第14話 公爵家と伯爵家
過去の私はエレナと同等の地位だと勘違いしていた。というか、勘違いさせられていた。
なぜなら、エレナがそう仕向けたから。決まって彼女は観衆が居る中で私に話しかけた。それも今思えば、彼女の作戦だったのだろう。あれもそうだった。
「リリア、ここでは遠慮せずに私をエレナと呼んで。友人同士のパーティーなのだから、堅苦しいことは忘れて、楽しんでいきましょう」
リリアは微笑みながら、エレナに向かって頷いた。
「ありがとう、エレナ。楽しいパーティーを過ごしましょう」
エレナとリリアの親しい様子に、貴族たちは陰口を言う機会を探し、彼女に対して辛辣な言葉を浴びせた。
「エレナ様とリリア嬢の親密な友情は、リリア嬢が正しい立場をわきまえないことの証拠よ。伯爵家が公爵家と同等だと思うなんてね。ヴァンダーヘイデン伯爵はどのような教育をなさっているのかしら?」
「そうね。エレナ様は平民のような悪女と関わって、どうなさるおつもりかしら。お優しいのは良いことだけれど……」
その言葉を聞いて、リリアは胸にモヤモヤが渦巻いた。私はエレナと仲良くしたいだけなのに、どうして皆悪くいうのかしら。私がエレナのことを虐めているだなんて言う人もいるくらいだし。
「エレナ、私と話すと良くないのではないかしら?」
「リリア、何を言っているの?あんなもの達のことは気にしない方が良いわよ。私は貴方の事をよく思っているのだから」
エレナはほくそ笑みながらそう言った。世間知らずなリリアはそれをただの微笑だと思ったのだ。
はぁ……私ってなんてお馬鹿だったのかしら。あれが親密な友人へ向ける笑顔だと勘違いするだなんてね。私の悪い噂を流していたのも彼女だったじゃない。確かに、彼女に唆されて他の令嬢を虐めたこともあった。上手い具合に事実と嘘を織り交ぜたのね。
でも、今の私がエレナに唆されることは無い。考えられないわ。本当に勉強してよかった。頭の回転が早くなったような気がする。
リリアは前世の自分を思い起こして、駄目加減に馬鹿らしくなった。
まあ、前世の私の方が性格は良いわね。
リリアはふっと息を吐いて独りごちた。
「リリア、どうしたの?」
エレナが様子のおかしいリリアに声をかけた。
「あぁ、申し訳ありません。考えていましたの。やはり、私にはエレナ様を軽々しく呼ぶなんてことはできませんわ」
リリアは美しい微笑を浮かべてそう答えた。
「リリア様がエレナ様のお誘いを断ったぞ……」
「公爵家の提案を退けるとは……」
周りの貴族たちはリリアの行いを非難した。
「リリア、私が良いと言っているのよ?」
エレナは怒りで握り拳を作りながら言った。何でもない事のように振舞っているが、肩が怒りで震えている。
それはそうだろう。公爵家であるエレナにとって伯爵家の私に提案を却下されるのは屈辱のはずだ。しかし、エレナの狙いが前世と変わらないのなら、これを受け入れることは出来ない。
「エレナ様、お聞きください。私は伯爵家でございます。そのような私がエレナ様のことを軽々しく呼べば、他の貴族が真似をしてしまいます。それはあってはならないことだと思うのです。しかし、エレナ様と仲良くしたい気持ちに変わりはありません」
リリアはエメラルドグリーンの瞳を輝かせ、エレナをしかと見た。
「おぉ、リリア様の言うことにも一理あるな」
「私もそう思います」
「秩序を乱してしまいますからね」
貴族たちはエレナが思っていたのとは正反対のことを言い出した。
なによ、私がそうしろと言っているのに……!!
エレナは怒りでどうにかなりそうだった。リリアが了承してエレナを軽々しく呼べば、マナーのなっていない令嬢だと言われ、断れば公爵家の提案を断ったと非難されるはずだったのだ。
なのにどうだ、皆リリアの味方になっているではないか。前までこんなことはなかった。最近リリアは可笑しい。評判が良くなったと思えば、他の貴族を味方にしているではないか。
「エレナ、リリア嬢もそう言っているし、無理に呼んで頂かなくても良いのではないか」
騒ぎを聞きつけ、ドゥマレーシュ公爵がやってきた。
「リリア嬢、すまないな。エレナは誕生日で気分が高揚しているようだ。許してやってくれないか」
「そんな、私は何とも思っていませんわ。エレナ様のありがたいお言葉、身に余る光栄でした」
リリアは美しい手足を動かし、綺麗なお辞儀をした。
「ありがとう、リリア嬢。それでは私たちは失礼する。楽しんでくれたまえ」
「はい、ありがとうございます」
公爵の言葉にリリアはお辞儀をしながら答えた。
さて、今日の山場は乗り越えたわね。そろそろ帰ろうかしら。
リリアは近くに控えていた侍従を呼んで、伯爵邸に帰ることを伝えた。
遠くでは一連の流れを見ていた男がいた。
「うーん、噂とは違うな。先ほど話した時も、素晴らしい立ち姿勢だった。やはり噂は噂と言うことか」
「そうですね、エレナ嬢に話しかけられた際の断り方も堂々としたものでした」
「良いな……」
皇太子は微笑んだ。
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