第12話 ハワイ封鎖2
1週間ほど時間は遡りアメリカ西海岸時間11月14日。
護衛任務の空母レンジャーを旗艦とする空母2、重巡洋艦4、駆逐艦8、高速油槽船2隻で構成された第16任務部隊がサンディエゴを出航し一路ハワイ、オアフ島真珠湾に向かった。
第16任務部隊は真珠湾で燃料を補給後、進路をいったん北に取りそれから北東方向に回り込むよう西太平洋を横断し日本近海まで進出することになる。
現地時間11月20日、午前8時。
第16任務部隊はオワフ島の北西60キロ地点まで進出していた。
3時間後には真珠湾に寄港できる見込みである。
上空には警戒用のアヴェンジャーが数機旋回していた。
さらにオワフ島からカタリナ飛行艇が飛来して海上を警戒していた。
レンジャーの左右には重巡タスカルーサと重巡アストリア が並走し、その3隻の前後左右を4隻の駆逐艦が進み小型の輪形陣を組んで真珠湾に向かって航行していた。油槽船が1隻レンジャーを中心とした艦艇群の後方から追走している。
レンジャーの斜め後方に飛行甲板後方にB25が並べられたサラトガを中心とした艦艇群がレンジャーと同じ小型の輪形陣を組んで航行していた。
海上を警戒していたアヴェンジャーが潜水艦の潜望鏡らしきものを発見し、第16任務部隊は一時騒然としたが、流木であることが分かった。
午前9時、潜水艦騒動でいったん乱れた隊形を整えた第16任務部隊は真珠湾への航行を再開した。
9時30分。
いきなりレンジャーの前を航行する駆逐艦に水柱が上がった。間を置かずレンジャーに3本の水柱が上がり、引きつづいて重巡タスカルーサに2本の水柱が上がった。
3隻はいずれも短時間で沈没してしまった。
レンジャーに座乗していたハルゼー中将はレンジャーと運命を共にしている。
重巡アストリアと3隻の駆逐艦は周囲を警戒しながら海上に投げ出された乗組員の救助のため減速した。
3分後。
重巡アストリアに2本の水柱が上がり、さらに駆逐艦2隻にそれぞれ水柱が上がった。
さらにその3分後。
海上に漂う乗組員の救助に当たっていた生き残りの駆逐艦と、後方で停止していた油槽船に水柱が上がりどちらも沈没してしまった。
潜水艦
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
こちらはイ201。
最後に残った駆逐艦がイ201の射出した機雷に触雷した爆発音と誘爆音らしきものがイ201の艦内に響いた。そのあとわずかに聞こえていた駆逐艦の機関音も消えていた。
「これで一部隊を丸ごと沈めてやったはずだ。
潜望鏡深度まで浮上!」
イ201は深度150から潜望鏡深度まで浮上し、明日香が例のごとく潜望鏡を一回転させた。
「一個空母部隊はきっちり沈めたようだが、もう一群空母の戦隊がいた。距離は800だ。
かなりの速さで遠ざかってる。
海に浮いてる友軍を助けもせずに逃げ出すとは卑怯な奴らだ。
追いかけて全部沈めてやりたいが、25ノットは出てたからちょっと無理そうだ」
「司令、敵側からすれば妥当な判断ではないですか?」
「いや。アメリカは兵隊をことのほか大事にする国だという。
海に投げ出された連中を放っておいて逃げ出したとなると大問題になるはずだ。
少なくとも遁走を命じた司令官は更迭。悪くすれば軍法会議だろう」
「まさか」
「いや。そのマサカが起こるのが民主主義だ。
そういえば、逃げていった部隊の中にいた空母はレキシントン級に見えた。
レキシントンかサラトガか分からないが、一隻はサンゴ海に沈んだはずだからその生き残りだな。
ちょっと見だが甲板上に大型機が乗ってたように見えたんだ」
「また日本本土への空襲を企てたんじゃないでしょうか?」
「空母に陸軍の爆撃機を乗っける意味合いとすれば、遠距離からどこかを攻撃するって事しかないものな。
10機やそこらでの日本本土爆撃には戦略的意味合いはほとんどないが政治的意味合いは確かにある。
もしそうならアメリカの政権はよほど追い詰められているってことで、わが方とすれば朗報だ」
「連中はこのままアメリカ本土に引き返すと思いますか?」
「逃げていった空母じゃ大型機が邪魔で艦載機を飛ばせないだろうから、さっき沈めた空母は護衛用だったはずだ。
さすがに護衛なしでわが国の近海までのこのこやってこないだろう。
こっちも一回目で懲りて、監視体制も迎撃態勢も固めているわけだし」
「そうだといいですね」
「しかし、逃した獲物は大きいというが残念だった」
「そのうちまた来ますよ」
「今回の作戦は年末までだから、それまでにやってきてほしいな。
空母の連中は逃げ出したがさすがに真珠湾からは救助にやってくるだろう。
置き土産に機雷を何個か恵んでやろう。
後部魚雷発射管室、7番、8番、機雷準備。準備出来次第6個ほど調停深度1で射出してくれ」
『後部魚雷発射管室。了解』
3分後イ201からアメリカ軍の乗員たちが浮かぶハワイ北東海面に6個の機雷が射出された。
「下に潜って、夜を待つとしよう」
イ201は深度200まで潜航し、その深度を保ったまま
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
危険水域から離脱を図ったサラトガだが、サンディエゴの太平洋艦隊司令部と真珠湾の海軍基地にレンジャーを中心とした護衛部隊が全滅したことを報告し、自部隊は任務遂行不可能としてこのままサンディエゴに引き返すと伝えた。
太平洋艦隊司令部は混乱していたが、サラトガのサンディエゴへの帰還を了承した。
真珠湾からは、サラトガから報告されたラングレーを中心とした護衛部隊が全滅した海面に向け乗組員救助のためカタリナ飛行艇6機および小型船舶が直ちに派遣された。
6機のカタリナ飛行艇は波間に浮かぶ乗組員を割けるように着水したがいずれも着水時数人を巻き込んでいる。
そのうち2機は着水に失敗して先端の水よけ板と翼に付いたフロートが破損して水没した。
2機はイ201がばら撒いた機雷に触雷しバラバラになって吹き飛んだ。このときの爆発の衝撃で近くに浮いていた乗組員を多数巻き込んでいる。
イ201は航空機を撃沈した世界初の潜水艦となった。
着水に成功した2機は何とか数名の乗組員を救助したが、離水に失敗してフロートを破損してしまい漂流を始めた。
結局派遣されたカタリナ6機は全滅してしまった。
その後、駆けつけてきた小型艇は生き残りの乗組員の救助を始めたが、生存者は既に広範囲に流されていた。
救助作業は触雷の危険がある中での作業だったため難航を極め、結局救助されたのはわずか100名ほどだった。なお、救助作業中に1隻の駆潜艇が触雷し爆沈している。
危険海面から離脱したサラトガを擁する空母部隊であるが、当日、現地時間午後6時(日没は午後5時50分)。西の空がまだ明るい中、潜望鏡深度に浮上したイ202に発見された。
イ202はサラトガに向けて6本の魚雷を放ちそのうち2本がサラトガの左舷に命中した。
この被雷によりサラトガは右舷への緊急注水が間に合わず左舷に大きく傾斜した。
飛行甲板上に露天係止されていた18機のB25のうち12機は係留索を引きちぎり甲板を滑り落ちて海没してしまった。
残った6機も甲板上で大破して、全機海中に投棄された。
サラトガは重巡クインシーに曳航されてサンディエゴを目指したが、未明に総員退艦
イ202はこの襲撃で前部魚雷発射管室の魚雷が払底してしまい、クェゼリン基地に向かって退避していった。
[あとがき]
次話で最終話となります。
最後までよろしくお願いします。
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