三日目 頑張るあなたへ

 作家先生は紅茶を飲みながら必死に原稿を進め、マスターはコーヒーを頼む客ばっかりで苦しそうにしながら、午前はゆるゆると過ぎて行きました。

「そろそろ、焼けそうです」

「はーい。それじゃあ、そろそろランチメニューの準備しますね」

 私は表に日替わりサンドウィッチのメニューを書く黒板を出して、

 《メイドさん謹製パンのたまごサンド》

 と書き出して、店に戻りました。

 店内ではメイドさんがお給仕の手伝いをしてくれていて、二人の和洋のメイドが働く、どことなくいかがわしい雰囲気の漂いそうな喫茶店となっていました。

「うーん……紅茶美味しい……眼福……後はラストシーンだけぇ……」

 今どき万年筆で原稿用紙に書いている作家先生は、零れたインクで真っ黒になった手で目を覆いながらも、最後まで書ききれそうな様子でした。なので、サービスしてあげましょう。

「せーんせ」

「んぅ……?」

「ちゅっ」

 ほっぺにちゅーしてあげました。

「……………………っあぁぁ――!」

 両手を振り上げながら、鼻血と涙と慟哭を溢れさせ、先生は狂ったように筆を走らせていきました。これで締切には間に合うことでしょう。

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