第10話
〜〜〜〜〜〜
「考えたくないなそんな場合なんてよ」
電話の奥からそんな声が漏れる。
「ええ。もとより和貴を銃殺で仕留めるつもりよ。失敗した時の次の手は考えているけど期待はできない。次の手を使ったら私達が逮捕されると思った方がいいわ」
銃殺は失敗できない。そのプレッシャーに押し潰されそうだが頑張るほかないのだ。」
「で、その次の手ってなんだよ」
期待できないとはいえ知っておくべき情報である事に間違いない。
健一は私に質問を切り出した。
その質問の答えは和貴を殺す手段の候補として以前から考えていた事だ。
「毒殺」
呟く様に静かに言う。直接手を下さなくても殺せるが、誰が、何の容器で、どこで接種させるかによって逮捕されるリスクが異なる。
それについては思案済みだが問題はまだある。
その問題について健一が切り出した。
「毒の入手方法はどーするんだ?」
毒はそう簡単に一般人が入手できるものでもない。ヤクザなら持ってそうだし大門市はヤクザの群生地帯だ。
しかしヤクザから毒を貰うとなると私たちが毒殺するのが他人にバレる事になる。
リスクが大きすぎるのだ。
しかしこの毒の入手方法についても思案済みだ。
その方法はかなり入手方法として優秀である。
「うーん、というか毒を作るのよ。琵琶の種をすり潰すと青酸カリになるの」
「何処でそんな知識を、、」
「にちゃんまとめ動画よ。怠慢に動画を見てる時間も無駄じゃなかったって事が今証明されたわね」
くだらない冗談はさておき、まだ毒殺についての問題は残っている。
「で、どーやって毒を摂取させるんだ?」
「まーそれは場合に応じてって感じ?」
「"銃で撃った"という過程を経てるからな。その後のパターンはいくつもあるから計画を練れないのは当然か」
もし和貴の脳天を少しも掠らずに銃撃が失敗したなら本当にお先真っ暗だ。
和貴ならきっと私が銃撃しようとしたと気付くことができる。
それほどまでに怪物じみた頭脳を和貴は持っている。
失敗はできない。
「ええ」
健一の言う通り毒殺に関しては計画が組めない。
だから逮捕を覚悟の上で毒殺は臨まなければならないのだ。
「あらあら。もう和貴が教室を出たみたいなので行きますね」
教室の黒板の横に掛けられている時計を見て私は言う。
「じゃあな。健闘を祈る」
〜〜〜〜〜
そこで会話は終わりだ。
私は健一の兄が独り言の様に解説している二次関数の座標などが書かれた黒板を携帯のビデオに収めた。
「ではそろそろ」
そう私が言うとピタリと健一の兄は解説を止めて、
「そんな時間か。よし、この窓から出ろ!廊下には監視カメラが付いてる」
と脱出ルートを案内してくれた。
「了解だわ」
私は和貴に気付かれない様に大通りから回り込んで廃墟に向かう。
廃墟に着いたので隠しておいた子猫の入ったダンボールを廃墟の前の茂みに置く。猫に人一倍敏感な和貴なら子猫に気付くはずだ。
あと5分ほどで和貴が来ると位置情報から推測できる。
私は銃に弾丸を込めるために弾丸の入ってる袋を開けた。
「あれ?ええ?!、」
目を見開いて袋の中身を凝視した。
銃弾が1発しか入ってない。
「うっかりしてた、、、」
顔を手で覆いゆるゆると首を左右に振った。
ため息を出し絶望している私だが、もうすぐそばまで和貴が来ている。
たった一回きりのチャンスを銃に込めてスタンバイした。
これを外せば逮捕されておかしくない。
和貴なら私が銃殺しようとした犯人だと推察できるはずだ。
おぞましいほどに頭の良い彼なら。
廃墟の2階。205号室の窓から銃口のみを覗かせる。
足音が聞こえてきた。子猫が高い声で鳴き始める。
和貴の足音だと本能で理解した。
殺意が湧き上がり身体が痺れる感覚を覚える。
「よーやくガク君を私のものに!」
目の前に現れた標的に集中する。
案の定和貴は子猫に気づいてこちらの廃墟に近寄って来る。
標的との距離は6メートル以内が理想だ。
三ヶ月練習しただけあり、勘で標的との距離を把握することが可能だ。
あともうちょいで確実に撃てる圏内に入る。
ゆっくりと廃墟へと続く芝生を踏み進める和貴。
ついに和貴が射程距離の圏内に入った。
しかしその時私は少し怯んでしまった。
撃つ事自体が怖かったからではない。
実の兄を殺すと言う罪悪感からでもない。
和貴を殺したところでガク君を得られるとは限らない、と気付いたからでもない。
そんなのはとっくに承知の上だ。
覚悟は決まっている。
しかし私は怯んでしまった。
和貴にこちらを見られたから。
全てを悟っている様に、何もかも見通すかの様に、ほんの一瞬私を見て和貴は微笑んだ。
血の気がサッと引く。
しかし今まで募ってきた殺意が味方して私は引き金を引いた。
和貴殺人計画は本人に見抜かれていた可能性がある、その可能性を揉み消す様に私は和貴の脳天を撃った。
トスッという銃撃音が鳴り響き和貴が倒れる。
「やってやったわ」
あとはもう既に遺体となった和貴が救急搬送されるだけ。
私は廃墟の裏口から退去する。
現場には所有物を何も残していない。
私が殺したと言う証拠は何も残さない。
確かに殺したという実感を胸に私は塾の教室へと戻った。
教室の教壇では健一の兄が落ち着かない様子でウロチョロしている。
教室のドアを開けて私は健一の兄に言うべきことを伝えた。
「成功よ」
「そうか。良かったな」
「ええ」
電話にて健一にも伝えた。
「そっか、成功ね」
健一は無理に笑ってみせた。
複雑な感情が絡み合う健一は笑うことしかできない。
親友が殺されてしまった喪失感が少なからず健一にはある。
めんどくさと思ったが何も健一の為にする事も無いので電話を切った。
健一の兄も教壇に立ち、生徒である私の方へ向いた。
その時だった。
とある校内放送が教室に鳴り響く。
『槇原瑠璃子さん。至急職員室へお越し下さい。報告がございます』
私は健一の兄に「行って来るわ」と言った後落ち着いた足取りで職員室へと向かう。
職員室へ入ると1人のじいちゃん先生が「瑠璃子、あんたのお兄ちゃん今大変らしいんだ。大門総合病院って知ってるか?」
「お兄ちゃんが?!病院?まあ知ってます!行ってきます!!」
私は慌てて塾を飛び出す演技をした。
校舎を出てからは優雅に歩きながら病院へと向かう。
途中で母と合流したのだが、慌てっぷりが凄い。その様子から母は一応和貴の事を愛してたのかと安心した。
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