状態となっていた。そんな彼らの視線の先には2人の冒険者が向かい合って、立っている。ウィアとクーフォだ。あの後、話がまとまり、今すぐにでもと動き出した彼女達。その際、実戦を想定した模擬戦を行うとのことでそれなりの場所が必要になった為、ギルドの訓練場を借りることとなった。しかし、SSランクとSランクの試合だ。他の冒険者が近くにいた場合、それに巻き込まれでもしたら、タダでは済まない。となると自然と貸し切りにする必要があった為、事情を説明して、数十分の間は他の冒険者には訓練場の使用を控えてもらった。さらにそこからギルドマスターの許可が下りるまで待ち、ようやく承諾の合図が出た頃にはとっくに2人の模擬戦のことが知れ渡り、大勢のギャラリー監視の下、行われることとなったのである。
「にしても来すぎでしょ。どんだけ暇なのよ、あいつら」
「お前はそればっかりだな。言っておくけど、あいつらにとっちゃ、この試合はただの暇潰しではないかもしれないぞ。高ランク冒険者同士の試合は見るだけでも学ぶことが多い。それこそ、金を払ってでも見たいと思う連中はごまんといるさ。現にアタイんところもクランメンバーだけじゃなくて、傘下まで見学に来ているしな。まぁ、あいつらはどっちかっつうと勉強よりも応援の意味合いの方が大きいとは思うが」
「へ〜あんたって、
「ああ。
「ふ〜ん……………ちょっと待って。もしかして、あんたが私を欲しがったのって」
「お察しの通りだ。もちろん、それだけが理由ではないがな」
「あっそ。ま、どうでもいいけど。あんたのところに入る予定なんてないんだし」
「そんな余裕こいてていいのかよ。どうすんだ、最悪の展開にでもなったら」
「負けなければいいだけだし」
「か〜っ、アタイ相手にここまで強気でこれるなんてな。お前んところのクランマスターに興味が出てきたな。1度会ってみてぇ」
「え…………絶対に嫌。会わせたくない」
「おい、そこまで嫌がることはないだろ!」
「………………変態」
「ちょっ、なんだ………」
「両者、位置について下さい」
ウィアがクーフォに食い下がろうとしたタイミングで審判の声がかかる。それと同時に観客席も静かになり、試合の開始を誰もが固唾を飲んで待っていた。一方の2人も先程とは打って変わって、真剣な表情になり、各々が得物の具合を確かめている。そこから数秒後だった。
「始め!」
模擬戦が始まったのは。
「"韋駄天"!」
「"野生の勘"!」
固有スキルの発動はほぼ同時だった。そして、2人は高ランク冒険者でも一握りしか認識できない速度で動き回り、あっという間に観客達の前から姿を消した。
「お、おい。何が起きてるんだ」
「なんか武器がぶつかり合う音は聞こえるぞ」
時折、聞こえる金属音を頼りに場所の特定を急ぐ観客。しかし、目まぐるしく位置が変わる為、すぐに諦めて事の成り行きを静かに見守るスタイルへとシフトする。それが数分続いた頃だろうか。急に音も止んで息切れの声と共に2人が姿を現した。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「ふ〜やっぱりSSランクは伊達じゃないか」
そう呟きながら、魔法の準備をするクーフォ。愛用の鉤爪には戦闘の激しさを物語るかのようにいくつも傷がついていた。だが、それもすぐに修復されていく。黒衣の方も少し汚れてはいるものの破損などは特に見受けられなかった。一方のウィアは肩で息をしながら、クーフォを鋭い眼光で見据えていた。たった数分しか動いていないにも関わらず、大量の汗をかき、愛用の剣は刃こぼれを起こしている。彼女の愛剣は決して安くはない。素材は彼女が今まで手に入れた最高品質のものを使用している。その為、今までどれだけ危険な魔物を相手にしても刃こぼれなど一切起こしたことがないのだ。それがどうしたというのだろうか。
「"爆炎"、"氷山"」
しかし、考えている暇はない。クーフォから放たれた火と氷の魔法がそこまで迫っていた。あれはヤバい。頭の中で警鐘が鳴り始めたウィアは咄嗟に比較的被害が少なそうな場所を見極め、そこへと素早く移動した……………が
「"流爪断"」
それを読んで既に先回りしていたクーフォから鉤爪による一撃が放たれた。これに対し、ウィアは攻撃のくる位置を予測し、その部分に強化の魔法をかけることで辛うじてダメージを減らすことに成功した。ところが元々の力がとんでもない為、焼け石に水の状態。意識が飛びそうになりながらもどうにか意地だけで立っていた。
「驚いた。予想よりもやるわね」
「はぁ、はぁ、それはこっちの台詞だ」
「どうする?まだやるの?」
「気持ちだけはあるんだがな……………でも、ダメだ。身体がついてこねぇ」
「ってことは」
「ああ。この勝負…………アタイの負けだ」
直後、床へと倒れ伏すウィア。ほっと一息ついたクーフォが呆然としている審判へと目をやると途端に凄い勢いで我に返り、こう言った。
「勝者、クーフォ!」
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