第15話 エレナ・ドゥマレーシュの嫉妬
「なによ!何であんなやつに……!」
エレナは自分の部屋で激しく怒りに満ちた様子で立っていた。ティーカップを手に取り、怒りのままに床に叩きつけると、ガラスが粉々に割れ、紅茶が床にこぼれた。その怒りがティーカップを破壊し、部屋にこだまする音が静かな部屋に響いていた。
エレナは目に涙を浮かべ、怒りと嫉妬が混ざった感情に苦しんでいた。
侍女は恐る恐るエレナに近づき、やんわりと声をかけようとしたが、エレナはその動きに怒りを露にした。彼女は目を見開き、声を荒げてメイドに向かって怒鳴ったのだ。
「何か用?私に近づかないで!」
エレナの声は冷たく、威圧的で、メイドはその場から素早く退散した。
「何かあったの?」
廊下では、エレナの部屋から侍女が飛び出してきたのを見て、他の侍女たちは不思議に思った。
「それにさっきの音、カップでも割れたの?」
ティーカップが割れる音を聞いた者は、そう口にした。
「エレナ様が割ったのよ……。どうしてああなってしまわれたのかしら。最近は怒りやすくなっているようなの」
部屋から飛び出した侍女が、項垂れながら答えた。
「やはりあの噂、本当なのかしら」
公爵邸で一番背の高い侍女が、ふと疑問を口にした。
「あの噂って?」
「エレナ様と皇太子の婚約話が上手く進んでいないという話よ」
「確かに、私も聞いたわ」
部屋を追い出された侍女も同意した。
すると、扉の開く音がした。
三人は、ハッとしてそちらを振り向く。しかし、思っていた部屋ではなく、奥の部屋を掃除していた侍女が扉を開けた音だった。
「こんな所でする話では無いわね。早く侍女長のところに戻りましょう。私たちも手伝うから、後で一緒に片付けましょうね」
「ありがとう……!」
落ち込んだ侍女を慰めながら、その場を後にした。
侍女が早足で部屋を出て行くと、エレナは不機嫌そうにティーカップを見つめた。カップは粉々に砕け散り、紅茶は床にこぼれていた。
エレナはテーブルに突っ伏し、泣きながら自分の感情を抑えようとした。周りの貴族たちの陰口とリリアへの嫉妬が彼女の心を侵食していた。一方で、リリアに対して何かしらの感情を抱いていたのか、その距離感が自分を苛立たせるのだった。
エレナはリリアのことを下に見ていた。自分が誕生日の主役であり、リリアが訪れるのは彼女のパーティーだということを忘れてはいなかった。しかし、他の貴族たちとのリリアの親しい様子、彼女の美しさと優雅な立ち居振る舞いが、エレナの嫉妬を掻き立てていた。
リリアが自分の提案を退け、他の貴族たちもそれに賛同したことは、エレナにとっての不快な出来事であり、彼女の中で憤りが高まっていた。
「やはり、あれを使うしかないようね」
エレナは薄暗い自室の中で、笑みを浮かべた。
一方、リリアは伯爵邸の自室で嬉々として優雅に紅茶を飲んでいた。
「楽しかったわ」
「それは良かったです」
侍女のセリンもリリアの喜びが移ったようで、無表情な顔に少し喜色が浮かんでいた。
リリアは今回の件で、前世の自分と現在の自分に違いを見いだした。昔のわがままで、嫉妬深い自分とは違うのだと感じた。
冷静にその場を客観視すれば、切り抜けられると分かった。
今の私に怖いものはないわ。あんなにしがみついていたかったエレナでさえ、今はどうでも良いわ。逆にどうしてあそこまでエレナを求めていたのかしら。
伯爵令嬢である私が公爵令嬢のエレナと仲良くなれば、将来も安定すると思っていた。特に私はマナーも礼儀もなっていなかったから、人に頼るしかなかったのね。
安心して前世の私、今の私は一人で立つことができる強さと頭脳という武器を持ったわ。外見だけなんて言わせないわよ。
「今日は庭園のバラをお風呂に浮かべてちょうだい」
リリアはティーカップを持ちながら、セリンを見てそう言った。
「かしこまりました。沢山入れましょう」
「そうね、ありがとう」
リリアの部屋では二つの笑いが心地よく響いていた。
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