第10話 鬼人

「おぅ!今回の客人はお前か!今度こそ、アタシをガッカリさせるなよ!」


そう威勢よく、こちらに吠えてくる目の前の少女。燃えるような赤い色の短髪に角、肌は全体的に白く、挑戦的なその瞳は金色をしている。見たところ、中肉中背である一部分は小ぶりなものの、そのスタイルは抜群であった。見た者全員が口を揃えて美人と評するだろうその少女はしかし、おもむろに壁に向かって、ファイティングポーズを取り始めた。そして、今、気が付いたが、彼女の周りは穴ぼこだらけだった。


「どうしたんだ?」


「ふん!今からお前を試すのさ!アタシの主として、相応しいかどうかをな!」


少女はそう言うと拳を壁に向かって放った。直後、轟音が響き渡り、建物全体が揺れた。と同時に上からパラパラと砂や石が落ちてきた。辺りも砂埃が舞って、咳き込む者や文句を言っている者もいたが俺達は風魔法で回避していた為、被害に遭うこともなかった。


「……で?」


「おっ、お前、今のでたじろがないなんて、なかなか見所あるじゃねぇか!」


「はぁ………ようは自分の強さを分かりやすく示しただけだろ?言っておくがそんな芸当、俺達の中で一番弱いサラですら、できるからな?」


「へ?私ですの?」


「できるだろ?」


「可能ではありますが………どれでいけばよろしくて?」


「まぁ、少し捻って土魔法のア・レ・で」


「……なるほど。ア・レ・ですわね」


「ああ。頼む」


「かしこまりましたわ………風化!」


その変化はすぐに起こった。少女が殴りへこんだ箇所の隣がまるで早送りでもされているみたいにどんどん変色していき、最終的には砂と化して地面へと落ちていった。後に残されたのは壁の真ん中に綺麗な円を描いて、くり抜かれた穴があるだけだった。ちなみに穴は貫通している為、外からこちらが丸見えである。一応、目が合った奴は一睨みして、退散させておく。隣を見ると店主が唖然としており、脂汗がとめどなく流れている状態でさすがに可哀想だと思い、穴は塞いで元の状態に戻した。


「お、おい!今のは魔法じゃねぇか!汚ねぇぞ!アタシは身一つで勝負したのに!」


「さっき言ったよな?自分の強さを分・か・り・や・す・く・示すって」


「確かにそう言ったけどよ……」


「お前、何か勘違いしてないか?」


「な、何がだよ」


「お前は試す立場なんかじゃなく、試される立場だってことだ。こうしている今もお前は俺に試されているんだ。初めて会った時の第一声、性格や態度、こうなるまでの過程………そして、結果に対する反応。今のままで言うんだったら、お前は不合格だな」


「な、何でだよ!………も、もしかして、この口調が生意気だったとかか?」


「そんなことはどうでもいい。それもお前の個性の一つなんだろ?俺が言いたいのは全く別の事だ」


「別の事……?」


「誰がお前の土俵で勝負してやるって言ったんだ?毎回、お前のホームで事を決められるほど世界は甘くない。自分中心で世界が回っていると思うな。この世には疑念・嫉妬・怨恨・殺意など様々な感情が絡み合って、時には関係ない者の足まで引っ張りだす。そんな時に正々堂々、勝負しろだと?それで物言わぬ骸と化したら、どうすんだ?寝言は寝て言え。死んでしまってからでは何もかも手遅れなんだぞ」


「うぅ………で、でも!」


「今、この場でお前を殺すと言ってもそんなことを言っていられるか?」


「っ!」


その瞬間、少女は咄嗟に後ろへと飛び下がった。俺が軽い殺気をぶつけたのに反応したんだろう。………うん、いい反応速度だ。


「覚えておけ。世界はお前が思っているよりもずっと汚い」


「………ゴクリっ」


「……………よし、店主。この娘を買おう。いくらだ?」


「へ?は、はい!かしこまりました!金貨1枚です」


「随分、安いな」


「ああいう性格なもんでこのエリアを訪れたお客様に手当たり次第、先程のようなことをしていたのです…………まさか、こんな結果になるとは思いませんでしたが」


「色々と悪かったな………これは詫び代だ」


「銀貨100枚………こんなにいいんでしょうか?」


「ああ。その代わり、変わり種が入ったら、優先的に教えてくれ」


「ええ!ぜひとも!今後とも当店をどうぞよろしくお願い致します!」


「ああ、ありがとう」


その後、無事に少女を連れて外へと出る。次の行き先は服屋だ。着ているのが貫頭衣な為、ちゃんとした服を買ってやりたい。もちろん、王の権威で装備を作製すればいいのだが、普段着も何かと必要だろう。ちょうどティアとサラの分も買いたいと思っていたし、一石三鳥だ。


「さて、自己紹介は後にして、まずは服屋へ……」


「あ、主様!」


「うぉ、どうした?ん?主様?」


「アタシ、さっきの言葉と殺気に感動したぜ!一生、ついていくからな!」


「いきなり、なんなんだよ……それと一部ダジャレみたいになってんぞ」


「それよりもご主人様に対して、その口の利き方はなんですか?」


「ティア、さっきも言ったが、それはこいつの個性だから、いいんだ」


「私にもやっと後輩が増えましたわ」


「お前、先輩というポジションに憧れてたのか」


「さぁ、服屋へレッツゴー!」


「勝手にお前が仕切るな」


一人増えて、また騒がしくなった俺達………でも……………



「こういうのも悪くないな」

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