~After~理央の暴走

 私と葵ちゃんは保健室に来ていた。


「……理央ちゃん……ほんとにいいの?」


「うん」


「……じゃぁ……これ……」


「ありがとう、葵ちゃん」


 最初は兄の頼みでしてた男装……それは全然意味を成してなくて……。

 次に緋月の頼みでしてたけど……。

 本人は興味なさそうにしてるし、私を見ないでスマホばっかり見てるから……。

 なら、もう……男装の意味はないと思う。


 私はさっきまでの事を葵ちゃんに話しながら着替えた。

 葵ちゃんは黙って聞いてくれた。


「そっか……」


「うん……だから……男装解くことにしたの」


「わかった」


「よっし、お着替え終わり!

もう、今日から女子を楽しむ!!」


「……理央ちゃん……無理しないでね……」


「無理? しない、しない、大丈夫だよ」


 私と葵ちゃんはホームルームの時間を少し過ぎてしまったけど、教室に戻った。

 

 教室に戻ると、翔にぃを始めとして何人かが驚いた顔をしていたけど、私は気にせずに翔にぃに遅れたことを謝って自分の席に着いた。


 自分の席に着く時に緋月と目が合ったんだけど、今度は私から目を逸らしてしまったんだ。

 なんとなく、ほんとになんとなく目を逸らしたの。

 そのすぐ後に緋月の表情が視界に入ったんだけど……。


 どうして……どうして、緋月がそんなに傷ついた表情してるの……。

 やっぱりどう考えてもわかんないよ……。

 言ってくれないとわかんない事もある……。

 緋月の事なら……ちゃんと聞くし、受け止めるのに。


 そうして男装を解いて周りからは新鮮だと言われたり、声を掛けられる事もちょっとだけ多くて、男装の時より少しばかり賑やかな一日を過ごした。


  その日の放課後、翔にぃの宣言通り、いつものメンバーで家の近くのスーパーに寄って買い物をしてから私の家に行った。


「タコ焼きパーティーとか久しぶりだな! 今日は飲んで飲みまくるぞー!!」


「おい、翔にぃ、頼むからほどほどにしてくれ……。

そして甘いものは入れないでくれ」


「えー、陸君、ノリ悪いぞー」


「陸、飲み物と氷の用意お願いします」


「おい、葵! 天かすは多めにだぞ!」


「悠ちゃんこそ、入れる具材ちゃんとしてよね!」


 皆それぞれ準備に取り掛かっていて、私や緋月も食器の準備とか、いろいろ手分けして準備している。

 今もそうだけど、車の中とかは結構賑やかだった。

 たぶん、皆、気を遣ってくれてたんだと思う……翔にぃ以外。


「よし、それじゃ、かんぱーい!!」

 

 翔にぃ……ずっと元気だな……。

 皆もなんだかんだでワイワイしてるし。

 緋月は……相変わらず向こう側に座ってるし。

 今私の隣、左側に葵ちゃん、右側に翔にぃがいる。

 

 なんか……皆が焼いてくれるからやる事ないな……。

 いつもは私が料理するから新鮮というか、変な感じがする。


 あ、この飲み物美味しい。

 梅ソーダかな……こんな飲み物あったんだ。

 炭酸ってシュワシュワしててノドへの刺激が気持ちよく感じる。

 飲み過ぎはダメだけどね。

 あ……もう、一本空いちゃった……もっとないかな、冷蔵庫を見てみよう。

 

 あ、あった……うん……美味しい。

 というか、ここで立ち飲みはお行儀が悪いよね。

 もう一本だけ持ってテーブルに戻ろう。

 ん~……美味しい……。

 美味しすぎて何杯でもいけちゃうな。


 皆……楽しそうだな……。


「ねぇ、葵ちゃん……」


「どうしたの、理央ちゃん」


「ギュウ……」


「へ……」


「ふふっ……葵ちゃん……小さくて可愛いくて、優しくて……大好きだよ。

今日の葵ちゃん、いつも以上に可愛いから食べていい?」


「へ、あ、ちょ、理央ちゃん?! わ、待って! ストップ、ステイ!!

わー!!理央ちゃんが、理央ちゃんが変!! スキンシップ多め!!

何々、私どうなるの?! 明日死ぬの?!」


「おい、葵、落ち着け! というか、理央どうした?! 顔真っ赤だぞ?!」


「ん~?

「どうした」って……なんともないよ? 悠ってば変なの〜。

あ、そういえば……悠も可愛かったな……よし、抱きしめちゃえ!!」


「だー!! まてまてまて!! おま、抱きしめるな!! 胸に顔!! 

やめっ……ふはっ……窒息すんだろ!! 準人に陸、助けろよ!!」


「理央、おまえ、なん……」


「あーーー!!!

俺の……缶チューハイ二本も空いてるーー!!

梅ソーダ味8%!!!

しかもめっちゃ酔うやつ!!」


「「「なにーー?!」」」


「理央、まさか、飲んだのか?!」


「んー……梅?

あ、美味しかったよー」


「……やっぱりか」


「それで酔ってるんだな……」


「理央、そのままだと悠が危険です。

離れてください」


「……イヤ」


「おい、バカ理央、離れろ!

お前の胸で俺が窒息する!」


「イヤーー!!」


「子どもか!! 悠から離れろ!!」


「陸が意地悪するー!! 準人ー」


「はいはい」


「ふぅー助かった……今度は準人のとこに行ったな……」


「理央、緋月の前ですよ。

俺のところではなくて、緋月の所へ行ってください」


「……緋月は……イヤ」


「え……」


「……緋月……私を見てくれないんだもん……スマホばっかり……。

私……嫌われるような事……したかな……。

好きなのに……全然……笑ってくれないし、目も合わないもん……。

私ばっかり好きみたいで……イヤ」


「はぁ……理央が子どもみたいにねてます。

困りましたね」


「……おい、緋月……。

いい加減、男になれよ。


ずっと話さないって訳にもいかないし、逃げる訳にもいかないだろ。

理央なら……全部聞いてくれると思うし、受け止めてくれると思うぞ。


素直になれよ……。

じゃないと、本当に理央の心……離れるぞ」


「……素直じゃない陸に、素直になれって言われた……」


「素直じゃないは、よけいだ」


「そうだな……。

ちゃんと……理央と話す……記憶があるかわかんないけど……」


「なら、勉強部屋に行きましょう。

俺が手伝います」


「なんか……陸と緋月が話してる……何よ……私とは話してくれないのに……。

いいもん……このまま準人にくっついとくもん」


「おい、バカ理央、心の声もれてんぞ」


「理央……こっち……来てくれないか……」


「……私を見ない緋月なんか……知らない……」


「……ちゃんと理央を見る……もう逃げない」


「……なら……行く……って、わっ……あ、あの、緋月?! 横抱き!」


「お姫様抱っこな」


「ちょ、私に似合わないから、降ろして!

私、される方じゃなくて、する方なんだけど!!」


「ダメ。

俺にとってはされる方」


 私はそのまま緋月に抱っこされたまま勉強部屋まで向かった。

 その間、準人が緋月を手伝って勉強部屋の整理をしてくれた。


「まったく、世話の焼ける二人だな」


「うん……理央ちゃん、ちゃんと前みたいな笑顔になるといいな」


「なるだろ。

緋月の事もきっと大丈夫だ。

だって理央だし」


 リビングを出る時なんだけど、陸と葵ちゃん、悠のそんな話し声を聞いた気がするんだ。

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