第12話 ラウゼンベルク伯爵とペンダント


「では、今回も孤児院への寄付を行うという事で良いでしょうか?」

 ラウゼンベルク伯爵が皆に聞いた。


「異論なしです」


「私もだな」


「あの、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」

 リリアは少し控えめに手を挙げた。


「リリア嬢、どうぞ」

ラウゼンベルク伯爵がリリアに続きを促した。


「孤児院への寄付、とても良いと思います。しかし、どのようにして寄付金を集めて孤児院に送るのか気になってしまって……」


「リリアお嬢様は初めての参加でしたものね。皆の寄付金を一度ラウゼンベルク伯爵が集めて、孤児院にまとめて寄付するのですよ。書類関係も伯爵がやってくださいます」

 リリアの疑問にセシリアが答えた。


「そうなのです。まだ説明していませんでしたね。寄付をした証明書も次回の集まりでお見せするので、ご安心ください」

 セシリアの後、ラウゼンベルク伯爵が説明を付け足した。二人が穏やかで丁寧な説明をしてくれたため、リリアはほっとした。


「ご説明ありがとうございます。初めての事で、お話を止めてしまい申し訳ございません」

 リリアは皆の顔を見回してそう言った。


「そんな事はありませんよ」


「そうです。分からないことがあったら、また聞いてくださいね」


 落ち込んでいるリリアを見て、伯爵やセシリア以外の人々も優しい言葉をかけた。

 ラウゼンベルク伯爵は、リリアの他に質問などが無さそうだと確認し、今回の集まりを終了させた。


「では、本日はこれで解散とします。次回の予定もまたお知らせしますので、お待ちください」


「では、リリア様帰りましょうか」

 席を立つとセシリアはそう言った。


「そうですね。少し寄りたいところがあるのですが、良いでしょうか?」

「ええ、大丈夫ですよ」

 

 リリアとセシリアが会話をしているとラウゼンベルク伯爵が後ろから声を掛けた。

「すみません、リリア嬢」


「ああ、ラウゼンベルク伯爵、本日はありがとうございました。とても勉強になりましたわ」


「こちらこそ、ありがとうございました。次回も是非参加いただければと思います。若い世代に興味を持ってもらえることは嬉しいですからね」

 ラウゼンベルク伯爵は笑いながらそう言った。


「ええ、是非」

 リリアも笑顔で答えた。

 まだ成人していないリリアにとって、外での学びの場は非常にありがたいものだった。初めはエレナよりも先に行動することで、他の貴族や民からの信頼を得ようと考えていた。しかし、学びの面白さを知ったリリアは、これを橋がけとして新しいことを学び、さらに自分や周りのためになる行いをしていこうと決めた。



 ――――――


 ラウゼンベルク伯爵の屋敷から場所を移して、リリアとセシリアは宝石店にいた。

「頼んでいたものを取りに来たわ」

「ありがとうございます。こちらへどうぞ」

 店員はリリアとセシリアを個室へと案内した。


「うん、とてもいいわ」

 リリアは、頼んでいたものを確認すると満足気に頷いた。

「これなら喜ばれると思います」

 セシリアも笑顔で賛同した。


「ありがとうございました。またのご利用お待ちしております」


 馬車は伯爵邸へ到着した。


「それではリリア様、私はこれで帰りますね」

「え、お茶でも飲んでいかれてはどうですか?」


 セシリアの言葉にリリアは疑問気に答えた。


「ありがたいお誘いですが、用事がありまして」

「それなら帰らなければいけませんね。セシリア夫人、今日はありがとうございました」

「いえ、私も勉強になりました。また一緒にお茶を飲みましょうね」


 セシリアが馬車で帰って行くのを見送ったあと、リリアは宝石店の土産を持って伯爵邸に入った。


 玄関前のホールではヴァンダーヘイデン伯爵と兄のアレクサンドルがいた。彼らも外から帰ってきたようだった。


 ちょうどよかった。リリアはそう思った。

「お父様、お兄様ただいま帰りました」

「おお、リリアか、お帰りなさい。セシリア夫人とのお出かけは楽しめたか?」

「はい!またお茶を飲む約束をしました」

「それは良かった」

 リリアと伯爵が微笑ましい会話をしていると、アレクサンドルが驚いた様子で二人に聞いた。


「二人はこんなに仲が良かったのですか?あ、いや、前が悪かったとかではなくて……」

「はっはっは!いや、いいんだ言いたいことは分かる。最近リリアに構ってあげていなかったことに気づいてな。こうして話をする時間の大切さを知ったんだよ」

「ふふっ、そうですね。私も意地を張らずにお父様と楽しい時間を過ごした方が良いと気づきました」


「そうか、それは良かった」

 アレクサンドルは優しい目をしてリリアを見た。


「それはそうと、お兄様に渡したいものがあるのです」


 リリアは、先ほど宝石店で受け取ったものをアレクサンドルに渡した。それはペンダントだった。

 ペンダントはヴァンダーヘイデンの紋章である、赤い薔薇と金の紋章で飾られており、美しい輝きを放っていた。


 リリアの兄は、それを驚きと感激の表情で受け取った。ペンダントを受け取る手が震えるほどの感情に包まれた。リリアは笑顔で言った。


「お誕生日おめでとうございます。このペンダントがお兄様の特別な日を祝福する贈り物です。お兄様になかなか渡せていなかったので、家に帰ってくる日を見計らって作成しました!」


「リリア……ありがとう。とても嬉しいよ」

 兄はペンダントを手に取り、その美しさに見とれながら、感謝の言葉を口にした。三人はこの特別な瞬間を分かち合った。


 

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