二日目 パンケーキと親子
こうして誰かに提供するお菓子を作ったのは初めてですが、何とかなるものですね。
「美味しい!」とか「また食べたい!」とか「めいどさんのぱんけーきおいしびゃびゃびゃじょばー」
などなど、個性的なコメントを頂いて嬉しい気持ちでいっぱいのまま、午前の営業が終わりました。生地がすっかり減ったので午後に向けて仕込み直します。
午後の分は抹茶だけでなく、紅茶味も試してみることにしました。さっき、店長が紅茶と社交ダンスする! って言いながらポットに入れたお茶が残っていたので、それを生地に混ぜてみました。さて、どっちが多く売れるか、とても楽しみです。
「パンケーキ、きっと恋するあの子もこの子も、もっと広がれふんわりふかふかこの気持ち♪」
なんて、即興で考えた歌を歌っていると、からからんとドアベルがなり、若いお母さんと、わんぱくそうに帽子を被った男の子……二つ隣の家に住む親子がやってきました。
「こんにちは、マスターに頼んでいた紅茶の葉を取りに来たのだけど、今いらっしゃるかしら」
「マスターは今買い出しに行っています。えっと、アールグレイ150g分でしたよね?」
「そうそう、そうなの。私も夫もそれが好きで、いつも晩酌の代わりにイブニングティーとして飲んでから眠るの。とても良い気持ちで眠れるから、おすすめよ」
「確かに、眠る前に暖かい紅茶を飲むのはいいかもしれませんね。お砂糖多めのミルクティーにしてもいいかも」
「あら素敵! 今日はミルクから煮出したミルクティーにしてみましょう」
そうして雑談をしながら、戸棚を覗いてみると、(ご注文品。〇月〇日受け取り予定)と書かれたメモと、紙袋を見つけました。アールグレイ、150gであることを確認して、手渡します。
「いつもどうもね。はい、お代金」
「ひぃふぅ……丁度ですね。ありがとうございます」
「ところで、今日は紅茶だけじゃなくてお抹茶も出しているの? とてもいい香りがするのだけど」
「今日は私特製パンケーキを作ったんです。抹茶味と、紅茶味がありますよ」
「あらまぁ。ねぇゆうくん、パンケーキ食べたい?」
「いらない」
ゆうくん、と呼ばれた彼はとっても退屈そうに席に座って、携帯ゲーム機をかちゃかちゃいわせていました。
「そっかぁ、じゃあお母さんだけ食べちゃうよ? いいの?」
「いい」
ゆうくんのお母さんは、ちょっと残念そうに肩を竦めて、微笑みながら
「やっぱり、今日はもう帰るわ。晩御飯の支度もしなくちゃだしね。また機会があればぜひ作ってちょうだい」
そう言って、丁寧に頭を下げて、二人は店を出ていきました。……さて、こんな時、私はどうするのが正解なのでしょうね。
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