~Another~緋月の想い

― 緋月side ―


 女は無理……そう思って過ごしてきたのに、まさか、好きになってしまうなんて。


 俺、雨宮 緋月あまみや ひづきは女難の相が出ていると思う。

占いとかはあまり信じないが、小さい頃からいい思いをした記憶がない。


 産みの母親が浮気して出て行ったり、二番目の母親も浮気や暴力をしたり……。

しかも、俺が感情を出すとヒステリック気味に暴力がひどくなる。

子どもながらに感情を抑え込むことを、覚えたきっかけかもしれない。


 中学に上がってから二人のひとと付き合ったが、二股に他者へのいじめ、あげく俺の家庭事情を知ると鼻で笑い、男で一つで育ててくれた父さんや俺の事をバカにした。

いや、俺の事はいいんだ。

けど、家族の事をバカにされるのは許せなかった。


 全員が全員そういう人達とは思わない。

だけど、あまりに重なりすぎて、疑心暗鬼を持ったまま高校に入学した。


 告白や声を掛けられる事もあったけど、どうせ……っていう考えがまとわりついていて、女は嫌という感情を表に出さないように全部断ってきた。


 いつだったか、女子からは態度とか冷たいと言われたことがある。

男子の前では普通に笑ったりできるのに、女子の前になると自分でもわかるくらい感情が乏しくなる。


そんな中、高一のクラスで一人、気が合う友達が出来た。


 水無月 隼人みなづき はやと、メガネを掛けていて敬語口調。

なんで敬語口調か聞いてみたら、小さい頃からの環境でクセがついていると言っていた。


 隼人には幼馴染が四人もいると言っていた。

そのうちの三人は同じ学校にいるとの事で紹介してもらったんだ。

みんな気さくで、中には女子もいたけど、俺が関わってきた女子とは違う印象を持つやつだった。

俺を初めてみた時も興味なさそうだったし、こういう奴もいるんだなと新鮮で、いつしか、そのメンバーでいる事が多くなった。

気が合って、一緒にいると楽しくて気が楽だったんだ。


 そうして俺たちが二年に上がる頃、隼人達がソワソワしだした。

 理由を聞くと、なんでも、もう一人、外国にいる幼馴染が帰ってくるとの事だ。

 その幼馴染も女で、男装してて、気さくでいい奴だと隼人は言っていた。


 女……か。

 しかも、男装?

 如月はいいが……どんな奴なんだ?

 まぁ、隼人が言うんだから、間違いないとは思うが……。


 噂の幼馴染がいよいよ転校してきた日。

俺は自分の目を疑った。

隼人からは男装で女だと聞いていて……だけど、実際に見たら、イケメン系男子だったんだ。

声も見た目も男子。

うまくやれそうだと安心した。


 一条 理央いちじょう りお

俺の席の隣だ。

思わず名前を呼んでしまったら、彼女はキョトンとした顔をした。

不意な呼びに後悔で顔をそらしたら、挨拶をしてきた。

それも、「隣になりました、一条です」って。

俺は思わず笑ってしまった。

引っ越してきました……みたいな言い回しに可笑しくなったんだ。


 俺の隣になる女子はだいたい猫なで声で話しかけてきた。

それがないのはすごく安心する。

相手が挨拶をしてきたんだ。

こちらも返さないと、さすがに礼儀に欠ける。


 少しだけど、彼女と話すとやっぱり女で……。

彼女の全部を否定するわけではない。

だけど、やっぱり中身が女という事もあって、隼人の幼馴染でも接し方には少し気を付けるのが現実。


 でも……本当に女なのか?

男女に分け隔てなく接して、球技大会でも、その他の授業でも見れば見るほど男に見える……。

ケンカも強いし、カッコよすぎだろ。

かと思ったら、料理を美味しそうに頬張ったり……。

自分を全く隠そうとしない……。

裏表がない……とでも言うのかな。

こんな女がいたのか……。

なんか……目が離せない……というか、見ていて飽きない。


 いつしか、彼女といると楽しくて、居心地がいい自分がいるのに気付いた。

でも、ふとした瞬間、女なんだと実感する。


 ふわっと笑う姿に不覚にもドキッとする。


初めての彼女との日直の日の朝、声を掛けると振り返ってくれたんだが。

その振り向きざまの彼女の笑顔……太陽の加減やら風になびく髪やらが相まってとても……とてもキレイだと思った。

男装なのに……なんでだ?


 覗いてくる視線も……上目遣いになっていて、可愛いとも思ってしまった。


こんな風に気になるのは、俺の好きなバンドのヴォーカルをしてるRIONN以来だ。


 でも、女と付き合うのは……。

そんな気持ちと、彼女を気にする自分がすごくせめぎ合っている。


 女に興味がないわけじゃない。

俺だって普通の高校生だ。

それなりに興味はあるが……過去を思うと、どうしても踏み出せないところもある。


 でも、彼女は……俺が関わってきたどのひと達とも印象が違っていて、彼女と関わっていくうちに彼女になら、俺の過去を話してもいいのでは……できれば……彼女の男装を解いた姿を見たい……なんて事も思った。

それは……俺にとってはすごく勇気のいる事で……新たな一歩になればと思った。


 彼女を知るたびに、彼女が他の人と話しているのを見てどうしてか嫉妬する自分がいる事に気づいた。


 そんなある日、彼女が俺と幼馴染を寝ぼけて間違えた日があった。

それをきっかけに、自分の気持ちに気づいたんだ。

彼女が好きだ。


 でも、自分の気持ちにまだ整理がついていない。


 とある日、彼女が憧れのバンドヴォーカルだと知った。

彼女が覚悟を決めて打ち明けてくれたんだ。

男装を解いた姿はやっぱり可愛くて、キレイだった……。

俺も……男にならなきゃと思った。


 でも……付き合ってからも、離れていくのが怖い、どうにか繋ぎ止めたい。

触れたい……触れるのが怖い……すごく、情けないと思う。

そんな葛藤を抱きながら日々を過ごしていたんだ……。


 本物を目の前にすると、感情がどうにかなりそうな時があった……。

だから、彼女の幼馴染からもらった写真に視線を落として、気を紛らわせることもした。

そのせいで、彼女を傷つけてしまったんだ……。


 なのに……君は優しすぎるから……。

怒ったり、ケンカしたりあったけど……それでもそばにいてくれるから……君に似合う男になりたい。

カッコよくて優しい君に……カッコイイって思ってもらえるように……俺の出来る事を精一杯やろう。


 もう……過去や自分から逃げない。

 そう、決めたんだ。

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