第45話 シリスティラビン

「ようこそ!迷宮都市シリスティラビンへ!」


門番にそう挨拶され、俺達は門を潜った。イパ村からの道中では特に何かのトラブルに巻き込まれるということもなく、そのまま無事に迷宮都市へと辿り着くことができた。都市というだけあって、フリーダムとは比べ物にならないぐらい大きい。この都市の売りは名前にも入っている通り、迷宮………つまり、ダンジョンだ。そもそも、俺達の目的はオークションなのだが、ダンジョンには入ったことがない為、そちらにも興味がある。機会があったら、是非とも行ってみたいものである。


「なんにしても、まずはギルドだな」


俺達は屋台の食べ物や調味料、気になったものを片っ端から買いながら、ギルドを目指した。それにしてもやけに視線を感じるのは気のせいだろうか?はて?知り合いなど、この都市にはいないはずだが…………



――――――――――――――――――――



「た、大変だ!今、話題のクラン"黒天の星"が迷宮都市へとやって来たらしい!で、こっちに向かってきてる!」


「ん〜?"黒天の星"?何だ、そりゃ?」


「お前、知らないのか?今、冒険者達の間で話題のクランだぞ。なんでもあの小さな街フリーダムを拠点に活動しているらしいんだがとにかく、功績がえげつないんだと」


「へ〜」


「冒険者登録初日に異例のランクアップ、その後、なぜかBランククランと揉め事になり、幹部がたった1人で壊滅させる。その他にも盗賊団をいくつも潰して回ったり、3つのクラン相手の対抗戦で勝利を収めてみたりと聞くだけでもとんでもないことをやってのけてるんだが、中でもヤバいのが……………1万もの魔物の軍勢、いわゆるスタンピードをたった6人で止めたらしい」


「は?」


「いや、俺も初めて聞いた時は耳を疑ったさ。だが、これはフリーダムにいる友人からの証言だ。俺はあいつの言葉を信じる。それにもし、それが嘘だったとして、そんなことを言ってもメリットなんか特にないしな」


「う〜ん……………お前の友人を疑っている訳じゃないんだが、本当にそんなことがあり得るのか?」


「まぁ、お前の気持ちも分かる。仮にそれが本当のことだとしたら、奴らはとんでもないことをやってのけたことになる。そんな芸当、現役のSSSランク冒険者にだって、できやしない。それこそ、"雲海"や"鋼帝"、"炎剣"が手を組んだとしても不可能だろう」


「まじかよ………」


「ああ。だから、今、ここにいる者達は運がいい。なんせ、これから、ここにやって来る奴らが"本物"なのかどうか、見極めることができるかもしれないんだからな」


「一体、どうやって?」


「周りを見てみろ。何人か武器を磨いているだろ?つまり、そういうことだ」


「万が一、奴らがその"本物"だった場合、大丈夫なのか?」


「まぁ、さすがに殺しはしないだろう。でも、こういう時、ギルドが不干渉というスタンスでいるのは有難いよな………実力を確かめようと戦いに発展しても一々、文句を言われなくて済むし」


「逆にそれが仇になるとかはないよな?」


「どうした?何をそんなに心配しているんだ?」


「俺にもよく分からないんだが、1つだけ確かなことがある。それは…………どうにも嫌な予感がして、ならないということだ」




――――――――――――――――――――



「おい、お前ら"黒天の星"とかいう今、話題のクランだろ?」


「受付はあそこか………よし、行くぞ」


ギルドに入った瞬間、フリーダムの時にもあったよく分からん奴に絡まれるというイベントがまた発生したが、反応する理由がない為、無視をして受付を目指す。すると


「おい、無視してんじゃねぇ…………っ!!」


「短気だな。そんなに焦らない方がいい」


早速、手を出してきた為、俺達はそいつの処理をニーベルに任せ、受付で手続きを済ませることにした。ニーベルの冒険者・クラン登録と俺のSSランク昇格、それから魔物の売却のである。フリーダムではSランクまでしかランクアップは出来ず、SSランクともなると都市のような大きな場所でしか手続きが不可能なのだ。といっても事前にギルドマスターの申請が必要なのだが、これはブロンにやってもらっているおかげでおそらく、日数的に考えて、もうランクアップできるようになっているはずである。


「次の方〜…………っ!!黒衣にそのクランのマーク………ま、まさか、"黒天の星"の方々ですか!?」


「ん?よく知ってるな。俺達って、そんなに有名なのか?」


「それはそうですよ!今、話題のクランなんですから!………あ、申し遅れました!私、冒険者ギルド シリスティラビン支部受付嬢のライムと申します」


「俺はシンヤ。それから、こいつらは俺の仲間達だ。これから、よろしく」


「こちらこそ、よろしくお願い致します!で、本日はいかがなされましたか?」


「あ、それなんだが…………」



――――――――――――――――――――



「嘘だろ?何で、小人ごときに俺の拳が止められている」


「そっちから、先に手を出してきたんだから、文句はないよね?」


「は?一体、なん………ぐあああああ」


「お、おい!大丈夫か!?」


「信じられねぇ………あいつ、ガンゾの腕をへし折りやがった」


「こりゃ、とんでもないことになるぞ」


「ああ、間違いない。見ろ、"威風堂々"の奴らがあの小人に向かっていくぞ」




「おい、そこのガキ。お前、随分と舐めたマネしてくれたな」


「は?それはこっちの台詞なんだけど。いきなり、殴りかかるとか正気の沙汰じゃないでしょ」


「お前が無視するからだろ」


「え?何で反応しないといけないの?」


「普通、挨拶されたら返すのが礼儀だろ」


「普通、自分から名乗るのが礼儀でしょ」


「何でお前らごときにわざわざ名乗らなければいけない」


「何でゴミ虫ごときにわざわざ反応しなければいけない」


「お前………馬鹿にしてんのか?」


「あ〜眠っ………ん?誰、君?」


「こいつ………殺すっ!!"悔い斬り"!」


「だから、そんなに焦るなって言ったでしょ」


「っ!!俺の必殺技を斧で軽々と!?」


「いや、こんな場面でもう必殺技?僕、下手したら死んじゃうじゃん」


「お前ら、こいつは只者じゃねぇ!遠慮は無しだ!一斉にかかかれ!」


「あら、殺る気なんだ?じゃあ、仕方ないから、こっちもそのつもりでいくよ?」



――――――――――――――――――――




「俺はここのギルドマスター、ダリン・モックレイン。今、話題のクラン"黒天の星"の手続きを受付嬢と一緒に済ませ、ふとギルドの入り口付近へと目を向けてみるとそこには驚きの光景が広がっていた…………」


「おい、心の声が漏れてるぞ」


「おっと、悪い。しかし、あんなものを見ればな………まさか、あいつら死んでないだろうな?」


「運が良ければな。だが、これでニーベルの実力は分かっただろ?」


「ああ」


「だったら、さっさとランクを上げろ。明らかにFではないだろ」


「分かった。なるほど。どうやらブロンが言っていたことは本当だったみたいだな………さすが、フリーダムの救世主のクランメンバーだ」


「で、ランクはなんだ?」


「…………とりあえず、Bだな」



――――――――――――――――――――




「くっ………まさか、生き残ったのが俺達2人だけとは」


「なんなんだよ、あの小人…………8人をほぼ同時に殺りやがった」


「…………しかもさらに最悪なのが一応、幹部ではあるんだが、あれで新人らしいぞ」


「は?う、嘘だろ………俺達はとんでもない相手に喧嘩を売ったってことか!?」


「とにかく、このことは上・に報告だ」


「一体、どういう報告をするつもりなんだ?まさか、自ら喧嘩を売って無様にやられましたとでも?」


「いや、違う。報告内容はこうだ。"黒天の星"の奴らはこの都市の冒険者の均衡を崩しにやってきた」


「…………ゴクンっ」


「よって、今すぐ他のクランとも結託し、これを阻止すべきである。場合によっては戦争も辞さない覚悟を持つべきだ………とな」

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