第210話 組織

「こうして操政国家ファンドランは滅び、これからは民主国家デモクラシーとなったか」


「そうデス。新たな王も国民の中から選出し、これからは国民のことをしっかりと考えた国家を運営していきやがるみたいデス。ちゃんとマスターの言った通りになりやがったデスね」


「それとちゃんとクランの旗も立ててきたの」


「そうか。お前達、良くやったぞ」


そう言って2人の頭を撫でるシンヤ。その顔はとても慈愛に満ちたものだった。


「た、たかが1万程度の軍勢なんて大したことないデス」


「盟主様に頭を撫でてもらうの好きなの〜」


その様子を羨ましそうに見つめるいくつもの視線を無視したシンヤは同じ部屋にいる少女へと目を向けた。


「ということだ。悪いがお前自らの手で復讐することは出来なくなった。こちらが想定していた向こうの兵力を相手にするにはまだお前のレベルが足りていないと判断したからな」


「い、いえ!私の方こそ、すみませんでした!私の事情にお姉様方を巻き込んでしまって…………」


「サクヤ、それは言わないお約束デス。あなたは大事な仲間であり、家族も同然デス」


「家族の痛みはみんなの痛みなの。分け合うの」


「スィーエルお姉様…………レオナお姉様……………」


「これで分かっただろ?俺達のうちの誰かに何かがあって、それが本人だけでは解決できないことだとしたら、代わりに他の誰かが助ける。俺達はそうやってお互いを支え合っているんだ。だから、覚えておけ。ここで受けた分を今度はお前が他の仲間を助けることで返していくんだ。もちろん、それは今この場にいる他の者達にも言えることだ。いいな?」


「「「「「はい!了解致しました!」」」」」


「まぁ、そうそう大きなことは起こらないと思うがな」


「あ、あの〜ちなみに今回の件の解決に当たったのがお姉様方なのは何か理由があるんですか?」


「いや、特には。別にこいつらでなくてはならない理由はなかったが」


「えっ!?それじゃあ、どうして!?」


「"十長"以上の者達の中から希望者だけを集めて"ジャンケン大会"を行ったんだ。で、この2人が勝った。ただそれだけの理由だ」


「な、な、なんですと〜〜〜!?」









――――――――――――――――――








「十王剣武の第七席マドラス、ただいま戻りました」


「戻ったか。既に全員揃っている。では報告を聞こう」


「はい。まず私が操政国家ファンドランの宮廷魔術師として潜入してから、2年が経ちました。その間に様々な障害が立ち塞がり、任務は難航しましたが、ここ数ヶ月でようやく我々の思い描いていた通りの国へと変貌を遂げ、いよいよ計画も次の段階へと移行し始めていました」


「ああ。幾度か、こうして報告は受けていたな。上手くいっていると」


「はい。しかし、それもつい先日までの話で」


「何?」


「実はファンドランへと召喚された勇者が消息を絶つという事件が起きまして」


「何だと?確か、勇者には逃げられないよう首輪が付けられていたのではなかったか?」


「はい。なのでそのようなことになるなど予想だにしていなかったもので」


「先程のお前の口振りからして、逃げ出したはいいものの首輪が爆発したという訳ではないのだろう?そうなった場合はたとえ他の場所であっても足取りが掴めるはずだ」


「はい。そこで勇者は何らかの理由で首輪を破壊し、どこかへ逃げ延びたかあるいは他の協力者によって助け出されたかという線で考え、ファンドランの愚王には軍の編成をさせました」


「ふむ。それで?」


「軍の編成がようやく終わったというところで勇者に関わった者の特定をしようと動き出したのですが、その直後に現れたのです。"勇者を連れ帰ったという張本人"が」


「その者というのは?」


「冒険者クラン"黒天の星"の幹部でした。彼女達はいきなり2人で王城前へと姿を現し、愚王へと宣戦布告をしたのです。勇者を連れ戻し、また酷い目に遭わせるのなら許さないと……………これに対し愚王は全兵力で2人を迎え撃つことを決め、戦場へと向かっていきました。私は隙を見計らって国を抜け出して、こうして戻ってきた次第にございます」


「なるほど。ちなみに兵力というのはどれくらいだ?それと戦の結果は?」


「約1万程かと。私は戦が行われる前に抜け出してきましたので戦場の様子は見ておりませんが、おそらくは……………」


「まぁ順当に考えれば、"黒天の星"の勝利で幕を閉じたのだろうな。普通に考えて国家を相手にたった2人で乗り込むような馬鹿がいるとは思えん。それに"黒天の星"のようなイカれた連中ならば、そのぐらいのことがあっても不思議ではない」


「しかし、いくらあの英雄がいるクランとはいえ、俄には信じ難いのですが……………」


「確かにこの世・界・の基準で考えれば、たとえSSSランクの冒険者でもそのような真似はしないのかもしれない。だが、忘れたのか?中には例外もいる。それは何もあいつらだけに限ったことではない。表には出ていないがお前達のような実力者もそして何より……………」


そこで言葉を区切った男は被っていたフードを外した。そして、ちょうど外から入った光により、男の全容が浮かび上がる形となる。


「それを束ねる俺もまた例外中の例外という訳だ」


黒髪黒眼の男がそこに佇んでいた。

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