~After~そっちがその気なら

 学校が終わって、私と葵ちゃんは昼間に言ったようにお泊りを含めて私の家で過ごしていた。

オサナ組の男子達には葵ちゃんが上手く言って二人だけにしてもらったんだ。


「さて、理央ちゃん……何があったの?」


「……緋月と付き合って、数週間経つんだけど……。

その……キスしたり……したのは最初だけで……最近は……なくて……」


「……」


「それに……最初は……触ってきたり……あったけど……それも……なくて。

最近は……スマホばっかり見てるし……。


今日も……目が合ったと思ったら、無表情で……。

他の女の子達に向けるような……視線だった……。


……私に……興味、なくなったのかな……」


「……緋ーちゃん……他の子の前だと、冷たいし、無関心なのに、理央ちゃんの前では楽しそうにしてた……。

でも、最近は……たしかにスマホばっか見てる……」


「やっぱり、私に魅力がない……とか。

いっそ、男装をやめて……あー……でも、緋月のお願いでこの姿だし……」


「理央ちゃんは十分、魅力的だよ。

最近の緋ーちゃんはたしかに変かもしれないけど、理央ちゃんを想っているのは間違いないと思う……。


理央ちゃんが迷ってる中で、もし、男装を辞めたくなった時、対処できるように私、理央ちゃんの制服とか着替えを一式持つよ!!」


「でも、葵ちゃん……それだと、荷物多くなるし、重いよ……」


「理央ちゃんの役に立てるなら、お安い御用だよ!!」


「葵ちゃん……ありがとう~」


「わ! 理央ちゃんからのギュウだ!!」


「話し、聞いてくれてありがとう!

緋月のお願いという事もあって私、もう少し男装したまま頑張る!!

葵ちゃんのおかげでちょっと元気出たかも!」


「うん! 理央ちゃんは笑顔が一番だよ!!」


 葵ちゃんのこういう優しさいいな。

 時々葵ちゃんの行動とか、ノリにはびっくりする事もあるけど、葵ちゃんが側にいてくれるだけで心強い時がある。


 それから私達は時間が許す限り、学校の話とか、ライブ衣装の話で盛り上がった。



**


 それからまた二、三日が経った頃。

 相変わらず、緋月とは何もない。


 なんなんだろう……緋月ってば……何を考えているの。


 緋月との事が何もわからない状態で、今日も一日が始まる。

 そしていつも通り、玄関先でお菓子をもらったりしながら教室に着いた。


「おはよう~」


「よ~理央。

今日もすごい量だな」


 陸が私の席を占領してる……。


「うん……。

なんか……日に日に多くなってる気がする」


「だなー」


「あ、緋月、おはよう」


 緋月……もう、登校してる。

 

「ん、はよ」


 相変わらずそっけない……。

 はぁ……なんなんだろう……。


「ねぇ、悠……」


「どした?」


「今日、家来る? 週末だし……」

 

 なんか……今、誰かといたい気分かも……。

 オサナ組を誘ってみよう。

 緋月は……来るかわかんないけど……。


「あ! なら、タコ焼きパーティーしようぜ!!」


「わ! びっくりした! なに!

……って、翔先生か……」


「おい……なんだ、その反応は……。

人をお化けか何かみたいに……」


「ご……ごめんなさい……」


「まぁ、いいけど。

んじゃ、今日の放課後、理央の家でタコ焼きパーティーな!

いつものオサナ組と緋月も参加! 決まり!


あ、それと、この間の数学の宿題を皆から集めて職員室に持ってきてくれ。

週明けの日直は緋月と理央だろ? よろしくな!」


「はい?! なんで来週の日直の仕事を今させるんですか!

今日の日直がいるでしょう?!」


「ま、そゆ事だから! じゃぁな!!」


「……行っちゃった……なんて自由な先生なの……。

緋月……用事、済ませよう……」


「ん……」


 ん……って……。

 いくらなんでも愛想無さ過ぎじゃない?!

 なんなの、皆して!

 勝手すぎ!!


 とりあえず、翔にぃの用事を私と緋月は済まして職員室の帰り道、まだホームルームの前の賑やかな廊下を歩いていた。


「……」


「……」


 二人して無言。

 緋月はあれから喋ってくれないし、最近はほとんど目も合わない気がする。

 なんなの?

 好きって言ったよね?

 私達、付き合ってるよね?

 ……わからない……最近、緋月の事がわからない……。

 こうなったら、聞いてみよう。


「ねぇ、緋月」


「ん?」


「……最近、私達、会話がないと思うの」


「ん」


「……いや、「ん」じゃなくて!

なんなの?!

最近会話ないし、二人で帰る事もないし、手すら握らないし?


前はあんなにイチャイチャしてくれたのに!」


「あー……それは……」


「それは……何?」


「……いや……なんでもない……。

それより……理央って、男装しててもモテるよな……」


 ……え?

 いやいやいや、「なんでもない」じゃないよ。

 しかも、「それより」?「男装しててもモテるよな」?。

 欲しかった答えはそれじゃない。


 ごめん、緋月……さすがの私も堪忍袋の緒が切れますよ。

 いろいろ聞こうと思ったけど、そっちが話す気ない様子で、しかも話を逸らしたから、もうこれ以上緋月からの行動とか言葉を待たなくていいよね?


「……最近の緋月……何がしたいのかわかんない……。

何か不満とか、言いたい事があるなら言ってよ!


スマホばっかり見てないで、目の前の私を見てよ!!

緋月が……男装して欲しいって言うから、この姿なのに……。


私だって、本当は女の子の姿で緋月の隣を歩きたいのに!

どんな姿だろうと、誰にモテたとしても、本当に好きな人に見てもらえなかったら、何の意味もないんだよ!


緋月のバカ!!」


 私は吐き捨てるように緋月に言葉を残して、賑やかな廊下を全速力で駆けた。

 そして教室に着いて真っ先に葵ちゃんを探した。


「葵ちゃん!! 私を女にしてください!!」


「わぁ! びっくりした!

どしたの理央ちゃん……」


 葵ちゃんは私の席の近くでオサナ組と話していた。

 そんな葵ちゃんに背中から話し掛けたから、振り返った葵ちゃんはすごく驚いた顔をしていた。


「お願い! もう男装やめる!!」


「り、了解……。

とりあえず、保健室行こう」


 そう言って葵ちゃんは大きいカバンを持って、私と保健室に向かってくれた。

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