~After~葵の暴走
ホームルーム中に席替えをする事になった私達は、順番にくじを引いていき、全員が引き終わった所で黒板に書いてある番号の所に移動を始めた。
「……え~っと……番号は~……あ、この席だ。」
私の席は、結構真ん中の方に位置していた。
「お、理央が隣か。
ラッキー。
勉強教えてくれ!!」
「……私に頼らないという選択肢はないの? 悠……」
「ない!!」
悠は私の左隣か。
それにしても、そんな眩しい笑顔で断言されても……。
「あ、俺も理央の隣です。
よろしくお願いします。」
準人は私の右隣か。
オサナ組に挟まれちゃった。
まぁ、でもまた楽しそうな席だな。
私の前の席はオサナ組以外の男子が前で……。
緋月はどこになったんだろう。
「理央の後ろ」
「わ! びっくりした……」
「ふっ……今、俺の事探したろ……。
キョロキョロしてた」
「そ、そんな事ないもん。
別に……探してないし……」
「ほんとか?」
「……」
「やっぱりな……ふっ……」
「……笑わないで」
「……ごめん……ふっ……」
もう~緋月ったら、全然笑い治まらないな……。
でも、緋月が後ろか。
また近くに慣れてよかった。
葵ちゃんと陸はどの辺になったんだろう。
「……なんで……なんっっっで私がこの席なの?!
しかも、隣は陸ちゃんだし!!! 私も理央ちゃんの隣がよかった!!!」
「おい!どういう意味だ葵!!
俺だって、こんな席ごめんなんだが!!
こんな一番前の席とか!!」
あ、葵ちゃんと陸は私達より、もう少し右側の一番前の席なんだ。
「……まぁ、あれだな……日頃の行いじゃないか?
とりあえず、ホームルーム中に席が決まったようで安心だ。
二学期はこのままでいくぞ」
「「えーーー」」
「「「はーーい」」」
わー……見事に葵ちゃんと陸の声が皆の返事に重なった……。
まぁ、くじで席番もランダムだし、しょうがないよね。
***
席替えも無事に終わって、授業が着々と進んでいった。
時はすでに四時限目の数学、翔にぃの授業だ。
「~で、この公式を使う……んだが……この練習問題、誰に解いてもらおうかな」
練習問題か……簡単だけど、今日はなんだか前に出て解くのがめんどくさい……。
こういうのはだいたい、目が合ったら指名されるから、そうならないように……。
ってヤバ、目が合った!!
「……おい、理央……あからさまに目を逸らすんじゃない。
さすがに傷つくだろ……」
「い、いや~……はは……。
だいたい、翔先生もなんでこっち見たんですか」
「後ろ振り返って、真っ先に視界に入るのがお前の席だからだ」
「じゃぁ、振り返らないでください」
「無茶言うな……
ん~……じゃぁ、しょうがないから、理央が解いて」
「しょうがないからは私のセリフなんですけど……」
結局指名されるのか……。
うーん……なんだろう……勉強は好きだけど、今日はなんだか乗らない日だ。
こういう日は歌詞とか作曲に励みたい。
でも、学生で授業がある以上そんな訳にもいかない。
もっと時間があればなぁ……。
私が黒板の前でボヤっと考え事していたら、後ろの方から呼ぶ声が聞こえた。
「ねぇ、理央ちゃん、左側からこっちみて」
左側? なに? 何があるんだろう?
「な……に……」
(カシャカシャカシャカシャ)
「……」
え、何?
葵ちゃん、いつの間に後ろにいたの?
スマホ構えてるし。
さっきの音はカメラの音?
しかも連写……。
「……おい、葵……何してるんだ?」
あ、私より先に翔にぃが聞いてくれた。
「推し活!!
だって、長袖のブラウスを腕まくりして、左手は腰に当ててるし片足に重心を掛けて、右手は文字書こうとしてるし、その後ろ姿がカッコよかったから!!
振り返ったら、もっとカッコいいと思ったから、カメラをスタンバった!!!」
なるほど……なるほど?
「俺の授業中に推し活って……」
「だって、理央ちゃん成分が不足気味なの!!
理央ちゃん隣じゃないし、一番前の席だから授業でよく当てられるし!!」
そういえば、席替えしてからの授業、葵ちゃんいつもより当てられてたな。
しかも全部惜しい答えばっかり……不満が爆発したんだな。
「だからってお前なぁ……」
「ちょっとだけ、ちょっとだけでいいので、理央ちゃんの勇姿をたくさんカメラに撮らせてください!!!」
「……ちょっとだけだぞ」
はい?!
ちょっと、なんで翔にぃが許可してんの?!
許可は私がするもんでしょ?!
てか、葵ちゃん、すごく喜んで飛び回っているし!!
こんな狭い所でそんな風に飛び回っていたら!!
「わ、きゃっ?!」
「葵ちゃん!!」
やっぱり!!
せめて、背中で!!
「いだっ……」
狭い所で飛び回っていた葵ちゃん、案の定机の脚に引っかかって転びそうになった。
そんな葵ちゃんをとっさに抱き留められたけど、反動で顔面から倒れそうになったのを体幹を上手く使って体を半回転させて、背中から地面に倒れ込んだ。
「おい、理央大丈夫か?!
なんか、鈍い音なったぞ!
頭とか打ったんじゃないか?!」
「……」
「理央ちゃん!! 大丈夫?!」
大丈夫?
大丈夫だよ。
でも、そんな事より、葵ちゃんに伝えたい事がある。
立って……これは伝えたい。
「……ねぇ、葵ちゃん」
「ひっ……」
葵ちゃん、小さく悲鳴上げた。
それもそうか……だって今の私……ものすごく怒っているんだから。
こんなに怒りが溢れたのはいつぶりかな。
いつもの笑顔を作る余裕なんてない。
それに、声だって男装の時の低い声よりさらに低くて静かな声だ。
今の私がどんな表情かはわからないけど、以前、準人に「理央が本気で怒ると表情から一切の感情が消えますよね」と言われた事がある。
「推し活するのはいいけど……それでケガするくらいなら推し活やめて。
……いらない」
推し活……恥ずかしいけど、するのは大いに結構。
だけど、それでケガしてほしくない。
ケガするくらいなら、推し活なんてしないで欲しい。
そう思っての事だけど、葵ちゃんに伝わったかな。
「ご……ごめんなさい……」
あ、葵ちゃんシュンとうな垂れた。
反省してるのかな。
葵ちゃん、反省しているみたいだし、この辺でいいかな。
そういえば、昔、こういう風に葵ちゃんを怒った時あったなぁ。
私はふと思い出して、自然と葵ちゃんの頭に手が伸びた。
「はぁ~……。
葵ちゃんにケガがなくてよかったけど、お願いだから、もう少し落ち着き持って……。
今後もその調子だと、身が持たないじゃん」
「理央ちゃんが……頭ナデナデしてる……。
私に一生、彼氏ができないのは理央ちゃんのせいかも……」
「……彼氏って……なんで……」
「イケメンすぎる理央ちゃんがそばにいるから、他の男子がかすむ」
「それは……男子に失礼と思う……」
「……なぁ……。
二人の空気を造らないでくれないか?
とりあえず、理央は大丈夫なんだな。
なら、早く答え書いて席戻れな。
葵も、カッコいい勇姿見れただろ。
抱きかかえられてたし」
あ、今授業中だった。
とりあえず、葵ちゃんも席戻ったし、私も早く戻ろう。
あとでちゃんと仲直りしなきゃ。
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