第10話 第2次日本本土空襲作戦
中間選挙を控えたアメリカ。
中間選挙の1カ月前、日本軍の真珠湾攻撃について軍は攻撃を事前に察知していたにもかかわらずルーズベルト大統領の指示でなにも対策を取らなかったことが某紙によりスクープされた。
アメリカ政府は根も葉もないデマであると否定したがオーバルルームで行なわれた戦争指導会議で大統領の指示を記したメモが海軍省内で発見されるにおよび、アメリカ政府は対日開戦を正確に予測していたことと真珠湾に対して何ら警告を出さなかったことを認めた。
ルーズベルト大統領は国民に謝罪し、あらためて対日戦の必要性を訴えた。
なお、メモを残していたとされるキング海軍作戦部長は名目上辞任し予備役に編入された。
中間選挙の3週間前。
アメリカ海軍太平洋艦隊の要衝である西海岸サンディエゴ近くで戦艦1隻と重巡2隻が日本軍の潜水艦によるもの思われる雷撃により撃沈された。
その他の艦艇、貨物船にも日本軍が敷設したと思われる機雷による被害が出ていた。
機雷の掃海作業が行なわれたが東海岸からパナマ運河経由での貨物船輸送が滞り、西海岸では生活物資が不足し価格も高騰し始めた。
西海岸のみならずハワイに対する物資輸送も滞っていた。
10月に入り本土からハワイへ送られた物資の7割、艦船については実に8割を喪失していた。
そのため、ハワイでは食料品を筆頭に日常品の不足が顕著になり住民の不満が高まっていた。
そういった国内情勢の中でアメリカ時間11月3日に中間選挙が実施された。
選挙の結果、下院では民主党が215議席、共和党が220議席となり、上院では民主党が46議席、共和党が50議席(注1)となった。
中間選挙前は民主党が両院で過半数の議席を占めていたが、今回の中間選挙の結果、共和党が両院で過半数を獲得することとなった。
これまで対独、対日強硬策を推し進めてきた民主党がこの中間選挙で大敗したことによりルーズベルト大統領の政権運営は厳しいものとなることが予想された。
日本側であるが、11月に入り、6隻の正規空母を擁する南雲機動部隊がオーストラリア北東部のケアンズ、クックタウンに空襲を敢行し、港湾施設と空港施設を破壊したうえ多数の在泊艦船を撃沈した。
これによりオーストラリア海軍は巡洋艦を全喪失し、駆逐艦も8割を喪失し、実質壊滅してしまった。
オーストラリアおよびニュージーランド政府はアメリカ政府に対して日本海軍の脅威に対抗するため艦隊の派遣を強く求め続けていた。
しかし、今後太平洋側で大型艦を喪失することになれば、少なくとも対日戦の継続は困難になると大統領のスタッフたちは危惧しており、オーストラリア方面への艦隊の派遣は事実上見送られていた。
中間選挙大敗後の最初の戦争指導会議の席上。場所はホワイトハウス、オーバルルーム。
「オーストラリア、ニュージーランドから救援要請がひっきりなしにきておるが、何か打つ手はないのかね?」
キング大将に代わり海軍作戦部長に就任したニミッツ大将がこのルーズベルト大統領の諮問に答えた。
「空母不在の状況でのナグモの機動部隊への対応は危険が大きすぎると思います」
「ニミッツ君。ナグモの機動部隊はオーストラリアから既に引き上げているのではないかね?」
「オーストラリア北東岸への空襲は一時的に終わったかもしれませんが、逆にナグモの機動部隊が今どこにいるのか不明です。
情報部の見立てではトラック基地に一度戻り補給を受けているのではないかとのことです」
「かれらの次の矛先はどこだと思う?」
「オーストラリアを連合国から脱落させるため。再度オーストラリアに向かうのではないでしょうか」
「これを止めないと本当にオーストラリアが連合国から脱落してしまう。
それだけはなんとしても阻止しなくてはならない」
「大西洋から太平洋に空母を回航し、ナグモの機動部隊がオーストラリアに取り掛かれないように日本の適当な島をこちらの空母で通り魔的に襲ってはどうでしょうか?」
「使える空母があるのなら、そういった地味な作戦ではなくまたトウキョウを空襲できないものかな?
きみも分かっているだろ?」
「大統領閣下のお気持ちは理解できますが、2度目となるとさらに危険度が増します。順当な作戦で一歩一歩進んでいけばトウキョウに星条旗を翻せるでしょう」
「最後にはそうなるだろうが、そのときわたしは大統領ではなくただの老人だよ。
2度目のドーリットル作戦を進めてくれたまえ。
そうすればナグモの機動部隊の目もそちらに向いてオーストラリアへの圧力は軽減される。
そう思わんかね?」
「大統領閣下。おっしゃることは理解できますが、部下をそのような投機的作戦に送り込むことはできません。
ナグモの機動部隊はもちろん脅威ですが、日本軍のナゾの潜水艦についても全く情報がありません」
「ミッドウェーでの失態、先日の戦艦の喪失をかばってやっていたが、あくまで反対というなら、ニミッツ君。きみは解任だ」
ニミッツ海軍作戦部長が顔を赤らめたルーズベルト大統領に一礼してオーバルルームから去っていき、2度目の日本本土空襲作戦が決定された。
日本本土空襲作戦の具体的な作戦計画は新たに海軍作戦部長に就任し中将から大将に昇進したスプールアンス大将によって策定された。
参加艦艇数は、一度目の日本本土空襲作戦時と同じで、空母2、重巡洋艦4、駆逐艦8、高速油槽船2隻だった。2隻の空母はサラトガとレンジャー。
艦隊の指揮は前回同様ハルゼー中将に任されることになった。
サラトガとレンジャーは大西洋艦隊に属していたため、大西洋からパナマ運河を経由してサンディエゴに向かった。
今回も日本本土空襲にB25を使用する。
前回はヨークタウン級空母ホーネットより16機のB25が飛び立ったが、ホーネットより飛行甲板の長いサラトガの甲板に18機のB25を並べることとした。
サラトガは飛行甲板がB25で塞がれるため海軍機の発着艦はできないため、レンジャーが護衛として同行する。
アメリカ陸軍では同じような作戦が行なわれることを予想して空母から発艦できるB25のパイロットの養成を既に終えておりいつでも作戦可能だった。
注1:
当時アメリカの州の数は48で上院議員数は96だった。
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