第47話 ダークエルフ
「ん?こんなところに奴隷商があるな」
「気になりますか?」
「ああ。フリーダムのとどう違うのか見てみたいな」
迷宮都市での拠点となる屋敷へと向かっていた俺達は途中で奴隷商を見つけた。現状、クランの人数も多くなってきているし、今以上に必要かと問われれば、疑問だが、単純に興味はあった。その為、俺はこう言った。
「行ってみよう」
――――――――――――――――――――
「お客様、はっきりと申しますとその先はやめた方がよろしいかと」
「ん?なぜだ?」
奴隷商に入り、色々と見て回っていて、1つだけ隔離された檻があるのに気が付いた俺は店主にそこを見たいと言った。しかし、どこか困った顔を浮かべながら、店主はこう続けた。
「その檻に入っているのはあのダークエルフなんです。それが忌まわしい種族であることは今や誰もが知っています。しかも彼女がここに来た経緯が…………」
「どういうことだ?」
「実は彼女…………元冒険者なんですが登録した際に戦い方を学ぼうと初心者講習を受けようとしたんです。しかし、ダークエルフということで受けさせてもらえず、仕方なしに他の冒険者に教えを乞おうとしたんですが、それも断られ…………。なので、とりあえず、日銭を稼ぐ為に薬草採取などの危険の少ない依頼を選んでは受ける毎日だったのですが…………ある日、運の悪いことに魔物に見つかって襲われてしまったのです。なんとか一命はとりとめたものの、その依頼は失敗。規則により、罰金を支払わなければならないのですが、生きていくだけで精一杯の彼女に当然そんな余裕はなく、取った手段が自身を借金奴隷として…………」
「もう大丈夫だ。それ以上は言わなくていい」
「すみません…………」
「で、いくらだ?」
「………へ?」
「だから、そのダークエルフが一体いくらなんだと聞いている」
「し、失礼致しました。き、金貨1枚となっております…………しかし、本当によろしいのですか?」
「ああ、問題ない」
「か、かしこまりました。お買い上げ、ありがとうございます!」
――――――――――――――――――――
「という訳で今日からお前は俺達の仲間であり、家族だ。それぞれの自己紹介は後で行うからな」
「……………」
ダークエルフを檻から出してもらい、外へと出た俺達。彼女は終始、こちらを疑いの目で見て警戒しているようであった。灰色の長髪に褐色の肌。キリッとした瞳は意志の強さを本来、感じさせるはずであるが、今は不安げに揺れている。鼻筋は非常に通っており、エルフ特有の長い耳も美しい。全体的にスタイルがよく、背筋を伸ばしてしっかりと立っていれば、よく映えると思うのだが、残念なことに縮こまってしまっている。体全体を震わせ、常にビクビクしながら怯えているのだ。無理もない。あんなことがあったのだ。人を信じることなど到底、できないのだろう。
「どうした?」
「…………いきなり、仲間だ家族だとか言われても…………どうせ、アンタ達もワタシを裏切るに決まってる。面白半分でいじめて、騙して、散々利用したあげく、魔物の餌にでもするんだわ」
「……………」
「っていうか、どうしてワタシなんか買ったのよ………見たところ、アンタ達、冒険者でしょ?ワタシなんかといるところを見られでもしたら、陰で何を言われるか分からないし、最悪の場合、嫌がらせだって受けるかもしれないのよ?」
「……………」
「だから、やめて。ワタシに関わらないで。今なら、まだ返品ができると思うから…………お願いだから、考え直して」
「…………お前ら、予定変更だ。今からギルドへ向かう。屋敷との対面はその後だ…………あ、お前も一緒に来るんだぞ?分かったか?」
「ち、ちょっと待ってよ!話、聞いてなかったの?ワタシなんかいいから…………」
「俺がどうするのか決めるのはお前じゃない、俺だ。それにお前の話を聞いた上で今からギルドへ向かうんだ。これで満足だろ?」
「いや、だから………っ!!」
「これ以上、シンヤさんを困らせないで下さいね?」
「は、はい!!」
――――――――――――――――――――
「あれ?シンヤさん?どうしたんです…………」
「おい、ギルド職員ならびに冒険者共!1つ聞きたいことがある」
「なんだ?」
「おい、あいつら"黒天の星"じゃないか?」
「黒衣にあのクランのマーク………確かに噂通りだな」
「ってか、さっきも来ていたような………」
「一々、ザワザワするな!いいか?こいつに見覚えのある奴はいないか?」
「っ!!」
「ん?…………あれはダークエルフか?」
「あんな奴、いたんだな」
「な、なぜ、奴がここに………」
「なんだ?新人か?」
至る所から上がる様々な声。俺はそれらを聞き、周りを見渡した上でこう言った。
「今、露骨に顔が変わった奴、反応が大きかった奴は俺の目の前に来てもらう。じゃあ、今から指で指していくからな」
――――――――――――――――――――
「疑って悪かったな?これはお詫びだ。貰っていってくれ」
「い、いいのか?」
「ああ。お前は特にこいつに対して、何もしていなかったからな」
「ありがとう!恩に着るぜ!やった!これで1週間はやっていける!」
「どう致しまして…………さて、残るはお前らだけだが」
「い、一体、何のことでしょうか?私共も仕事があるのですが…………」
「ほ〜そんなに仕事熱心な癖にこのダークエルフに対して、ちゃんとやらなかったのは何故だ?」
「そ、それは」
「まさかとは思うが、忌まわしい種族だからとかお前らの勝手な偏見で怠った訳じゃないよな?」
「…………」
「お、おい!俺達はそこの職員達みたいにあからさまな差別はしてないぞ!」
「黙れ、腐れ冒険者共。お前らは面白そうだとかいう理由でこのダークエルフに嘘の情報を教えて、依頼を受けさせ、あろうことか魔物まで誘き寄せたらしいな」
「な、なんでそのことが………」
「仲間に優秀なのがいてな、記憶を読み取ることができるんだ。だから、俺の前で嘘や誤魔化しは通じない」
「そ、そんなのアリかよ」
「アリもなにもこれが現実だ………さて、お前らに処罰を下す前にこの場にいる全員に言っておくことがある」
「…………ゴクンっ」
「お前らは種族や地位、名声を常に気にしているみたいだが、俺にとってはそんなことどうでもいい。だから、お前らの考え方が全てだと思い込んで、それを俺達に押し付けるのはやめろ。それから、このダークエルフは今から手続きして、俺のクランに入る。今後、こいつに何かしてみろ。生きていることを後悔することになるからな……………さてと」
「ひ、ひぃ!」
「聞いていた通りだ。俺の仲間に何かをしたお前らを生かしておく訳にはいかない。覚悟しろよ?」
「ち、ちょっと待ってくれ!」
「ん?お前はギルドマスターか」
「一旦、待ってくれないか?」
「お前、話を聞いてなかったのか?」
「いや、全て聞いていた」
「なら、どうして止める?」
「なら、どんな処罰を下す気だ?」
「決まっているだろう」
「っ!!」
「こいつらは危うく何の罪もない1人の冒険者を殺しかけたんだぞ」
「そ、それは」
「まさか、大げさだとか言うんじゃないだろうな?だとしたら、ここの支部かそれともギルド全体が腐ってきている証拠だな」
「……………」
「初心者講習を受けさせないということは何があるかも分からない危険なところへ何の準備もなしに飛び込めと言っているようなもんだぞ?確かに今は教材や本もあって、多少の知識は得られるだろう。だが、本職である教官の生の声を直接聞ける講習とは比べ物になるはずがない。つまり、その時の職員はこう言いたかったのだろう………忌まわしい種族よ、勝手に自分1人で行ってこいと。ここの教育は一体、どうなっているんだ?どんな種族・性別・年齢だろうが平等に扱う。こんなこともできない無能ばかりなのか?お前らの狭い価値観で世の中をどう計ろうが勝手だが、それをこっちに押し付けるな。こんなことが続くようであれば、こちらにも考えがある」
「す、すまん!そ、それだけは」
「まぁ、今回はこの職員達が罰を受ければ、それでいい。だが、次からはもうないぞ」
「わ、分かった。この度は本当にすまなかった」
「俺に謝ってどうする?ちゃんと謝ることもできないのか?本人に対して、土下座をして敬語でしっかりと謝るんだ。そこの職員達と腐れ冒険者共もだぞ」
「「「「「「「この度は誠に申し訳ございませんでした!!!」」」」」」」
「………これでいいか?」
「な、何よ………ご、ごんなごど誰がじでぐれっで頼んだのよ」
「泣きたい時は素直に泣け。ほら、こっちに来い」
「う、うわああああ」
「よしよし、辛かったな」
「ヒグッ………ジ、ジンヤ………あ、あり、ありが………ありがどう」
「気にすんな」
「はい、これで手続きは完了です!」
「ありがとう、ライム」
「それにしてもそんなイジメが行われていたなんて…………すみませんでした、気付けなくて」
「いや、あいつから聞いたよ。随分と気にかけてくれてたみたいだな。ありがとう」
「いえいえ!だって、種族がどうとかでその人を判断するなんて、おかしいじゃないですか!みんな、今という時間を共に生きてる、いわば仲間なのに………」
「………お前、いい奴だな。気に入ったわ」
「え!?私、何か良いこと言いました?」
「ああ、思わず惚れそうだったわ」
「っ!!もう、じ、冗談はいいですから!ほら、お仲間が一部凄い顔して待ってますよ」
「シンヤさん?ナンパですか?」
「ティア、落ち着け。これはナンパではない」
「では、何ですか?」
「これは………挨拶だ」
「そんな挨拶があってたまりますか」
俺達はギルドを出て、屋敷との対面を果たした後、また例の場所へと向かった。オークションまでは幸い、あと1週間ある。またもや、俺達は運が良かった。ただ…………
「ダンジョンにも行きたかったな…………ま、この先、いくらでも機会はあるだろう」
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