第46話 拠点

「お前は馬鹿か?そんな訳ないだろ」


「い、いえ!ですが!」


「話によれば、奴らがこの都市に来た目的は新人の冒険者・クラン登録、"黒締"のランクアップ手続き、それから、魔物の買い取りをしてもらう為だったのだろう?」


「は、はい」


「で、その結果、莫大な金とSSランク冒険者という肩書きまで手に入れた訳だ…………そこまでの状態になっておいて、俺達をわざわざ自分から害するメリットがどこにある?そんなことをしなくても生きていくのに何も困りはしないだろう。ましてや、SSランク冒険者がそんな単細胞なマネはしないはずだ」


「…………」


「お前はSSランクという価値を甘く見ている。いいか?Sランク以上ってのはどんだけ努力をしても才能がなければ、辿り着けない領域なんだ。現に俺達はそこに至れず何年も苦しんでいる。お前をそれを見ているはずだろう?」


「は、はい!だから………だからこそ、余計に悔しいんです!マスターは何年も何年も努力しているのにそこに辿り着けず…………なのに、何であんな、ついこの間まで冒険者でもなかったような奴らが軽々と…………」


「お前が俺の為にそこまで感じてくれているのは嬉しいし、気持ちが分からない訳ではない。しかし、奴らが何の努力もしていないとは思わない。でなければ、さすがにそこまでに至れないだろう。冒険者ギルドは独立した組織。金や暴力で屈するような、やわな立場ではない。となると、実力で勝ち取っていったのだろう。おそらく、様々なところで伝え聞く噂は全て本当のことだ」


「で、ですが」


「お前はただ認めたくないだけなんだ。自分達がどれだけ努力しても至れない領域にぽっと出の新人冒険者が1ヶ月足らずで至ったという事実を…………だがな、覚えておけ。才能というものは確実に存在する。もちろん、努力することが無駄とは言わない。しかし、同じだけの努力を才能のある者とない者が行った場合、結果はどうなるか想像つくだろう?この世は理不尽なことだらけなんだ。そんなことに一々、突っ掛かっていてはあっという間に生涯を終えるぞ。そんなのはもったいないだろ?だから、認めたくなくてもそういうものだと無理矢理、自分の中に落とし込めろ。いいじゃないか、すごい奴らが現れたと素直に感動すれば。冒険者ギルドも願ったり叶ったりだし、魔物が減って世界がまた一歩平和へと近付くんだ。それでも気に入らないなら、奴らのことなんか、どうでもいいから、自分達のことを考えろ。他人なんか気にせず、自分達が幸せであれば、それでいいじゃないか」


「マ、マスター…………」


「俺からは以上だ。アオリ、副クランマスターであるお前からも何かないか?」


「僕が言いたいことは1つだけ」


「な、何でしょうか?」


「もう少し、頭を使って考えなよ〜」


「え!?」




――――――――――――――――――――



「ではこちら、金貨20枚となっております」


「ああ、これで」


「はい、ちょうどお預かり致します」


「色々とありがとう」


「こちらこそ、ありがとうございます!では、またのお越しをお待ちしております」


俺達はギルドを出た後、不動産屋へと向かい、この都市での拠点となる屋敷を購入した。フリーダムにある屋敷でもあまり過ごさなかったのにここでも買うのかと仲間達の一部は呆れていたが、備えあれば憂いなし。必要になってから、買いに行くようでは間に合わないかもしれない。いわゆる、念の為である。


「フリーダムの屋敷同様、不審者の侵入を防止する為に登録した魔力の持ち主以外は入れないようにしておく。あとで全員分のを登録するから、そのつもりで」


「かしこまりました」


「にしても、オークションまであと1週間もあるのか…………日数調整、ミスったか?」



――――――――――――――――――――




「ぐへへへっ…………」


「どうなさいました、ズク様?」


「1週間後に迷宮都市にて開催されるオークションが楽しみで楽しみで仕方ないんだ」


「左様でございますか」


「ああ!一体、どんなものが出品されるのやら…………気になりすぎて、毎日7時間しか寝れんわ」


「ガッツリ寝てんじゃねぇか………ボソッ」





「ドローボ様!荷造り、完了致しました!」


「お、やっと私も迷宮都市へと向かうことができる」


「大変、お待たせ致しました」


「全くだ。だが、私は今機嫌がいい。なので、特別に許してやろう」


「有り難き幸せ」


「うむ。これで他の貴族どもに出し抜かれずに済むな。ふ〜………このことが気がかりで毎日7時間しか寝れなかったぞ」


「ガッツリ寝てんじゃねぇか………ボソッ」





「おい、ちゃんと護衛は手配したんだろうな?」


「はっ、もうじき、やって来るかと」


「それなら、いい。お前らがいくら死のうが勝手だが、このオークションの資金だけは守らねば」


「……………」


「おい、これを一体、どうやって手に入れたか気になるか?」


「え!?あ、いや、どうでも………い、いえ!気になります!」


「そうだろう。気になって当然だ。では教えてやろう。これはな…………私が頼み込んで父上から頂いたのだ」


「はぁ………」


「オークションには金がかかるからな。どうやって資金を調達するか、考えすぎて、毎日7時間しか寝れなか」



迷宮都市シリスティラビンにて開催されるオークション。その時期が近付くと各国・各街に巣食う癌…………いや、住む貴族はそれ目当てにこぞって、やって来る。そこではプライドや物欲、自己満足などがぶつかり合う。また、自身の経済力を他者に見せつけるまたとない機会でもある。当然、貴族達は全ての品を競り落とす気で臨むようではあるが、今回は以前とは違う部分がある。それが一体、どう響いてくるのか。それはオークション当日になってみない限り、誰にも分からないのであった。

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