第50話 オークション3日目

「おい、一体どうなってる!なんで、奴がまた、あれだけの数を落札しているんだ!」


「全くだ!少しは我々にも分けろ!」


「けしからん!」


とあるレストランに………以下略。従者達はいい加減うんざりした顔をしながら、側に控え、周りを見渡す。やはり、昨日同様、お客も店員も距離を取り、巻き込まれたくなさそうに静かに過ごしている。一体、どれだけの者達に迷惑をかけているのか考えるだけで頭が痛くなってくる状況。しかも当の本人達はそんなことに一切気付かない。もし、仮に気付いたとしてもそんなこと関係ないとばかりに堂々と過ごし続けるのがオチだ。結局のところ、彼らが満足する以外で周りの者がこのストレスから解放される道はないのである…………と考えていたところ、気付けば、話は思いも寄らない方向へと進んでいた。


「いっそ、やってしまうか」


「全くだ!我々の力を思い知らせてやる」


「けしからん!」


「「「ち、ちょっとお待ち下さい!!!」」」


これにはさすがの従者達も待ったをかけた。今、まさに良い事を思いついたと考えている3人は急な横槍に驚くのと同時になんだか邪魔をされた気がして、ムッとしながら、従者達を睨み付けた。


「何故だ?」


「全くだ!理由を説明せんかい!」


「けしから………」


「シリスティラビンへとやってきてからというもの、冒険者達が口々に"クラン、黒天の星には余計な手出しをするな"と言っているのが聞こえてきたんです。なんでも、タダでは済まないと」


「ふんっ、たかが冒険者風情が何を言っておる!で?その"黒天の星"とやらがどうしたというのだ?」


「その者達の特徴が…………全員、黒衣を身に纏い、なおかつ多種族で構成されており、全部で13名程だとかで………」


「…………昨日、今日とVIPルームにおった奴等と特徴が一致するな。だが、それが何だというんだ?こちらは貴族だぞ!いくら、冒険者共が強がったところで地位や名誉の力には勝てん」


「全くだ!我々は脅しには屈しないぞ!」


「けし…………」


「…………あとはどうなっても知りませんよ?忠告は致しましたからね?」


「構わん!今に見ておれ、下級冒険者共!明日、笑っていられるのが一体、どちらなのか思い知らせてくれるわ!」


「全くだ!泣いて謝っても許さんぞ!」


「け…………」



――――――――――――――――――――



「あなた、ワタクシを誰と心得ていますの?」


「なんだ、この場で言って欲しいのか?」


「っ!!そ、それは………」


「安心しろ。すぐに事情を話せと言う訳じゃない。お前のタイミングでいい」


「……………」


落札した3人をステージ裏まで迎えに行ってみると既に1ヶ所に集まっていた。それぞれ人族、魚人族、ケンタウロス族である。やはり、昨日同様、3人とも少し警戒した様子でこちらを見てくる為、まずは軽く話をして、場をフラットな状態まで持っていくことにした。


「残りの2人も何か言いたそうだな?じゃあ、魚人族のお前、言ってみろ」


「は、はい!ひ、一つ聞きてぇことがあるんだけども………」


「何だ?」


「…………オイラのこと、いじめたりしねぇか?」


「する訳ないだろ。たった今から、お前らは仲間であり、家族なんだ。誰が好き好んで、そんなことをする?」


「う、嬉しいぞ。オイラ、今までそんなこと言われたことねぇ」


「そうなのか。随分と周りの見る目がないんだな」


「………どうやら、主人はいい人みてぇだ。オイラ、この人は嘘じゃなく、本当の気持ちを話してるって分かるぞ」


「………ところが、未だに疑っている奴もいるがな」


そう言って、俺は残りの1人の方を見る。突然、自分に振られるとは思っていなかったのか、そいつは若干慌てた感じでこう返してきた。


「いや、別に貴殿の申すことを疑っている訳ではない。私が疑っているのは実力の方だ」


「なるほど」


「私は誇り高きケンタウロス族の戦士見習い。上からになってしまうが、私が認め、忠誠を尽くすのは自分よりも強い者だけだ」


「なら、今から実力を見せよう」


「一体、どうやって?」


「俺は今からお前に近付く。俺の動きをお前が知覚できれば、お前は解放され、今後、好きに生きてもらって構わない。だが、できなければ、俺の元に来てもらう。これでいいか?」


「ああ。それなら、分かりやすい」


「よし、じゃあ、いくぞ…………」


「いつでも来てくれ…………っ!!」


「これで分かったか?」


「な、い、いつの間に………まだ、話していた筈だが?」


「ま、このくらいのことはいずれお前もできるようになるさ。それも俺の元で学べばだけどな」


「是非とも、こちらから頼みたいぐらいだ」




――――――――――――――――――――




オークション3日目、最終日。今日でお祭り気分もなくなり、シリスティラビンの騒がしさが少しは和らぐだろう。最終日ということもあってか、チャンスを逃してなるものかとオークションの参加者達はより一段と気合いを入れて、臨んでいた。しかし、そんな事情などお構いなしで俺はまたもや、次々と気になる品物を落札していった。そして、いよいよ、次が最後の部門である。


「さぁさ、皆様、大変お待たせ致しました。この者達がオークション最終日の最後を飾るに相応しい部門の奴隷達となっております」


今回も全部で10名程。気になったのはその内、4人である。


「こちら、巨人族の男………はい、43番の方!金貨15枚でございます!他には………いらっしゃいません!落札決定!」


「次は世にも珍しい妖怪と呼ばれる種族の天狗種にございます。性別は男、年齢は………って、またまた43番の方!一体、何者なんだ、この人!?提示された金貨はなんと20枚!…………はい、競う方がいらっしゃらないので、決まりです!」


「こちらもあまり見かけない種族、虫人の蝶種、性別は女です!…………はい、43番、金貨25枚を提示してきましたが、果たして…………皆様、だんまりです!一部、歯を食いしばっていますが、何もできず!はい、落札決定!」


「最後となりました!種族、花人族の薔薇種、性別は女…………早い、43番!そして、躊躇いもなく、金貨30枚を掲げました!これには他の参加者も苦しい表情をするばかり!落札決定!これにて、オークションは終了とさせて頂きます!3日間、大変、お疲れ様でした!また、いつかお会いしましょう!」

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