第211話 赤虎

フリーダムから遠く離れた街サド。そこは以前、カグヤとクーフォがクランメンバー確保の為に訪れた街である。邪神災害の一件後、街全体でいくつか修繕や補強などが行われ、新たに街の外には防壁のようなものまで設置されるようになったこの街では日夜、様々な人々が行き交い積極的な売買が繰り広げられており、活気が凄い。そして、それは冒険者ギルドにおいても同様だった。


「かぁ〜っ、酒が美味いわ」


「お前、そろそろ依頼受けとかないと危なくないか?」


「うるせぇ。他人のこと心配している場合かよ」


「俺はお前と違って、コツコツとやってるから大丈夫なんだよ」


「おい、何だよそれ!裏切りやがったな!」


「何故そうなる……………全く、お前って奴……………は」


「ん?おい、どうしたよ」


真昼間から酒を煽っていた2人組みの男達。うち1人が突然、ある一点を見つめて言葉が途切れたことに違和感を覚えたもう1人の男はその視線の先を追っていった。すると………………


「あれはクラン"黒天の星"の奴らか」


「間違いないな。黒衣にあのマークだ。そんなの他にいねぇだろ」


「金のバッジを付けている奴がいないのを見る限り、どうやら幹部はいないみたいだな」


「代わりに"十長"の1人はいるがな」


「あれは…………"九尾"のクーフォか。にしてもいくらSランクとはいえ、幹部やクランマスターの同行なしかよ。大丈夫か?」


「ああ。なんせこの街には奴がいるからな。まぁ、そうそう運悪く出会うこともないとは思うが」


彼らの心配を他所にクーフォ達はギルドの受付へと進み、話をし始めた。しかし、そこから数分後。突然ギルドの扉が大きく開かれ、1人の女が現れたことでそれも中断せざるを得なくなってしまった。何故なら……………


「おい、そこのお前達!ちょっとツラを貸しな!」


クーフォ達へ向けて大きな声で言葉が放たれたからだった。







――――――――――――――――――









「おっ、お前珍しい九尾種じゃないか!まさか、こんなところで出会えるとはな」


「……………」 


「おい!無視するなよ!待てってば!」


クーフォ達は女の言葉を無視して扉から出て行こうとする。これはいつものことだ。今や"黒天の星"は有名なクラン。訳の分からない者に話しかけられることなど日常茶飯事なのだ。


「やべぇ、あいつ"赤虎"に絡まれてるぞ」


「災難だな」


後はこのままいつものように出て行くだけ…………そう思っていたクーフォだったがある言葉に反応し、立ち止まった。


「"赤虎"…………」


「あ、待ってくれた。何だよ、話が分かるや…………」


「自分の名と用件も伝えず、いきなりツラを貸せとか失礼極まりないわ。そんなのに構うはずないでしょ」


「あ、悪い。興奮して忘れてたわ。アタイはウィア。巷では"赤虎"とかって呼ばれてる」


「私はクーフォ。一応"九尾"って二つ名があるわ。で?用件は何かしら?」


「アタイと模擬戦をして欲しい」


「は?」


「お前達、"黒天の星"のクランメンバーなんだろ?めちゃくちゃ強いって噂をかなり聞くぞ」


「だから?」


「アタイと戦って欲しいんだ!アタイは常に強者を欲してる。一体どこまで強くなれるのか、自分の限界を知りたいんだ」


「そう。あなたの言い分は分かったわ」


「そうか!じゃあ」


「でも、無理」


「えっ!?な、なんで!?」


「だって私達には何のメリットもないもの」


そう言って呆然とする女の横を通り過ぎて出て行くクーフォ達。彼女の脳裏にはシンヤが言っていたある言葉がチラついていた。





「いいか?お前達には今から話す奴らを覚えておいて欲しい。そして、万が一、向こうから接触を計ってきた場合は注意してくれ。まぁ、信用できると判断したら、それ以上警戒はしなくてもいいが…………それじゃあ話すぞ。かつて伝説のクランがあってだな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る