第11話

『母と私はほぼ毎日会わない。いつも私は自室にこもってアニメを見ている。

和貴は毎日親と喧嘩していてその腹いせに私に暴力を振るっていた。

母とは会わないから私が和貴から虐待を受けている事を知らない。

私が和貴から虐待を受けているのを知ってるのは健一だけだ。』

そう健一には言い続けてきた。

健一だけが頼りなんだと言い続けてきた。

だから健一は今まで一度も私を裏切りはしなかった。

これからもそうだと信じている。

確かな信頼関係が私と健一の間にあった。

とにかく健一しか私が和貴から虐待を受けていることを言ってない。

よって犯行動機として誤解されやすい虐待という要素が警察に知られる事はない。

だから私が犯人として疑われる可能性は低いはずだ。

親族だからそう言うわけにもいかないのかもしれないが。

そんな事を考えてるうちに私と母は和貴の病室に到着。

そこには眠る和貴の横で彼の手を握るガク君の姿があった。

そこまでは私の予想通りだった。

でも計画から1番ズレてはいけないものがずれていた。

和貴はかろうじて息をしていたのだ。

まだ生きていたのである。

今まで味わったことのない恐怖感、焦燥感が頭を一筋の雷の様にほとばしった。

私が銃で撃った時和貴は少しだけ横に首を動かした。

銃の弾を完全に避けきらず頭を掠らせたあと死んだ様に茂みに倒れ込む。

死と生のギリギリのラインを見切って和貴は弾丸に当たりにいった。

そんな事をする理由は分からない。

でも和貴ならできる荒技だ。

背筋が凍り固まる私にガク君は驚いた様な表情を浮かべた。

なぜ私がここにいるのか、と。

その時和貴と私が兄弟である事をガク君に打ち明けていなかった事を思い出す。

驚いてるガク君にその事を打ち明けると更に彼は驚いてベッドの角に頭をぶつけた。

それを無邪気に笑う私だが、そんな平穏な時間は一瞬で過ぎ去った。

ガク君は和貴を撃った犯人を見つけ出すと言い出したのだ。

私はガク君と一緒に行動する事で事件の犯人が私にならない様に奮闘しようと計画を立てた。

まずは事件の翌日にデートへ誘う。

これは無事成功。

次のステップだ。デートの前に一旦私は家に帰り自分の部屋のクローゼットを開ける。

瓶に入ってる大量の粉。

青酸カリ。

これと和貴の水筒があればもしかしたら母を犯人に仕立てあげられるかもしれない。


まずは水筒に麦茶を入れてそこに青酸カリを混入させる。

その水筒を健一に持たせて和貴の病室に向かわせる。

健一には病室にいる母のバッグの中にそっと入れてもらう。

そうする事で母が自宅から毒物を持ってきたという風に客観的に映るはずだ。


こんな汚い考えが思いつく神経性を常人には理解できないのだろう。

汚れていく。

私がどんどん汚くなっていく。

でも後戻りはできない。

和貴が目覚める前に彼を殺さなければならない。

和貴は銃撃したのが私であると気付いている。

早くしなければ。


悪に染まり切った私に残っているのはガク君への恋心だけだ。

その為に幾度の嘘を重ねて、演技をして、壊れたふりをして。

でも計画は失敗した。


和貴が飲むはずの水筒の麦茶を母が間違えて飲んで死んでしまったのだ。

そこから崩れていって、健一が犯人では、というとっかかりをガク君に掴まれてしまった。

それから数時間後、健一から一通の連絡が届く。


以下がその内容だ。

"瑠璃子、もう俺はお前に協力出来そうにない。

今日俺が病室に行った時、恵美子さんから話を聞いたんだよ。

和貴に毎日暴力を振るってたのはお前の方だったんだってな。

ガク君と会うのをやめろて言いながら殴ってたんだろ?

和貴は一度も抵抗しなかったんだってな。

それを止めようとした和貴の父に殴られた傷をお前は和貴からの虐待だと言い張った。

その時の動画も見せて貰った。

この話を聞いてもう俺は自白する事に決めたよ。

ガク君とも会う約束をした。

お前、終わってんな。"


そこには瑠璃子という女性に一切の魅力を感じてない健一の冷たい文章が連ねられていた。


健一の言っていることは全て正しかった。

私は虐待される側ではなくする側だったのだ。

今まで必死にそれを隠してきた。

自分の身体に自分で傷をつけたりもした。

健一が和貴に怒号をあげようと私に相談してきた日も少なくなかったが、復讐するまで我慢しようと言い聞かせてきた。

でも、その努力の甲斐も虚しく計画は全て塵にかえってしまった。

その時私が思った事。

健一への殺意ではない。

和貴への殺意でもない。

私をここまで狂わせたガクくんへの独占欲。

ガクくんと出会ってしまったあの日に戻れたら、和貴の女装デートを許可しなかったら、などの後悔がどうしようもないほど大きくなっていく。


瞳から希望の光は絶え、母親の死体のある病室でただ呆然としていた。

その時だった。ガクくんから一通の連絡が届く。

それを見て私の心はガク君にだけ集中する。


私は初めて彼と会った場所である神社へと向かった。

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サイコパスが集まるとこうなる〜サイコパス純愛物語〜 @oootupai

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