第207話 同盟
「同盟?何だ、それ」
「同盟とはクラン同士で結ばれる停戦の証でございます。お互いの了承の下、友好の契りを結ぶことで成立するこの同盟は相互扶助・領土不可侵が主なメリットとなっており、傘下や
「なるほど」
「本来であれば、同盟の説明は冒険者ギルドで行われることがありません。何故なら、傘下や
「グレーな存在か」
「はい。なのであまりギルド内で同盟という言葉は使わない方がいいとされています。わざわざ自分から悪目立ちする必要もありませんからね」
「そうか……………で?その同盟がどうした?」
「ここからは大変厚かましいお願いとなるのですがよろしいでしょうか?」
「とりあえず、聞くだけなら」
「ありがとうございます。僕のお願いというのは他でもありません。"黒締"シンヤ・モリタニさん………………どうか僕達と同盟を結んではもらえないでしょうか?」
「却下」
「……………やはり、そうですか」
「まず、俺がお前自体をまだ信用していない。したがって、お前の言っていることも半信半疑な状態だ。上手く丸め込まれて、後で裏切られたんじゃどうしようもないからな。あと同盟のメリットは聞いたが、デメリットが聞かされていない。本当に俺から信用されたいのなら、そこまで話す筈だ。物の押し売りじゃあるまいし」
「……………傘下をつける際はそこまで警戒なさらなかったそうですが?僕と彼らの違いは一体何でしょうか?」
「付き合いの濃さだな。確かに状況だけを見れば、あの日俺は突然9人もの同業者達に押しかけられ、いきなり頼み事をされた。今と数こそ違えど似たような状況でそこだけを見れば、懐疑的であり警戒心を抱く案件だ。しかし、あの中には俺が以前出会い、直接言葉を交わし共闘した者達がいた。またプライドを賭け、俺達へと戦いを挑んできた者もいた。どちらも戦闘の中でお互いのことを推し量り、結果そいつらが自分達の利益だけで動くような奴らではないと判断できた」
「………………」
「もちろん、中にはまだ出会ったことも言葉すら交わしたことのない者達もいた。しかし、そいつらの話を聞いていくうちに他の者達に便乗して寝首を掻こうなどとは1ミリも考えていないと分かった。現にそこからは感謝と敬意の念を感じ、より純粋に高みを目指そうとする気概があった」
「……………僕はSSランク冒険者ですよ?」
「だから何だ?まさか高ランク冒険者は嘘を言ったり裏切ったりしないと?ギルドから認められ、人々から尊敬の眼差しで見られるほどの人物がそんなつまらないことはしないと?そんな保証が一体どこにある?その先入観を逆手に取り、行動を起こす者はいるかもしれない。ましてや、どこまでいってもお前らは人間……………人は間違える生き物だ」
「………………」
そこから、しばらく静寂が訪れた。何を考えているのか、ハーメルンは帽子を目深に被り背もたれに背を預ける。目の前に置かれた湯呑みからは既に湯気が消え、お茶はとうに冷め切っていた。それがまるで今のこの状況を表しているかのようでおかしくなったのか、彼の顔に軽く笑みが零れた。そして、たっぷりと間を空けてから、こう言った。
「……………お見事。全く期待以上の方ですね、あなたは」
「やはり、何か企んでいたか」
「おや、それもバレていましたか」
「ああ。挑発に見せかけていたが、あの質問は俺を試しているように感じられた。なんせ悪意がまるでなかったからな」
「こりゃ参った。いよいよもってお恥ずかしい」
「ここまできたら、まわりくどいのはなしにして、本題を言え」
「いや、本題は先程も申し上げたこちらからのお願いで間違いはありません。しかし、それが全てという訳でないのもまた事実。実は我々、今回このような場での話し合いにおいて、1つシンヤさんを試させて頂いておりました。あなたは我々が同盟を組むに値する人物なのかどうか」
「で?結果は?」
「文句なしに合格…………という言葉を上から目線で言うこと自体、今は羞恥に悶えるほどの心境です。このたった数分のやり取りで感じ取った器・才覚・力量は我々の想像の遥か上をいっていました。噂以上の傑物。この勝負は我々の完敗です」
「ちなみに不合格となる基準は?」
「僕のお願いにすぐ首を縦に振った場合ですね。自分で言うのもなんですが、こんなあからさまに怪しい人間はたとえ高ランク冒険者であろうと信用してはいけません。まさしく、あなたの仰った通り、"そんな保証が一体どこにある?"です」
「で?ここから先はどうするんだ?」
「そうですね…………できれば先程のお話をご一考頂きたいのですが、それは流石に失礼というもの。第一、あなたには何のメリットもありません。一度帰って、仲間と話し合ってから出直し……………」
「いいぞ」
「はい?」
「別にいいって言ったんだ……………同盟を結ぶのが」
「は、は、はいいいぃぃぃ〜〜〜!?」
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