第5話 独立第1潜水戦隊出撃
10月月初からハワイで封鎖作戦を始めるため、明日香は逆算して独立第1潜水戦隊の出撃日を9月1日と定めた。
出撃までみっちり訓練を積み、ハワイまで巡航10ノットで片道15日の航海を予定している。
もちろん航行中にも訓練を実施するつもりだ。
公試を終えたイ202およびイ203は、一度呉港に帰港して物資を補給後2週間の訓練航海に出航していった。
イ201はそれとは別に瀬戸内海で訓練に入った。
こちらの訓練は乗組員というより新艦長である鶴井中佐の操艦訓練の意味合いが強く早朝出航し日没前に帰港を繰り返した。
前回のミッドウェーへの出撃時には魚雷の手当てで手間取ったが、今回は既に鎮守府内の魚雷庫に十分な数の95式改酸素魚雷が備蓄されており、機雷庫の中にも一式機雷改2が納められている。
さらに、南洋マーシャル諸島のクェゼリン基地にも補充用の95式改酸素魚雷と一式機雷改2が送られることになっており、それらは9月中にはクェゼリン基地に到着することになっている。
「準備はおさおさ怠りなし!」
明日香はしごくご満悦である。
一方連合艦隊は8月に入りミッドウェーからハワイに向けて二式大艇を飛ばし高空からの夜間爆撃を敢行していた。
この爆撃のため18機の二式大艇がミッドウェーへ進出し、そのうち12機が編隊を組み60キロ爆弾を毎夜真珠湾の軍港周辺にばらまいていった。
一機当たり60キロ爆弾16個、12機合計で192個の爆弾が一度の爆撃でばらまかれる。
ハワイ側の夜間の防空体制は整っておらず、大型艦も本国に退避して真珠湾に停泊していなかったため探照灯などもわずかばかりで爆撃隊はほぼ無傷で爆撃を敢行できた。
正確な戦果の確認はできなかったが、連合艦隊ではさらに12機の二式大艇を投入し連夜18機での夜間爆撃を敢行した。
戦後明らかになったが、アメリカ側はこの爆撃により潜水艦の他小型船舶多数、魚雷倉庫を含む真珠湾の港湾設備、ヒッカム飛行場の航空設備、石油備蓄基地等に損害を受けていた。
アメリカ側は真珠湾周辺の防空体制を強化するため本国より高射砲、探照灯などを積んだ輸送船を西海岸よりハワイに送った。
しかし、それらの輸送船はハワイ海域を哨戒中の第6艦隊の潜水艦によりそのほとんどが撃沈された。
再度の輸送のため護送船団を組むこととなったが、西海岸からの船団の出航は高射砲の調達が進まず10月初旬の見込みとなっていた。
高射砲の調達遅れはアメリカ西海岸の防空を優先したためである。
一方南雲中将率いる機動部隊はニューブリテン島南西海域までまで進出し、ニューブリテン島ラバウル基地からの爆撃隊と呼応して連日ニューギニア南東部の要衝ポートモレスビーを空爆した。
日本時間8月20日。第二水雷戦隊に護衛された輸送船に分乗した陸軍一木支隊2400名により制空権下でのポートモレスビー上陸作戦が敢行された。
上陸作戦はほとんど損害を受けることなく成功し、ポートモレスビーは日本軍によって占領された。
ポートモレスビーでは鹵獲したブルドーザーが活躍し短時間で空港が整備され、海軍航空隊及び陸軍航空隊が速やかに進出を果たしている。なお、陸軍航空隊の戦闘機は海軍の航空母艦により運搬された。
9月13日午後から呉港の岸壁に横付けされた独立第1潜水戦隊の3艦で魚雷を始め物資の搬入が始まった。
出撃のための全ての準備が15日の昼過ぎに滞りなく整った。
「艦長、今回は出撃前にやきもきせずに済んだな」
「全くです」
9月16日早朝。
物資を満載にしたイ201を先頭に3隻のイ200型潜水艦が曳船に曳かれて岸壁を離れ、艦の向きが変わったところで曳船のロープを外し一路ハワイに向けて呉港を出港した。
ハワイ海域への15日間の航海中3隻は各々訓練を続けた。
日本時間の9月30日の正午、ハワイ時間で9月29日の午後5時。
イ201は連合艦隊司令部あてに作戦海面に到達したことを打電した。
アメリカ海軍のドーントレス、ヘルダイバー艦爆の最大爆撃距離は350から400キロであろうと帝国海軍では見積もっていたため、明日香は隷下のイ202、イ203に対し、夜間を除きオアフ島から300キロ以内に接近しないよう出航前に指示している。
戦隊司令である明日香が座乗するイ201内。
「貨物船をある程度沈めておかないあとで怒られるからロサンゼルスに顔を出して何隻か沈めて、それからサンディエゴに回ろうと思う。
サンディエゴまで出張ればそれなりの獲物がいるはずだ。いや、いて欲しい」
「司令、やはりサンディエゴまで行くんですね。
それでハワイの封鎖はいいんですか?」
「ハワイへの物資はロサンゼルスから送られるんじゃないか? どこで船を沈めてもハワイは封鎖される。だろ?
魚雷を減らしてまで積んできた機雷64個は無駄にはしないから安心してくれ。ロサンゼルスに向かう間だろうが、ロサンゼルスからサンディエゴに向かう間だろうが、敵艦船を見つければ前部食ってしまうわけだし。
まあ、パナマ運河から直接ハワイに向かう船をサンディエゴ沖からでは追えないが、数はそれほど多くないだろうし、それくらい斎藤達で何とかするだろう」
「分かりました。
イ202、イ203に伝えなくてだいじょうぶですか?」
「お互い潜水艦だ。知ったところで何がどうなるわけでもないから知らせなくてもいいだろう。
2、3週間西海岸で暴れたらいったんクェゼリンで
「了解しました。たしか西海岸の海図の用意はなかったハズですが?」
「ロサンゼルス近海の海図はわたしの方で用意している。
ロサンゼルスからサンディエゴまでの海図は手に入らなかったが緯度経度は分かってるんだから何とかなるだろ」
イ201出撃時要目
基準排水量 2,900トン
水中排水量 4,200トン
全長 84.0m
最大幅 9.1m
深さ 10.3m
吃水 8.5m
53センチ魚雷発射管×艦首6門、艦尾4門、魚雷24本(艦首18、艦尾6)、機雷64個
速力
水上 15kt
水中 25kt
安全潜航深度 200m
最大魚雷発射深度 150m
航続距離
浮上時 25,500海里(10kt)
潜航時 500海里(7kt)
イ202、イ203は機雷を積まず艦首18、艦尾12、計30本の魚雷を積んでいる。
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