~After~見てくれませんか

 緋月に抱きかかえられたまま勉強部屋に来た私は、そのまま布団の上に座るようにゆっくり降ろされた。


 この布団はきっと、隼人だ。

 なんか手伝うとか言って勉強部屋を整理していたな。


 そんなことをフワフワする頭でボヤっと考えていたら、緋月が隣に座った。


「理央……ごめん」


「ごめんって……何に……。

私、ちょっと怒っているんだよ」


「……その……理央と距離を置いていたこと……とか」


 距離……置かれていたんだ……そんな感じはしたけど。

 でも、どうして……。


「距離って……どうして……。

私、緋月に何かしたかな……嫌いになった?」


「違う……。

嫌いになってない……むしろその逆……」


「ん?」


 緋月……顔赤い……言いにくそうにしてるな……。


「ごめん……やっぱり、明日……ちゃんと話す……。

今の理央……記憶があるか怪しいから。

こういうのは、ちゃんと話したい……今度は……逃げないから」


 ……まっすぐな目……。

 やっと……目が合った……。


「……緋月……好き」


 私は久しぶりに合った緋月の目に吸い込まれるように、頬に両手を伸ばし、彼にそっと口づけた。


 緋月はすごく驚いた表情だったけど、私はすごく満足して、緋月に笑いかけてそのまま寝落ちてしまったんだ。


 ***


 翌朝、目が覚めると目の前に緋月の寝顔があった。


 え……なんで?!

 待って、私、昨日何があったの?!

 たしか昨日は、翔にぃの提案でいつものメンバーでタコ焼きパーティーをして……。


 ん?

 私……梅のジュースしか飲んでないような気がする……。

 そこからの記憶があいまいだ……。

 なんか……バカバカ言われた気がするし、緋月に抱っこされた気も……。

 あ……なんか……うっすらと……。


 うっ……なんか……気持ち悪いかも……顔洗ってお水飲もう……。


 顔を洗って幾分かスッキリした状態で水を飲むためにリビングに行くと、視界に入ってきた光景に目を見開いた。


「……なんでこんなに散らかってるの?

皆、リビングにゴロ寝してるし……」


 かろうじてブランケットをかぶってるけど、この時期にそれは風邪をひくな……。

何か掛けるもの……あ、これ、昨日私が飲んだ梅ソーダ……って、これお酒?!


 私、翔にぃの飲み物に手を伸ばして飲んでしまったんだ!

 うわー……ジュースをお酒と間違えるなんて、どんだけ考え事してたんだろう。


**


 ……よし、片付けが出来る範囲で片付けも終わったし、皆には風邪をひかないように布団も掛けたし、どうしようかな……。

 勉強部屋に戻ろう……緋月……まだ寝てるかな……。


 私が勉強部屋に戻ると、緋月はすでに起きていて、いつものごとくスマホを見ていた。

私が急に部屋の扉を開けたものだから、緋月はすごく驚いた表情をしていた。


「おわ、理央?!」


「……おはよう」


「……はよ」


「……スマホ……最近見ること多いけど……何見てたか、聞いてもいい?」


「……笑わないでくれな」


「うん……」


 ん?

 手招き?

 なんだろう……。

 

 緋月の隣に座ってスマホを見せてもらったんだけど、その画面を見て今度は私が驚いた。


「え……私?

しかも、この間の後夜祭とか、葵ちゃんからの授業中の写真……。

なんで……本物……目の前にいるのに……」


「……本物を見ると……抑えが……利かなくなるから……。

だから……写真で……気を紛らわせてた……」


「……」


「理央に……離れてほしくなくて……。

どうにか繋ぎとめようと……考えれば考えるほど、手が出てしまうし……。

でも、それで理央を怖がらせたくないし……」


 それって……強がってた……っていう風に聞こえる。


「……付き合い始めた時に、いっぱい触ってきたのは……それでなんだ……」

 

「うん……。

理央の色っぽいのを見て……女というのを意識すればするほど……最近は触れるのも怖くなって……離れて行ってしまいそうで……」


 離れる……過去の出来事の……。


「でも、やっぱり男としての感情もあるわけで……。

触れてしまったら……その……最後まで……シたい……とか……でも、そうすると、離れてほしくない感情で理央を壊してしまいそうで……。


ごめん……結局、考えがまとまらないまま日にちは経つし、理央を傷つけた……。

本当にっ……」


 緋月の話を聞いて思わず抱きしめてしまった……。


「ごめん……俺、自分の事ばかりだ……情けない……」


「緋月……ずっと、自分と戦ってたんだね……。

ごめんね……私も……自分の事ばかりだった……。


私……離れないよ……。

緋月が私に何をしても……離れない。


これからの時間をかけて証明する。

だから……今後はスマホじゃなくて……目の前の私を……見てくれませんか」


 私は抱きしめていたのを離れて、まっすぐ緋月を自分の目に映して伝えた。

 彼に届くように。


 口ではいくらでも言える。

 だから私は、行動で証明するんだ。

 緋月の、過去の女性ひと達のように離れていかないことを。


「……理央……カッコよすぎだろ……」


「……ごめん……私こそ、独占欲強くて緋月を束縛するかも……」


「理央なら……いい。

むしろ……してほしい……かも」


「……緋月、緋月こそ……勝手に離れないで……。

緋月の事、ちゃんと聞くから……今回みたいに……勝手に離れないで」


「うん……ごめん」


「あ、ケンカは時にいいと思う。

譲れないものがあるからケンカになると思うし、それで私は離れたりしないから、ちゃんと言ってほしい」


「……わかった」


「それと……私……やっぱり、男装続ける」


「え……いいのか……。

女子の姿で隣を歩きたいって……」


「うん……でも……緋月を安心させたいし……。

緋月が見てくれるなら、喜んで男装する。

女子の姿は、デートとか家の中限定のレアな一面って事で」


「……男装の理央はイケメンだけど、可愛いとこもあるから……見とくし、レアか……そっか……」


 あ、緋月、嬉しそうに笑った。

 なんか久しぶりに見たな……。

 でも……。


「……男装が可愛いは、やっぱり変」


「そうか?

可愛いのに」


「緋月も可愛いよ」


「……理央になら、カッコイイって言ってほしいんだが……今の俺ではダメだな……。

俺も……今後をかけてカッコイイって言ってもらえるように頑張るから……俺だけを……見てほしい」


「うん……見てる」


「……」


「どうしたの?」


「……キス……してもいいか?」


「……いいよ。

ついでに触ってもいいよ」


「ついで扱いはイヤだ……。

それは今度、ちゃんとした時に……触らせて頂きます」


「ふふっ……なんで敬語……」


「……なんとなく。


理央……本当に……ごめん」


「うん……もう、いいよ」


 緋月からのキス……久しぶりだな。

 触れるだけのキスだけど、なんか、初めてした時みたいな……そんなキスだ。


 その後、仲直りした私たちはリビングに向かった。

 そこでは朝にも関わらず、起きた皆がタコ焼きパーティーの準備に取り掛かっていた。

 なんでも仲直りパーティーらしい。

 そんな気遣いをする皆に私も緋月もいつもの自然な笑顔がこぼれたんだ。

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