第10話 リリアと王国民の生活
「お嬢様、おはようございます」
「ああ、セリンおはよう」
リリアは眠気まなこを擦りながら挨拶をした。
本当に眠いわ……。セリンはよく起きていられるわね。
セリンは挨拶をした後、てきぱきと動き出した。彼女には慣れた事のようで、無駄のない動きだ。
「お嬢様、今日はアレクサンドル様がお帰りになる日ですね」
「そういえば今日だったわね」
アカデミーが休みに入るため、アレクサンドルも伯爵邸に帰ってくるのだ。1週間ほど前に手紙が届いていた。
それは置いておいて、今日は用事があるから早く準備をしなければ。
「今日は地味なドレスを着ていくわ」
――――――
リリアは民たちの生活状況を理解するため、セリンと護衛を連れ、王国内の人が多い地域を訪れることに決めた。一度目の人生では、エレナや皇太子が民たちの生活を覗いて、補助などをしていた。
彼らよりも先に行動し、私が王国民からの評価を得るのよ!
リリアは意気込みながらヴァンダーヘイデン伯爵家の華やかな邸宅を出発し、街へ向かった。
「かなり栄えているわね」
リリアはセリンに話しかけた。
「そうですね。王宮に近いという事もあるかもしれません」
青い空が広がり、陽光が平民の町を照らしていた。リリアの歩く足取りは軽やかで、しかし謙虚なものであり、周囲の人々に親しみやすさを感じさせた。
町の中心部では、小さな市場が開かれ、新鮮な野菜や果物、手作りの工芸品が売られていた。
「お嬢さん、ここでしか売ってないアクセサリーだよ!」
手作りのアクセサリーを売っている商人がリリアに話しかけた。
「あら、良いわね。初めて見るデザインだわ。これ1つ頂けるかしら?」
「はいよ!ありがとう!」
リリアはアクセサリーの中からブレスレットを受け取ると、手首に着けた。
彼女は市場の賑やかな雰囲気に笑顔を浮かべ、人々に親しみを持った。彼女は異彩を放つ存在でありながら、街の人々は彼女を歓迎した。
街の路地を歩くうちに、リリアは様々な家庭を覗き込み、平民の日常に触れる機会を持った。彼女は質素な生活の中でも暖かい笑顔を持つ家族たちを見て、彼らの生活に感銘を受けた。
するとその時、大きな怒鳴り声が街中に響いた。
「泥棒だっ!捕まえてくれ!!」
小さな体をした人影が、通りを駆け抜けて行った。
怒鳴り声の大きさにリリアは身体をビクつかせた。
そんなリリアを見て、セリンは彼女の身体を守るようにそばに寄った。
「追いますか?」
護衛たちは主人であるリリアに聞いた。
「え、ええ。追いかけて。子供のようだからあまり手荒なことはしないであげて」
リリアの言葉に護衛のうち二人が頷き、走り出した。
「ここは危ないので、馬車に戻りましょう」
「そうね」
セリンの言葉に今度はリリアが頷いた。
馬車に戻って10分ほど経った頃、護衛が一人の少年を連れてきた。傷跡などはあったが、新しい傷はなく、護衛たちはリリアの言葉を守ったことが窺えた。ボロ布のような服を着ており、彼の生活が豊かではないと知れた。
その少年は盗んだ野菜をギュッと抱え込んで、こちらを睨んでいた。
「その野菜はどうするつもりだったの?」
リリアは少年の目を見て、しっかりと聞いた。私はこの目を知っている。
「お前らなんかに分かるもんか!」
私に向かって怒った少年を、護衛たちは押さえつけた。
「その野菜を買ってあげるから、理由を話してみて」
「う、嘘だ!お前ら貴族がそんな事するわけない……!」
「話したら野菜もあげるし、家に返してあげるわ。貴方たち、その子を離してあげて」
リリアが命じると、護衛たちは少年から手を離した。リリアが促すように少年の顔を見る。すると、少年は涙を流しながら訳を話した。
「家に、風邪を引いたお母さんがいて……。妹が泣いてて、お腹が空いてて……うっ」
少年が話終わったあと、リリアはチョコレートを差し出した。
「話してくれてありがとう。そして、怖い思いをさせてごめんなさいね。これは、お礼よ」
少年は震える手でチョコレートを受け取った後、逃げるように走り出した。
「さっきの商人にこれを渡してくれるかしら?少し疲れてしまったから、私は家に帰るわ」
リリアは護衛たちに銀貨を50枚渡した。
少し多いけれど、口止め料としては良いでしょう。
この散策を通じて、リリアは平民の生活や喜び、困難さをより深く理解し、自分の役割を果たすために何ができるかを考えた。
「まだ14歳な事が悔やまれるわ……早く大人になれれば良いのだけれど」
リリアは年齢と言う変えられないものに落胆した。
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