~After~キュンとして

 お昼も食べ終わって食堂を出ようとした時、何か揉め事が起こっているみたいで、その中心に行ってみたんだ。


 視界に入ってきたのは、背の高い男子生徒二人に絡まれている委員長と伊藤さんだった。


 私は近くにいた人に事情を聞いてみた。

 

 要約すると、委員長が絡んでいる男子の一人にぶつかって謝ったのにも関わらず、なかなか許してもらえない……という事らしい。


「あの、さっきから謝っているじゃないですか!」


「だ~から、それだけじゃ全然足りねぇの。

ちゃんと誠意……見せてくんねぇ?」


「これ以上……どうすれば……」


「それはさぁ……」


 うわ……あの人、委員長の体ジロジロ見てる……。

 委員長も危機感を感じて自分の体を腕でかばってる。

 なんなの、この間の葵ちゃんの時のナンパ野郎といい、この人達といい……。


「あの、こんな所でそういう発言、やめた方がいいと思います」


「一条さん……」


 委員長たちがこれ以上周りの人たちに醜態をさらされるのが見てられなくて、私は彼女たちをかばう様に前に立ちふさがった。


「あ? なんだお前」


「この子たちのクラスメイトです」


「へぇ~、王子様気取りか?

それに、お前みたいなヒョロイ奴に後ろの子たちが守れるのか?」


 冷静に……ここは食堂、冷静に。

 大勢の人たちがいるんだ冷静にならなきゃ。


「王子様とか、そんなんじゃないです。

この子たちの事、許してあげてください。

こんな大勢の前であなた達の発言、問題があると思います。

恥ずかしいと思わないんですか」


「別に?

最終的に事が終われば何の問題もねぇよ」


 うわ……開き直り……めんどくさ。


「あの人達、普段学校来ないのに……」


「ねぇ……なんで今日来てあんな風に絡んでるんだろう……」


 周りの人たちの会話からして……ヤンキー……という事?

 なるほど、こういう人たちもいるのか……。


「ねぇ、カーノジョ、こんな王子様ほっといて俺たちと学校抜けない?」


「きゃ、ちょっと……」


 あ、一人が私の後ろにまわって伊藤さんに絡みだした。

 しかも、強引に腕を引っ張り出したし。

 止めなきゃ……この人の腕を掴んで、伊藤さんにこれ以上危害が及ばないように……。

そして背後も取られないように……。


「あの、その手……離してくれませんか」


 冷静に……熱くなるな。


「あ? お前は引っ込んでろよ、王子様気取りが!」


 ……。

 ごめん、もう無理。

 冷静に下手に出てたのに、話を聞いてくれそうにないし、伊藤さんを引っ張ろうとする腕に力が入ったし、伊藤さんや委員長みたいな女の子に乱暴しようとするやつにこれ以上の情けはいらないよね。


「王子様、王子様うっせーんだよ。

彼女の腕を離せって言ってるのが聞こえないのか?」


 おっと……またしてもド低い声と口調が……。


「あ? 俺のダチに生意気な口きいてんじゃねぇ!」


 うわ、委員長に絡んでたやつが私に殴りかかってきた……でも。


 私は一瞬、伊藤さんの腕を掴むやつから手を離して、殴りかかってきたやつの攻撃をかわした。

 そして背を低くして、肘でミゾオチに一発入れた。

 

 思った通り、相手はミゾオチを抱えながら地面に伏した。


 そこへすかさず、伊藤さんを掴んでいたやつの手を掴んで再度申し出た。


「彼女の腕を……離してくれませんか」


「て、めぇ!」


 うわ、この人もか……めんどくさっ!

 これで……どうだ!!

 

 その人は伊藤さんの腕を掴むのをやめて、私に腕を掴まれたままでいたから、片方の自由だった手で殴りかかってきた。

 だから……すかさず殴りかかってきた腕をつかんで背負い投げたんだ。


「女の子に乱暴を働こうとしてんじゃねぇよ……ったく……」


「一条さん……口調……」


「へ……あ、やば……」


 口調……乱暴になったままだった。

 やってしまった……。

 まぁ、いいか。

 口調を戻して……。


「そんな事より、委員長と伊藤さん、ケガはない? 大丈夫?」


「う、うん……大丈夫……」


「私も……」


 あ……この反応は……マズイな……。

 周りもあっけらかんとしてる……。

 私によく差し入れをする子達まで棒立ちだ……。

 う~ん……どうしよう。


「お~い、ここで騒ぎがあるって……て……なんだ、理央、なんかしたのか?」


 あ、翔にぃだ!

 ナイスタイミング!……と言いたいところだけど、これはほんとにナイスなの?


「え~っと……」


「すみません、藤堂先生、理央にケガがないかちょっと保健室連れていきます。

説教ならあとで聞くので!!」


 あ、緋月が間に入ってくれた。

 って、どこ連れてくの?!


 緋月が私を引っ張り、人混みをかき分けて連れてきた場所は、翔にぃに宣言した通り、保健室だった。


「……誰もいないみたいだな……」


「うん……」


「理央、とりあえず、こっちに……」


 え……今度はベッド?!

 なんで?!

 ……ってなんだ……座れって事か……ちょっと焦った……。

 いや、期待したわけじゃないよ?

 ただね……ただ……すみません、なんか、いろんな思いが駆け巡りました。

 ……ハズイ……。


「……ケガ……ないか?」


「うん、ないよ」


「そうか……。

……ごめん」


「なんで緋月が謝るの?」


「……理央がケンカに強いのはわかってたけど……あーいう時、守れないのは歯がゆいな……って思った……だから……」


 あぁ……緋月……優しいな……。

 あんな風に絡まれた場合、私がそこそこ戦える事もあって、オサナ組は守るっていうより、共闘……って感じだった。

それか見守るのどちらか。


 でも、緋月は……守りたいって思ってくれてるんだな……。

嬉しい……。

これは……またもハウ、キュン……だよ……。


「ふふ……ありがとう。

守りたいって……思ってくれてるんだ……」


「そりゃ……彼女だし……出来るなら……」


「……そっか」


「理央が無事でよかった……」


 わ……ギュウだ……。

 こんな所で恥ずかしいけど、嬉しい……。


「……心配かけてごめんね……」


「いいよ……。

……あ、そうだ……」


「ん?」


「この間の……理央が浮気まがいの事をした時のお仕置き……ここでしてもいい?」


「え……」


「大丈夫、ちょっと触るだけ……」


 え……え、えー!!

 大丈夫って何?!

 ほんとに安心してもいいやつ?!

 って、キスまで!!


「んっ……ひづ……んん……」


 久しぶりに深いキスだ……。

 なんか……緋月の舌の動き……だんだんとイヤらしくなっていく……。

 上手……というか、慣れてきた……というか……。


「ぁっ……んぅ……ふっ……」


 やっぱり……このキス、おかしくなりそう……。

 あ、満足……したのかな……離れた……。


「……はぁ、はぁ……緋月?」


「ん?」


「触るって、どこまで……ひゃっ……」


 耳……舌で攻められてる……。


「あっ……ひづ……き……んん……耳……ダメ……」


 それに、腰にまわっていた手が……足に来たり、また上にあがってお尻に来たり……。


「やっ……ぁ……はぁ……」


「……お仕置き……ここまでな……」


 そう言って緋月は、チュッとリップ音を鳴らして耳を攻めるのをやめたんだ。


 これ以上があるんだよね……。

 

 緋月ならって思うけど、これだけでも恥ずかしいのに……。

 ほんと、私の心臓……今後ももつかな……。

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