第49話 オークション2日目
「久しいな、モール。一体、何年ぶりだ?」
「…………5年ぶりでございます」
あの後、ラミュラの妹であるモールが取り乱し、とても話ができる状態ではなかった為、一旦モールと他2人も連れ、VIPルームへと戻った。入った瞬間、俺の多種多様な仲間達の出迎えを前に3人とも驚いていたが、それぞれの事情を聞き、どうしてここにいるのか経緯が分かったところで落ち着きを取り戻した。しかし、モールにはまだ少し動揺が見られ、未だにこの状況をどこか信じきれていないようだった。
「3人とも俺達のことはだいたい分かったと思うが、それでも俺の仲間に、そして家族になることに対しては納得できないか?」
「「「……………」」」
「…………なるほど。お前らの目を見ていれば、何が言いたいかくらいは分かる。つまり、あれだろ?実力を見せてみろと言いたいんだな?」
「「「…………!!!」」」
「よし、分かった。じゃあ、かかって来い」
「シンヤさん、よろしいので?」
「ああ。こいつらがそれを望んでいるんだ。仕方ないだろ」
「くっ………馬鹿にしてくれるわね」
「……………」
「男なんてサキュバスの敵じゃないわ〜」
「つべこべ言ってないで、早く来いよ」
――――――――――――――――――――
「嘘、なんで当たらないのよ!?」
「我の技が通じない!?」
「何なのよ〜全く!サキュバスに屈さない男なんているはずが〜」
「おいおい、それが本気か?」
それぞれから放たれる突き・蹴り・スキルを紙一重で躱す。と同時に借りている状態のVIPルームを壊してしまわないよう、魔法で部屋全体にかかる衝撃を緩和させる。もちろん、俺が攻撃を加えてしまえば耐えられないだろうが、その心配はない。なぜなら、
「安心しろ。俺は絶対、攻撃しないから」
「今ので完全にキレたわ。覚悟しなさい!"焔狐"!」
「同感だ!"水楼滝"!」
「後悔しても遅いのよ〜"闇威血"!」
「はぁ〜……お前ら、ここが部屋の中だってこと忘れてるだろ」
俺に襲いかかる3種の魔法。それに対して、俺は手を前に出し、こういう応え方をした。
「"空間障壁"」
直後、様々な魔法がぶつかり合い、爆音が辺りに鳴り響く。それが収まった後には無傷の俺が立っていた。
「嘘………でしょ?」
「一体、何をしたのだ」
「ありえないわよ〜」
「俺はただ、目には見えない障壁を出現させ、お前らの攻撃を防いだ。それだけだ」
「そんなこと………」
「残念ながら、これが現実だ」
「……………」
「さて、次は俺の番だ………せいぜい、粘れよ?…………はっ」
「こ、これは………」
「なんて殺気だ」
「惚れちゃうじゃない〜」
「これでもまだ満足できないようなら、続けるが?」
「「「遠慮させて頂きます!!!」」」
「…………まぁ、納得できない部分もあるとは思うが、それもレベル上げの時に解消されていくから、大丈夫だ」
「「「レベル上げ???」」」
「よし、とりあえず、全員で一旦、絶望の森へと向かう。そこで諸々の説明をしよう。オークションはまだ明日もあるから、すぐにレベル上げに入れるという訳ではないからな」
「シンヤさん、1つご提案があるのですが」
「どうした、ティア?」
「全員でオークションに来る必要はないかと。落札の決定権があるシンヤさんは絶対に必要だとして、他のメンバーは目利きを養う必要があるとはいえ、あと1回ずつにしておいた方が危機感が生まれて、よりやる気になるのではないでしょうか?例えば、残りの2日間で数を半分ずつくらいに分けて、臨んだとします。半分はオークションに行くメンバー、そして、残りの半分は待機組みです。この待機組みにその間、引き続き、新人の指導をして頂ければ、効率が良いと思います。で、次の日はそのメンバーを逆にして行えば、オークションもレベル上げも同時にできて、一石二鳥ではないでしょうか?もし、仮に不測の事態が起きてしまった場合のことですが、私かサラがいれば、対処は可能でしょう。なので、私達は明日と明後日で分かれます。それにオークションは何も丸一日行われているという訳ではありません。シンヤさんがいないたった数時間も守れなくては話になりませんよ…………ね?そうですよね、皆さん?」
「「「「「「「は、はい!!!」」」」」」」
「なるほど、一理あるな…………それにしてもお前は一体、どんだけ怖がられてるんだ?」
「怖がるなんて、そんなことないですよ。皆さんには頼りにされているんです」
「自覚がないのか、はたまた認めたくないだけなのか………」
「………シンヤさん?」
「いや、何でもない。さて、じゃあ、ティアのその案を採用する形でいこう…………ってことで一旦、絶望の森へと向かう。明日のメンバーは追って決める。お前ら、新人の3人にとってはよく分からないことだらけだろうが、大丈夫だ。直に慣れる」
「何で勝手に話が進んでんのよ………」
「一体、この先に何が待ち受けているのだ」
「ゾクゾクしちゃうわね〜」
――――――――――――――――――――
「くそっ、何なんだ、アイツらは!一丁前にVIPルームでオークションを楽しみやがって!」
「全くだ!そればかりか、次々と品物を落札していく有様」
「けしからん!」
とある高級レストランに3人の貴族が集まって何やら、話し込んでいた。その3人はそれぞれ別の国や街からやって来た赤の他人の筈なのだが、何故か、その容姿は非常に似通っていた。たまたまオークション終わりにぶつぶつと愚痴を言っていたら、偶然思いを同じくした同志と巡り会い、今に至るのだ。丸々と肥えた体に鼻息荒く、止まることのない汗を流し、人の悪口を言いながら、次々と食べ物を胃に収めていくその光景は周りからしたら、近寄り難く、現にウェイトレスも引いてしまっている。当の本人は自身に原因があるなどとは微塵も思わず、なかなかやって来ない給仕に腹を立て、終いには
「おい、そこのウェイトレス!何をしているんだ!早く、次の食事を持ってこい!」
「全くだ!一体、俺達を誰だと思っているんだ!」
「けしからん!」
と言う始末。指名されてしまったからにはさすがに無視できないと感じたのか、
「は、はい!ただいま!」
ウェイトレスはすぐに厨房へと駆け込んでいった。まさにやりたい放題である。しかし、一番可哀想なのはこのレストランのオーナーでもなければ、客でも、ましてやウェイトレスでもない。最も被害を被っているのは
「「「あ〜早くこの時間、終わんねぇかな…………ボソッ」」」
それぞれの貴族に付き従っている3人の従者である。彼らの思いはこの数十分で目まぐるしく変わっている。"話が長い"から始まり、"お客さんや店員に申し訳ない"、"こいつら、汚いし臭い"、"まだ
終わらないのか"などを経て、最終的に辿り着いたのが
「「「誰だよ、余計なことしてくれたのは……………ボソッ」」」
だった。
――――――――――――――――――――
オークション2日目。この日もVIPルームにて、欲しい物を次々と落札し、ようやく迎えた最後の部門、すなわち奴隷である。やはり、数は全部で10名程。その中で気になったのはまたもや、3人だった。読み上げられれば、いち早く落札したいところである。
「さぁ、続きまして、こちら種族は人族、17歳の少女で………おおっ、今日もまた羽振りがいい!43番の方、金貨15枚を掲げている!他にはいらっしゃいません!43番、落札決定!」
「さぁさぁ、こちら、なんと種族は魚人族なのですが、その中でも珍しいとされる龍魚種の男でございます!海を主なナワバリとする筈が一体、なぜ、こんなところに………いや早いぞ、43番!提示額は金貨15枚!競う者、なし!落札決定!」
「最後になります!種族はケンタウロス族で女!基本的に自分よりも強い者にしか従わないとされる種族ですが、果たして…………って何となく、来ると思いました43番!仰った額、なんと金貨20枚!一体、どこにこれほどのお金が!?もちろん、対抗する者などおりません!はい、落札!」
周りの目など関係なしに落札する。昨日よりもより殺気立ち、嫉妬の度合いが高まった視線を送られるが全て無視。少しでも欲しいと思った物や人材はいくら、出してでも手に入れる。これが俺のやり方である。俺は"もしもあの時"などという後悔を絶対にしたくないのだ。
「さて、では向かうか」
俺は1日目の時同様、ステージ裏まで支払いと受け取りを済ませに向かう。果たして、今度の3人もじゃじゃ馬なのだろうか…………
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