二日目 迷惑な客

 午後の営業は、誰かが口コミでパンケーキの噂を広めたのか、バイト初日の昨日より客足が増えていました。

 その中には、つい先日まで通っていた高校の制服を着た子達もちらほらいたり、まったく見知らぬ、近所の別の高校の子達もいて、パシャパシャとパンケーキの写真を撮っていました。

「地味だけど美味しいね!」

「紅茶も美味しい!」

 店のあちこちから聞こえる楽しそうな声を聴きながら、私は大急ぎでパンケーキを焼き、生地をこしらえ、焼きあがったらマスターの入れた紅茶と共に提供。慌ただしいけど、とても充実した時間……だったのですが。

「なぁによこれ! ぜんっぜんおいしくないわ! この紅茶も苦くて臭くて美味しくないし! なにが美味しい紅茶の店よ!」

 と、喚き散らすうるさいババアがいました。マスターも見たことがないという一見さんのババアは、食べるものも飲むものもきっちり平らげてから

「こんな不味いもの出す店に払う金は無いわ!」

 と言いながら店を出ようとしました。

「――へぇ、私の紅茶が臭い、美味しくないって、言うのね……」

 あっ、マスターキレてる。マスターは一度怒ると手がつけられなくなるので、お盆で頭を守りながらカウンターの中に引っ込みます。他の常連さんも、慣れた様子で距離を取りながら優雅に紅茶やコーヒーを楽しんでいます。

「お客様ぁ、本日はよくも来てくれましたね。どうやら私の入れた紅茶や、あの子が作ったパンケーキに不満があるようですが?」

「……ふんっ、小娘がなにを偉そうに。事実、美味しくないんだから本当の事を言っても文句を言われる筋合いは無いわ」

「あっそ、じゃあなんで完食してんです」

「あたしは育ちがいいの。どんなに不味くても完食しなさいって言われているのよ」

「はっ、店で喚いて不味い不味いって叫ぶような育ちをする家? 可哀想に、よっぽど馬鹿な親の元で産まれたんですね。あっ、違うか。あなたが馬鹿でブスで、それでも見合い結婚でブスでも貰ってあげないと可哀想って言われたんですね! その左手薬指に付いた豚の首輪みてえな指輪ってそういう事か!」

「……この、クソアマァ!? なに調子乗ってんのよ!」

「調子乗っているのはあなたでしょう? ほら、とっとと金払って帰ってくださいな。ここはあなたのプライベートルームでもなんでもない、お店なんですから手をつけた以上は金を払ってもらわないと」

「だから! こんな店に払う金は……」

「金を払うなんて、最低限どころか世界のどこでも当たり前すぎてどうして注意すらされないことも出来ないような人間がまともな育ちなわけないでしょ」

「っぐ……!」

「いい加減にしないと紅茶かけるわよ。普段は何も言わないのに、警告してるだけありがたいと思いなさい」

「ふっ、ふん! かけれるもんならかけてみなさい!」

「えい」

 紅茶をかけるどころか手に持っていたカップごと投げつけ、白い服が一瞬で紅茶色に染まって、ババアは俯きながら、急に叫んで

「はいはいわかりました払えばいいのね! はい! これで満足なんでしょ! もう二度と来ないわこんな店!」

 と、一万円札を叩きつけて、出ていきました。ざまあみろ。

「バイトちゃーん? ごめんなんだけど、片付けてくれるー?」

「おまかせを!」

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