第58話 姉を求めて
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モール
性別:女 種族:竜人 年齢:18歳
Lv 50
HP 4500/4500
MP 4000/4000
ATK 4723
DEF 4695
AGI 4341
INT 4000
LUK 4500
固有スキル
竜化・不破鎧堂・飛行・追従者・魔の境地・守護神・叡智・サイボーグ・炎熱操作・戦士の誓い・透過・明鏡止水・???
武技スキル
刀剣術:Lv.MAX
体術 :Lv.MAX
魔法
全属性魔法
装備
黒衣一式(神級)
蒼の三節棍フレイル(上級)
称号
正義の女神の加護・憧れを抱く者・無鉄砲・傅く者・恋する乙女・従者の心得・武神・魔神・魔物キラー・盗賊キラー・武闘派
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追従者
周りに人がいる状態の時で尚且つ、HPが8割以上の場合、発動。全ステータスが1.2倍になる。
憧れを抱く者
強く憧れを抱く人物が複数現れた者に贈られる称号。AGIの値に補正。
無鉄砲
その言動はただ単に怖い者知らずなだけなのか、はたまた計画性がないだけなのか…………それは誰にも分からない。DEFの値に補正。
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姉が里を飛び出したのは今から5年程前のことだ。当時、里の中でも次代の里長にと期待されるくらい強さ・人望があった姉。姉の仕切る里での生活を誰もがワクワクしながら、待ち望んでいたし、当然その未来はそう遠くない内に来るものだろうと勝手に思っていた。しかし、なんと姉は里のみんなの反対を押し切り、あろうことか傭兵になって世界を周ってみたいと言い出したのだ。我は驚いた。姉は里での生活に満足しているものだとばかり思っていたし、外の世界への憧れなど微塵も感じさせなかったからだ。今、思うと当時の姉の気持ちは居心地の良い里での暮らしよりもより刺激がある外の世界に身を置きたいということだったんだろう。だが、当時はそんなことを理解できるはずもなく、5年後、我は我慢が切れて、遂に姉を探しに里を飛び出した。本当はすぐにでも追いかけていきたいところだったのだが、その時はまだ一人旅をするのに適した年齢と強さを手に入れてなかった為、動き出すのに5年もの歳月がかかったのだ。本来、それ程の時間のズレは埋めようがないはずであった。しかし、天は我を見捨てていなかった。姉を探して各地を彷徨っている内に黒ローブを着た変な集団に捕まり、気付けばシリスティラビンのオークションに出品されていた。こんなところで目的も果たせず、どこの誰とも知らない貴族かなにかに買われてしまうのかと諦めかけたところ、何故か落札者のすぐ側に探し求めていた姉がいたのだ。おそらく、我は一生分の運を使い果たしたのだろう。そして、尊敬している我が姉ラミュラが敬愛して止まないシンヤ様…………この御方と出会い、今まで自身がいた世界の狭さを知った時、我がどれほどちっぽけなことに拘っていたのか、己の未熟さを痛感すると共に我もまた外の世界で見聞を広めていきたいと強く思った。もちろん、我にとっても里での暮らしは快適だった。そこでずっと生きていきたいと思う者もいるだろう。これは価値観の違いである。我も姉もより、多くのことを求めて里を飛び出したのだ。だから、これは我らの我が儘なのだ。
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「で、どうするんだ、モール?」
「姉上、一旦宿を取って、しっかりと寝食の場所を確保した上で再び街を散策しましょう」
シンヤ様に発表された我の上司となる人物は姉であるラミュラだった。現在、我々はシリスティラビンの近くの街、ハングリーに来ていた。初めに冒険者ギルドに行き、ボードに貼り出された依頼を見て回ったが、高ランクの依頼はなく、情報収集をしようと情報屋を探してみるも捕まらずといった具合で序盤から出鼻を挫かれたしまったが、それもまた運。仕方ないと諦めたが、一つだけ気になることがあった。それは……………
「でも、何であんなにジロジロと見られていたんでしょうか?少し不快感を覚えました」
「覚えておけ。我々のクランはお前が思っているよりもずっと注目されているんだ。ほら、あそこを見てみろ」
「ん?」
姉上の指差した先に目をやると冒険者の2人組みが何やら、こちらを見ながら驚いているのが分かった。その際に会話も聞こえてきたのだが、その内容が我の疑問を解消するのに
適したものだった。
「おい、あれって"蒼鱗"ラミュラじゃないか?」
「うわ、本当だ。本物、初めて見たぞ」
「彗星の如く現れた超大型新人クラン"黒天の星"…………全員、化け物揃いの中、特にやばいと噂されているのがクランマスターと"
「俺も入れねぇかな?」
「無理に決まってんだろ!上3人がSS、幹部がS、んでもって新人達もどうやらAランクはあるらしい」
「なんだ、それ?」
「俺が聞きてぇよ!」
何にしても皆、特に姉上が誉められているのは悪い気がしない…………というか単純に嬉しい。
「何をそんなにニタニタしているんだ?」
「はっ………す、すみません!少し、考えに耽っていました」
「そうか」
「はい。それで先程の件なんですが…………うわっ!」
我がそう続けようとした時、横から何かが飛び出してきて、足にぶつかった。
「…………」
それは1人の少年だった。こちらを凄い形相で睨みつけながら、無言で横を通り過ぎようとする。ボサボサの髪の毛にボロボロの服、靴は履いておらず裸足だった。全体的に見て、貧しさが漂っているが、それに負けじと目は死んでおらず、我が一瞬知覚できない程の速さでぶつかってきたのだ。決して、油断していた訳ではない……………はずだ。
「ち、ちょっと待て!ぶつかっておいて、謝罪も」
「落ち着け、モール。自分の動揺を抑えようと躍起になるな。今、お前がすべきことは違うはずだ」
「し、しかし…………ん?すべきことが違う?」
「はぁ〜………やっぱり気が付いていないのか。ポケットの中を確認してみろ」
「へ?」
我は言われるがまま、ポケットの中に手を突っ込んだ。すると………
「な、ない!通信の魔道具が!もしかして、さっきの………」
「そうだろうな」
「せ、せっかくシンヤ様に頂いたのに。どうしよう」
「それを決めるのはお前だ。我はお目付役として、相談には乗るが最終的に判断するのはモール、お前だ」
「そ、そうだな。一旦、落ち着いて」
「お前は我々と共にレベル上げをしたり、手解きを受けたりしているから、我々以外には決して遅れを取らないという慢心があったのだ。だが、思い上がるなよ?世界は広い。未知なスキルや相手、問題がいつこちらに牙を剥いてくるのか分からん。今後、一切の油断や慢心、過信は禁物だ。今回だけは特別に見逃してやる。ティアへの報告もしないでおいてやる。だが、次はないぞ?」
「は、はい!以後、気を付けます!」
「で、どうするんだ?」
「………決めました。追いかけます。そして、場合によってはあることも考えています」
「ほぉ〜それは楽しみだな。では向かうか」
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「帰ったぞ!」
「おかえり、兄ちゃん!」
「「おかえりー!!」」
「ケホッ、ケホッ…………アルス、あなた、また危ないことをしてきたんじゃないの?」
「し、してねーよ!母さんはそんなこと気にしなくて、いいんだよ!」
「………本当に?」
「だから、そうだって言ってんだろ!いいから、横になっとけよ!体調、悪いんだから。でも、その前に………ほら、パンと水。ちゃんと食っとけよ」
「いつも悪いわね」
「…………うるせーよ」
「あれ?兄ちゃん、照れてるの?」
「照れてねーよ」
「「照れてる、照れてる!!」」
「だから、照れてねーって………っ!!」
「失礼する。ドアがなかったので勝手に上がらせてもらった」
「お、お前らは………さっきの」
「ここに来るまでにこのエリアの様子を見て、大体の事情は把握したが」
「どうやって、ここまで来た!普通の人間は立ち入れないし、わざわざ来ようともしないぞ!!」
「ん?ああ、襲いかかってきたのは全て蹴散らしてきたぞ…………姉上が」
「大事な妹を変な目で見るのが悪い。半殺しで済ませてやったんだ。むしろ、感謝して欲しいくらいだ」
「お前ら、何が目的だ?」
「何って、盗られた物を返してもらいに来たんだ」
「っ!!ど、どうして、それを!?」
「語るに落ちたな。しらっばっくれれば、いいものを。お前は余程、素直で良い少年なんだな」
「しまった!!…………ってか、人の物を盗っておいて素直も良いもあるかよ。とんだ極悪人だろ」
「その考えが純心でいいと言ったんだ。世の中、もっと汚い大人は山ほどいる。しかも、お前のそれは何も私利私欲の為ではないだろう?家族を養う為だ」
「……………」
「アルス、本当なの?」
「お母様、我の名はモール、そして、こちらが姉のラミュラでございます。自己紹介が遅れてしまい、大変申し訳ございません」
「いえいえ、とんでもございません!こちらの方こそ、息子がご迷惑をおかけしたみたいで………」
「迷惑なんて、とんでもない!今回のこの出会いはきっと運命でしょう!環境にも悪意にも負けず、家族の為に頑張る少年。そして、それを支えるご家族の方々…………我々はそれに対し、甚く感動致しました!つきましては我々から、ご提案があるのですが…………」
「おい、モール、お前口調が変わりすぎじゃないか?なんか、胡散臭い占い師みたいになってるぞ」
「「あははっ!胡散臭い、胡散臭い!!」」
「姉上、今は我がお母様と楽しくご歓談を続けている最中。口を慎んでもらえると助かるのですが」
「「ご歓談、ご歓談!!」」
「わ、分かった」
「で、話を戻しますと」
「すみません。その前にどうしても息子に確認したいことが………」
「どうぞどうぞ、ご自由に!」
「すみません…………アルス、顔を上げて、こちらを見なさい」
「母さん…………」
「今から私がする質問に正直に答えて」
「う………分かったよ」
「今までも今回みたいな人様にご迷惑をかけるような危ないことをしていたの?」
「…………うん」
「そう………」
「ご、ごめんなさい。俺」
「あなたが無事で良かったわ…………本当に良かった」
「え………」
「薄々勘づいてはいたのよ。こんなに食糧や水、薬を貰ってこれる訳ないから、おかしいなって………」
「母さん………」
「でも、駄目ね。本当は真っ先に相手方に対して申し訳ない気持ちが湧き上がってこなきゃいけないんでしょうけど。息子が無事に今日まで生きてこれて良かった……………その感情しか今はないわ。人として失格よ」
「母ざんーー!ご、ご、ごめんなさい!!ひ、ひぐっ……俺、俺、みんなを守りたくて。俺達を捨てて、どっか行ったアイツにお前なんかいなくてもちゃんと暮らしていけてるぞって…………俺がお前の代わりに母さんやみんなを守るんだって!今に見てろよ、絶対に後悔させてやるって!その一心で今日まで…………」
「あなたがどういう気持ちでどういうことをしようと私は一生あなたの味方よ。たとえ、それでどれだけの人に迷惑をかけても。これが私の本心よ…………きっとこれは私の身勝手や我が儘からくる考え方なんでしょう。でも、しょうがないじゃない…………だって、私はあなたのたった一人の母親なんだから」
「母さん…………」
「確かにお母様、あなたは人としては失格きもしれない。だが、母親としては合格………いや、それ以上だ。安心してくれ。我々は今回のことを咎めるつもりはない」
「モールさん………」
「で、ここからは我々のご提案なんですが」
「はい」
「見たところ、かなり体調を崩されているご様子。それに加えて、この衛生環境の悪さ………実はこれを改善する方法が我々にはありましてですね………」
「そうなんですか?」
「はい。まず、お母様の体調………これはほら、"神の手助けゴッド・ヒール"!魔法でこの通り!」
「あら?なんだか体調が良くなる………どころか若い時よりも元気な気がするわ」
「ええ、そうでしょうとも。なんせ、とっておきの魔法ですからね」
「本当にありがとうございます。でも、うちにはこれだけの魔法に対する対価がないのですが」
「大丈夫ですよ!初回は無料ですから!で、衛生環境についてですが!」
「「あはは。無料、無料!!」」
「おい、モール。さすがに今のはおかしいだろう!お前、一体どこを目指してるんだ!」
「やば、スポンサーに怒られた」
「おい!」
「「スポンサー、スポンサー!!」」
「君達も連呼しなくていい!」
声を荒げ、ツッコミを入れながら、我は思う。そうだった。モールは里の中で一番子供達から人気があって、あやすのがとても上手だったのだ。おそらく、彼女はこの家に入った時から、こういうスタンスで接しようと思っていたのだろう。現に今もその真っ最中だ。そして、彼女の考えているあることとは…………
「んで、あと了承してないのは君だけだよ、アルス君?お母様も弟も双子の妹達もみんな、クランに入るって。だからさ、入っちゃえばいいじゃん」
「な、何なんだよ、お前は!そんなこと言っても」
「美味しいご飯がいっぱい食べられるよ?」
「う………」
「強い武器も貰えるよ?男の子なら、好きだよね?」
「う………」
「何より、家族が喜ぶよ?」
「わ、分かったよ!入ってやるよ!その代わりに約束は守れよ!」
「やったね!お兄ちゃん、入ってくれるってさ」
「「わーい、わーい!!」」
「本当に何から何まで、すみません」
「いえいえ」
「全く………こんなふざけた勧誘があってたまるか………ボソッ」
自然とニヤけていた顔を元に戻そうとするが、上手くいかない。これではモールにニタニタしているとか言える立場ではないな。まぁ、だが、これでいいのかもしれない。気が付けば、モールの周りで笑顔の花が咲いている。母親も兄も弟もそして、双子の妹も…………一家全員が心の底から笑っているのだ。
その日、このエリアにしては珍しく笑いが絶えない場所があったとか、なかったとか……………
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