第9話 クェゼリン基地


 日本時間10月11日、午前3時。現地時間10月10日の午前11時。

 サンディエゴ近海でアメリカ海軍の戦艦を始めとした軍艦を撃破し、遁走を開始してから4時間。

 イ201はサンデイエゴから100キロの沖合で停止して深度200のまま懸吊した。



 8時間ほど懸吊したイ201は浮上した。

 2時間近く前に日は沈んでおり周囲はすっかり夜になっていたがイ201は上空を警戒しつつ浮上航行でクェゼリン基地を目指した。

 クェゼリン到着は17日後、日本時間10月28日になる見込みだ。



 イ201はクェゼリンへの航行中、サンディエゴでの戦果とクェゼリンにいったん引き上げ補給するむね連合艦隊司令部に打電している。

 さらに明日香は、連合艦隊司令部経由で隷下のイ202、イ203に対して引き続きハワイ封鎖を継続するよう命じている。

 しかし、連合艦隊司令部からの命令は何も受領していない。


「艦長、ミッドウェーの時も含めて海に出てから今まで一度も上からの命令を受領したことがないのだが、これでいいのだろうか?

 いちおうわたしは潜水艦3隻とはいえ戦隊一つ預かってるんだが」

「それだけ司令は山本長官に信頼されている証拠でしょう」

「まあ、連合艦隊司令部でも具体的な命令は出しにくいだろうしなー」

「そうですね」



 クェゼリン基地への航行中、イ201は洋上で独行船などにも遭遇することなく、日本時間10月28日午前6時、現地時間午前9時にクェゼリン(北緯8度43分、東経・・167度44分)に到着した。


 クェゼリン基地には2本の大型の浮き桟橋があり、曳船2隻によってイ201は片側の桟橋に係留した。

 もう一方の桟橋には2隻の潜水艦が係留されていた。

 桟橋から少し離れた場所に占守型海防艦が2隻と曳船などの小型船が数隻浮かんでおり、そのほか2機の二式大艇も浮かんでいた。

 他には4機の二式大艇が陸上おかに引き上げられているのが椰子の木々の先に見えた。


 桟橋から渡された渡り板を伝って第2種軍装に着替えた明日香と静香は迎えの海軍士官に案内されて桟橋からそれほど遠くない根拠地隊司令部に赴き挨拶をした。

 根拠地隊司令部といっても大層どころか屋根上にヤシの葉やらバナナの葉が乗せられた高床式の小屋だった。

 実際は葉っぱの下にはちゃんとトタンが張られていたのだが小屋であることに変わりない。

 その司令部小屋の脇には木造の物見櫓が立ち、さらに兵舎らしきものが連なっていた。


「涼しそうではあるな」

「そうですね。この基地もできてしばらく経っていますから手が回らないと言ってももう少し立派でもいいんじゃないでしょうか?」

「たしかに。アメリカさんでは考えられないような司令部だな」

「……」


 二人は型どおり根拠地司令官根岸少将にあいさつした後、根岸司令官から連合艦隊司令部より独立第1潜水戦隊あてに届けられていた命令書を渡された。

 内容は『引き続きハワイ封鎖を継続せよ』だった。


 根岸司令官に礼を言って艦に戻ろうと席を立ったら、根岸司令官から果物があるから2人ほど人をここに寄こしてくれと言われた。

「ありがとうございます」


 2人は再度根岸司令官に礼を言って根拠地司令部をあとにした。


 イ201からは別途主計士官が根拠地司令部に赴き95式改魚雷と一式機雷改2、それに燃料と食料の補充依頼書を提出している。

 補充依頼数は魚雷と爆雷それぞれ、前部魚雷発射管室16本+後部魚雷発射管室6本、爆雷数は後部魚雷発射管室23個で、補充が完了すれば前部魚雷18、後部魚雷8、爆雷数は32となる。



「司令、やっと命令を受領しましたね」

「命令を受領したとはいえ、受領していようがいまいが何も変わらない内容だったぞ」

「何度も言いますが、それだけ上に信頼されている証拠でしょう」

「そうかもしれないが、こんなんでいいんだろうか?」

「あれこれ言われるよりましでしょう」

「そう言えばそうなんだが」


 2人は艦に戻り、乗組員2名を果物受領のため根拠地司令部にやった。

 2名は15分ほどでリヤカーにバナナのほか椰子の実とパパイヤを山盛りにして戻ってきた。


 リヤカーの後に続いて1本の魚雷が運搬車に積まれて6人ほどの人力で運ばれてきた。

 鶴井艦長は安田副長に果物と魚雷の搬入の監督を任せ、明日香と2人で搬入作業を見守った。



 イ201には魚雷搬入口が前部発射管室上部と後部発射管室上部の2カ所ある。

 現在イ201は前部発射管室をクレーン近くにして係留しているので前部発射管室から先に魚雷を搬入することになる。


 基地の魚雷庫から人力で運ばれてきた魚雷は、クレーンで吊り上げられて魚雷搬入口から艦内に収納される。

 桟橋上のクレーンで魚雷を吊り上げると桟橋が傾いてしまいそうだと懸念していたが、クレーンそのものは海底まで足が延ばされて固定されていたのでその懸念は杞憂だった。

 それでも、作業を見守っていた明日香と鶴井艦長は少し心配だったようだ。


「いつものことですが魚雷の搬入だけは見てて気持ちのいいものじゃありませんね」

「安全装置が付いているから爆発はしないはずだが、確かに見てて気持ちのいいもんじゃないな。

 呉だと1本積み込むのに20分ほどかかったが、ここだと30分はかかりそうだ。

 魚雷22本となると、積み込みに10時間はかかる。そのあと爆雷を23個積むわけだから積み込み完了は明日の未明になるな。

 何もなさそうなところだが、作業が終わったら半日ずつの半舷上陸させよう。

 出航はここの時間で明後日の正午だ」

「了解しました」



[あとがき]

クェゼリン基地の状況が全く分からなかったので適当に書いています。

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